日本では年間100件以上完全犯罪が成立していると言われている。
2016年に起きた「長母寺」騒動を覚えているだろうか。
某オカルト系チャンネルでも紹介されていたので記憶に新しい方もいるだろう。
1.八年前のメール
八月某日、仕事用のメールフォルダを整理していると一通のメールが目に留まった
「娘が殺されたかもしれないです」という件名のメール。
それは、今から八年前に送られてきたものだった。
メールをくれたのは、恵川由美香という当時八十歳の女性。
交通事故で亡くなった娘が本当は誰かに殺されたのではないかという主張。
できることなら協力したい。でもこのメールは八年前のもので、恵川さんはもう八十八歳。
今更電話をして、嫌な思い出を掘り起こさせ、再び苦痛を味合わせてしまわないだろうか。
そんな錯綜の中、「何年でも待ち続けます」という言葉を貴び、私は思い切って電話をかけることにした。
2.「恵川」さん
以下、恵川さんとの会話を記載する。
恵川:どちら様ですか。
在怪:もしもし、存怪と申しますが恵川由美香さんの電話であっていますか?
恵川:存怪..?実は、由美香は2年前に亡くなって、私は夫のさとしと申します。
私はなぜ8年もこのメールを放置していたのだろう。今までの自分を憎みました。
どうにかしてさとしさんの力になれないかと、当時の状況を教えてもらおうとしました。
恵川:もう8年前のことですしね。あまり覚えてないし、書類送検された人もいたけど不起訴処分になっちゃってるからね・・
由美香は「私の子は殺されたんだ」ってうるさかったけど、冷静に考えて警察が事件じゃないって言ってるんだから。
素人が反抗しても無駄だって僕はずっと言ってたんですけどね。
思ったより冷淡なさとしさん。時間の経過が被害者家族を冷静にしていた。
恵川:なのでそんな気負いせず、忘れちゃって大丈夫ですよ!わざわざ連絡ありがとうございました。
私はこの電話に奇妙な違和感を覚えた。
しかし、そんなことは言ってられない。
私のせいで由美香さんはこの件の真相を知らずして亡くなってしまった。さとしさんの言っていることはまっとうで正しい。でも何もしないと由美香さんへの申し訳ない気持ちが晴れない。
そんな思いで私はこの件について少し調べてみることにした。
しかし、事故が起きたのは8年前で、巷でもオカルトチックに語られているため、真相解明に関係する情報が乏しく、諦めるしかなかった。
最後の砦として、ダメ元で知人のHさんにこの一件を相談してみることにしました。
以下、Hさんとの会話を記載する。
在怪:Hさん、お久しぶりです。在怪です。
Hさん:あぁ、在怪さん。どうかしましたか?
在怪:あのぉ..実は…
さとしさんに聞いた話を事細かに伝えた。
在怪:ってことがありまして。情報源が当時の地方ニュース記事しかないんですけど、これだけで真相解明は難しいですよね?
Hさん:これって八年前に起きた有名な事故ですよね。今となってはオカルトチックに語られてますけど、私は普通に自殺だと思いますよ。
私はこの件あまり詳しくないので、この記事は初めて見ました。この記事の内容が本当なら、かなり面白いことになってきますよ。
ところで、この事故に関する方法はこれだけですか?
在怪:軽く調べてみましたがこれだけかと。さとしさんもこれしか知らないとおっしゃっていたので。
Hさん:在怪さん、考えてみて下さい。恵川さんは八十代後半です。そんなネットに疎い高齢者の情報は信じてはいけません。
もう一度自分で調べてください。それでも何もなかったら諦めましょう。何かわかったらまた連絡ください。
私は、事故に関する数少ないキーワードを組み合わせ、もう一度必死にネットで調べつくしました。するとYouTubeで当時のニュース動画が残っていました。
これは…
3.手がかり
在怪:Hさん、あの後必死に調べていたら、当時のニュース動画を見つけたんです。今送ります。
そこで分かった情報を元に検索してみたんです。これ、見てください。
事故で亡くなったとされている野村尚美さんは、事故の一週間前に不倫していたことがバレ、夫婦間でできた子供を中絶していたそうです。
Hさん:そして夫の和正さんは事故時にライブ配信をしていた。不倫相手の西本は書類送検されるも不起訴、でしょ?
