ブギウギ総括:実在の人物を描く朝ドラの功罪と限界

  by 田中周作  Tags :  

29日、ついに連続テレビ小説『ブギウギ』が終わった。昭和の大スター・笠置シヅ子がモデルとなった同作。ヒロイン・趣里が半年間、福来スズ子を演じてきた。評価としてはどんな声があるのだろうか?

・ドラマが終わって寂しい、というよりも、主人公が引退して寂しいと思ってしまうような、それほどまでに世界観に没入してしまうような素晴らしい半年間だった。
・戦前の歌謡史とか興味深かったし見て良かったな
・素晴らしい朝ドラでした。無理に一生を駆け足で描かず歌手人生に特化した構成が大成功。スズ子だけでなく羽鳥先生との二人三脚、ダブルキャストのように2人を描いたのが良かった

梅吉(柳葉敏郎)・ツヤ(水川あさみ)・六郎(黒崎煌代)という血のつながりを越えた家族の絆、大和礼子(蒼井優)への憧れ、愛助(水上恒司)との生活、トミ(小雪)との確執、坂口(黒田有)と山下(近藤芳正)らのサポート、タナケン(生瀬勝久)との芝居の日々、茨田りつ子(菊地凛子)や水城アユミ(吉柳咲良)らライバルとの切磋琢磨……思い出せばキリがないが、やはり意見にある通り、物語の大半は羽鳥善一(草彅剛)との師弟愛にだいぶ割かれていた。

それは実際に、モデルとなった笠置シヅ子が、服部良一とのタッグで「ブギ」の名曲を世に送り出してきたからではあるが、ほぼ事実に即していただけに、物語としてのダイナミズムが欠けていたように思う。

また、りつ子は淡谷のり子、アユミは美空ひばりがモデルとされるが、この2人が物語に効果的に絡んでいたのかは疑問が残る。終盤に描かれたアユミとの覇権争いも、実際はもっと火花散る展開になっていたはず。アユミのキャラをより強めにして、そしてスズ子の「落ちぶれた感」をより鮮明に描くこともできたはずだが、そうした部分もふわっと、“ファンタジー”で終わらせてしまった。またアユミの「大和礼子の娘」という出生も、あまり効いていなかったように思える。

ちなみにスズ子の娘・愛子(このか)の誘拐未遂の恐喝事件も実際、シヅ子の身に降りかかった出来事ではあるが、果たしてストーリーに必要だったかどうか。

そして当初から言われていたことだが、なぜスズ子が人気歌手になっていったのか、その軌跡が今ひとつ実感しにくいまま見続けていた視聴者も多かったのではないだろうか。つまり、次が見たい、翌日も見たい朝ドラになっていたかどうかは疑問が残る。

それでも同作は「歌」をメインとしただけあって、どんな秀逸なセリフや緻密な人物描写よりもダイレクトに人々に伝わったようだ。最終回でも、
・最終回は福来スズ子涙のラストコンサート。 臨場感がありすぎて観客の気分。 感動で涙がとまりません。
・最後のスズ子のステージの余韻…。まだドキドキしてる。感動と寂しさが入り混じって、ステージ中涙が止まりませんでした

といった声もある。

いずれにしても、美空ひばりが朝ドラに出て来たことはエポックメイキングな出来事かもしれない。また、こうした1人の歌手の人生を追いかけるという視点で、今後、他のスターを掘り下げる可能性もなきにしもあらず、だ。もちろん適材がいればの話だが。

いよいよ4月1日からは、伊藤沙莉が主演する新たな朝ドラ『虎に翼』が始まる。この半年間が大いに楽しみだ。

ライター。