そんなことは誰でも知っているんですよ。
依頼者も殺害動機がある二人を怪しんでるけど、両方アリバイがあるから事故で片付けられてるって話をしています。
問題はそこからです。これが事件だと思うなら、それに付随する情報がないといけません。
そもそも警察が判断したことに抗うってドラマの中での話ですよ。恵川さんも半ば諦めているみたいだし、
これ以上調べても無駄だと思いますよ。
どうしても心残りがあるなら、事故現場に行ってみてはどうです?長母寺の住職にインタビューとか。できることはそれくらいしかないんじゃないですかね。
その手があった!
私はHさんとの電話の後、名古屋に直行した。
そして、ニュースの情報を頼りに事故現場の「木ヶ崎公園」についた。
スケジュールの都合上、到着したのは午後六時を過ぎていた。
ここが転落事故現場だ。
事故現場を散策している内に、辺りは暗くなった。
本来の目的である長母寺の住職に話を伺わなければ。
気づいたときにはもう遅かった。
時刻は七時を過ぎようとしていた。
長母寺を訪ねた時、そこには誰もいなかった。
仕方なく帰路につく。
帰宅後、今更ながら長母寺のホームページを見てみた。
そこには寺の電話番号が記載されていた。
初めから見とけばよかった、と後悔する。
翌朝、電話した。
住職の証言
住職:はい。こちら長母寺です。
在怪:もしもし、在怪と申します。八年前に起きた野村さんの事故の件でお話を伺いたいのですが、当時の担当者の方ってお見えになられますか?
住職:あぁ、それなら私です。当時のことは鮮明に覚えているので、私でよければお話しします。
在怪:ありがとうございます。
ではまず、事故直前に尚美さんは生前供養をしに来たとのことですが、その時尚美さんの様子はどうでしたか?
住職:五十八歳で生前供養をしにこられるのは結構珍しくて、疑問に思ってなぜこんな若いのにしに来たのか聞いてみたんです。
そしたら、持病をもっていて、母親も六十歳で亡くなってしまったので、いつ死んでもおかしくないからとおっしゃっていました。
この時、正体不明の気持ち悪さに苛まれた。
在怪:なるほど。それでは次にお聞きしたいのですが、110番通報されたのは凪咲さんですか?
住職:はい、私です。尚美さんが寺から出て十秒後くらいに大きな転落音が聞こえたので、急いで様子を見に行って通報しました。
在怪:何時ごろか覚えていますか?
住職:ニュースにも出てると思いますが、午後8時です。
在怪:聞きたいことは聞けました。朝早くにありがとうございました。
違和感の正体
Hさん:うーん、なるほどぉ。これは住職も加担してますね。
在怪:え?!どうして急に?
Hさん:在怪さん、よく考えてみてください。
住職は、野村さんの母親が六十歳で病気で亡くなったと言ってましたよね?
野村さんの母親はこの件の依頼主、恵川由美香さんです。何歳でしたっけ?
在怪:あっ…八十歳…
Hさん:まぁこれだけでは自殺を図った尚美さんが嘘をついただけの可能性はあります。
ただ、在怪さんが長母寺に行った時刻は何時でしたか?
在怪:木ヶ崎公園には五時過ぎに着きましたけど、長母寺に行ったのは七時くらいでした。
Hさん:その時長母寺はやってなかったんですよね?
在怪:はい。
<strong>Hさん:私、長母寺に問い合わせしてみたんです。
そしたら、当日最終受付は午後四時、ネット予約は一ヶ月前からと回答が来ました。おかしいですよね?
尚美さんの生前供養が終わったのは八時前、供養に要する時間は最大でも二時間。辻褄が合いません。
在怪:何が言いたいんですか?
Hさん:つまり、野村さんを殺したのは長母寺の住職、と言うことですよ。
在怪:え?でも赤の他人をなぜ殺す必要があったのでしょうか?
Hさん:そこが引っかかる点ですが、事故当日に尚美さんと接触した人で唯一言ってることがかみ合ってないんですよ。
在怪:じゃあ凪咲さんと尚美さんになにか関係性があったとしたら?
Hさん:間違いなく黒です。
在怪:でもここからどう調べるんですか?やれることはもう尽くしたと思うんですけど。
Hさん:この件に関する情報を並べましょう。
まずは和正さんのブログ、YouTubeチャンネル
当時のニュース、記事
住職への取材
情報はこれ以上ないと言っていいでしょう。あとはこの情報の中で矛盾点や違和感を探しましょう。それをつなげれば何かがわかるかもしれません。
Hさんの推理
あれから数日。ここ最近はあのことで頭がいっぱいになっていた。
しかし、なかなかこれといった答えにはたどり着けていない。
(やっぱりただの事故だったのかな?…)
一旦忘れよう。外出の支度をしようとしたその時、
電話が鳴った。
在怪:もしもし。
——————————Hです!
在怪:(えーっ…今かよ…)あ、Hさん。お久しぶりです。
Hさん:あれからずっとあのことを考えてたんですよ。
そしたら僕たち重大なことを見逃していたことに気づきましてね。
在怪:重大なこと?
Hさん:第一に、尚美さんを殺害する動機があるのは現状夫の野村和正か不倫相手の西本永戸ですよね。
野村和正は今まで順風満帆な結婚生活をし、子供も生まれる予定だった。
にもかかわらず突然、不倫と中絶を告げられる。
西本永戸は結婚前提で付き合っていたであろう女性が突如ほかの男性と妊娠してしまう。しかも既婚者だったことを知る。
これは殺害動機として2人とも十分すぎるほどです。
でも彼らは捕まらなかった。
野村和正には事故が起きた時間、「YouTubeで生配信していた」という揺るぎないアリバイがある。
でもよく考えたらこんなの、アリバイ証言として成立しないんですよ。
在怪:え、なんでですか?
Hさん:今の時代、事前に用意した録画映像をライブ映像風に見立てて配信することは容易です。
それでヤラセが発覚して大炎上した某グループをご存じないですか?
在怪;なんかあったような…。
じゃあ西本のはどうです?アリバイは…同級生と飲み会だった気がします。
Hさん:それもアリバイとしては成り立ちませんが、たぶん彼は白です。一番怪しいのは野村和正です。
ここからは事実をもとに私が推理します。話半分でお聞きください。
まず、野村和正の最後のブログ、最後から二行目を見てください。
「とてもショックで注意力が不足し、今朝階段から転げ落ち、両足骨折してしまいました。」とありますが、これはおかしいです。
彼のブログを一通り見ましたが、彼の住む家はマンションで当然二階なんかありません。
十二階に住んでいるという記載もあったので、一階への上り下りもエレベーターで移動してるはずです。
なので、彼が日常生活で階段を使うことはありません。
使うこともあるでしょうけど、階段から転落で両足骨折という非現実的な暴論よりも、説明がつくことがあります。
事故はかなり落差があるところで起きています。車内にいる人はかなりの確率で死にます。
でもこの事故で死んだのは尚美さんだけ。
これが事故に見せかけた他殺だとしたら、犯人は車が転落する前に脱出しなければなりません。
つまり、運転席に乗っていた人物は転落直前に車から飛び降りた。
その着地の衝撃で両足を折ってしまった。という風に考えることができます。
在怪:辻褄はあっているような気もするけど…
Hさん:この考えがあっているとすると、
助手席のドアが開かないように改造されていた理由もわかります。
犯人は転落する直前に車から飛び降りた。この間に尚美さんも逃げる時間は少なくともあったはずです。
でも逃げれなかった。それは助手席側の扉が開かないように改造されていたからです。
在怪:でも車の持ち主は西本さんですよ?
Hさん:実は、在怪さんが名古屋まで視察に行っているときに私もこの件について調べていまして、こんなものが見つかったんですよ。今送りますね。
在怪:これって…
Hさん:はい。事件が起きる数日前に、トヨタのラウムで助手席の扉を開けなくする方法を知恵袋で募集しています。
IDをみても野村和正で間違いありません。
これだけではありません。
和正さんの事故当日の配信をご覧ください。
※顔は隠してあります
この日の配信はゲーム実況。一見、何ら変哲のない普段の配信に見えるかもしれません。
ですが、この日の配信ではある1人のコメントしか拾わないんです。
それがこの「W・Forever」というチャンル。
極め付きに、いつもは必ず反応するスーパーチャットを拾わないんです。
1つ前の配信では1000円のスーパーチャットが7件来ていたんですが、すべて反応しています。
ですが今回は、1000円のSCが9回も来ているのにも関わらず、1回も反応していないんです。
いや、できなかったんです。
在怪:つまり…
Hさん:この配信は録画であるという証拠になります。
録画だと疑われないように、あらかじめ用意していたチャットを読むことであたかもLIVEであると視聴者を騙し、この配信を見ていた6.8万人を証人と仕立て上げる。
これが野村和正のアリバイ工作です。
そもそも、野村さんの配信は雑談→ゲーム実況→お悩み相談 のサイクルで3年間続けてきました。
ですがこの日は雑談→ゲーム→ゲーム と3年間1度も崩れなかったサイクルが崩れたんです。
それもそのはず、雑談やお悩み相談は、チャットを膨大な数読まなくてはなりません。
ゲーム実況はどうでしょう。比較的チャットを読む数は少なくて済みます。
つまり、チャットをあまり読まなくていいゲーム実況の方が都合が良かったのです。
結果、野村和正は7万人を洗脳し、アリバイの証人に仕立て上げた。
在怪さんがメールに一生気づかなければ完全犯罪になっていたところでしたよ。
在怪:こんな重大な事件をほったらかしにしていてすみませんでした。
Hさん:私はいいですが、このことを警察やさとしさんに報告したほうがいいんじゃないですか?
在怪:あっ、そうだ。さとしさんに報告してきます。
報告
さとしさん:どちら様ですか?
在怪:お久しぶりです。在怪です。さとしさん、この前の事件の件なんですが…
さとしさん:あぁ、それですか。ですから、もう大丈夫ですよ。
在怪:いや、そうじゃなくて、解決しました。
さとしさん:え?
在怪:真相がわかったんです。恵川さんたちがおっしゃっていたように、事故ではなく事件でした。
さとしさん:そ、そうなんですか。犯人もわかったんですか?
在怪:はい。そのことなんですが、犯人は分かったものの、どこにいるのかは不明なんです。
これから警察にいって相談してこようと思うんですが、ご同行願えますか?
さとしさん:いや、僕らは事件であることがわかればそれでいいんです。
犯人は許すことはできませんが、いまさら捕まえたところで警察にも労力をかけてしまいますのでもう大丈夫です。
真相解明お疲れまでした。本当に感謝しています。
これ以上大事にはしたくないので、警察にはいかなくて大丈夫ですよ。
この電話にも違和感を覚えた。
After Talk
Hさん:うーん。殺人犯を野放しにしとくのもどうかと思いますけどね。
在怪:それもそうですけど、一応これすべて古市さんの妄想ですよね?信憑性はかなりありますけど事実だとは限らないんで。
Hさん:それもそうですね。万が一この話が事実だとしても、そっとしておいてあげましょう。
一生独身の私たちには共感できない話題です。
在怪:一緒にしないで欲しいな。
これですべてが終わった。そう思っていました。
八年越しの恐怖
あの一件が解決した後、何も音沙汰なかったHさんから突然電話が来た。
Hさん:在怪さん、今朝のニュースみましたか?
Hさんは今までにないくらい焦っていた。
在怪:見てません、どうかしたんですか?
Hさん:いまから動画送るので見てください。
これって…
Hさん:私の推理は完全にあっていました。しかし、見落としていたことのほうが大きいかもしれません。
在怪さんが最初に電話をかけた相手、そして昨日事件でしたと報告した相手、それが野村和正ですよ。
在怪:えっ?!どういうことですか?
Hさん:落ち着いて聞いてください。
実は、野村和正と西本永戸はグルだったんです。
まず、和正さんと尚美さんは夫婦です。
そして、西本永戸は凪咲という方と結婚していました。
そこで、西本と凪咲は不倫をしたんです。
不倫が二人にばれた尚美は殺害されます。
そして…不倫された二人、和正と凪咲(以下、「現西本夫婦」と記載)は再婚しています。
存怪:えっ?どうしてそれを?
Hさん:今朝のニュースを見た後、もう一度和正さんのブログを確認してみたんです。
西本永戸さんが亡くなったのは昨日。
そして今日このブログか更新された。怪しくないですか?
そもそもこんな浅い川で、況してや大の大人が溺れて死ぬわけないんですよ。
存怪:まさか…
Hさん:そう、永戸さんも殺された可能性が高いということです。
存怪:また推理ですか…?
Hさん:まぁ、そうですが。全て事実に基づいているので信憑性はかなりありますよ。
存怪:はぁ。
証拠隠滅
Hさん:今回、西本親子が死亡した件で殺害動機があるとしたら和正さんと凪咲です。
その動機分かりますか?
存怪:凪咲さんが不倫された恨み..とかですか?
Hさん:それもあると思いますが、八年越しに殺すにしては遅すぎです。
彼らには、今このタイミングで殺さないといけない理由があったんです。
それは…
存怪さんの存在です。
存怪:えっ………..
ちょっと、どういう意味ですか?
Hさん:ほら。昨日報告したでしょ?”恵川さとしさん”こと野村和正に。
仮に今までの話が全部本当だとします。
和正さんは永戸さんと共に尚美さんを殺した。
そして、八年間バレなかった真実が今となって存怪さんに暴かれる。
存怪さんから「犯人を特定した」という連絡が入って焦ったんでしょう。
ほら、初めの方だって真相解明にあまり乗り気じゃなかったでしょ?
昨日だって犯人がわかったのに「捕まえなくてもいい」なんて普通は言わないです。
それは、自分が犯人だからでしょう。
和正さんはこのことが世に知らされるリスクを少しでも下げるために、この事件の真相を知っている人物をこの世から消し去ろうとでも考えたんでしょう。
そのために永戸さんに恨みがある人物、凪咲さんをスカウトし、完全犯罪計画を実行した。
存怪:でも、今回に関しては手口がわからないし、事故が起きたのも朝方で、そんなひらけた場所で大胆に殺害することはできないんじゃないでしょうか?
Hさん:犯人が西本奏くんだったらどうでしょうか?
存怪:え?
Hさん:西本奏くんは、八年前に永戸さんと凪咲さんの間でできた子供です。
八年前に離婚して、親権が凪咲さんにあった前提で推理すると…
現西本夫婦は奏くんを利用し、永戸さんを死に追いやったと考えられます。
存怪:いやいや、流石にそれは無理があるでしょう。
Hさん:奏くんはまだ八歳です。いくら浅い川とはいえ、溺れることも十分考えられます。
遺体は二人とも着衣状態で見つかっているので、いわば錘が付いている状態で六十代の高齢者が小学生を抱えて救助するのは無謀といえます。
いわゆる救助死と言うやつです。
私はさとしさんとの電話の際に感じていた違和感の正体に今更気づけた気がした。
存怪:そういえば..最初にさとしさんと電話した時も、昨日した時もうっすらと子供の声が聞こえていたような…
Hさん:それが現西本夫婦の殺人道具、奏くんですよ。
あの時電話の主の正体に気づけて、奏くんを助けれていたら…目の前でいくつもの命が失われていくのが耐えれない。
しかも私のせいで。
存怪:もう耐えられないです..私のせいで奏くんが…永戸さんが…
Hさん:悲観していたらまた同じことの繰り返しになってしまいますよ。
冷静に考えてみてください。和正さんの狙いは事件の真相を知っている人を世から消すことです。
となると次の犠牲は凪咲さん、あるいは私たちかもしれませんよ。
終章
あの後警察に行き、状況を事細かに説明した。
意外に丁寧に対応してくれて捜査本部を設置し、かなり事態を重く受け止めてもらえて一安心した。
でもまだ一つだけモヤモヤが晴れない。
帰宅後、一から事を振り返ってみた。
私は驚愕した。
ある人とある人の名前が同じだったことに。
〜完〜
近々、この内容をYouTubeで公開します。