空爆で失われた医師の命「私たちを忘れないで」―無力な国連・ハマスが病院を軍事利用と決めつけ攻撃するな!

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[出典:イスラエル国連大使、ハマスの番号掲げる 「停戦求めるならここに電話を」<REUTER>(2023年12月13日)]
 
2023年12月13日、国連総会でガザの人道目的停戦を求める安保理決議が4分の3を占める153カ国の「賛成」という圧倒的な支持を受けて採択された。イスラエルと米国ほかは「反対」に回り、23カ国が「棄権」した。米国は「凶悪なテロ攻撃への非難」を盛り込むよう修正案を提出。またオーストリアも「人質がハマスに拘束されている」と盛り込むよう修正案を出したが双方ともに否決された。国連総会の決議に法的拘束力はないが、国際社会の総意を示すものとされている。「REUTERS」通信によれば、この議場でイスラエルのギラド・エルダン国連大使が「本当に停戦を望むなら、皆さんはここに電話して(ハマス指導者の)『ヤヒヤ・シンワル』を呼んで欲しい」と電話番号の書かれた用紙を掲げて呼びかけるという前代未聞の行動で物議を醸した。シンワル氏はハマスによる10月7日越境攻撃の総責任者と見做されている。イスラエル軍はハンユニスにあるシンワル氏の自宅周辺に戦車を展開し、ハマス軍事部門トップのデイフ氏らも拠点を置く。

 南北に40km、東西に11kmほどしかない細長い地区のガザでは、その支配権を巡って歴史的に苛烈な殺戮が繰り返されてきた。
イスラエルによる空爆と地上戦の結果発生した2009年には1400人以上、2014年には2251人が殺された。2014年に殺された犠牲者のうち551人が子ども、298人が女性。「病院」や「学校」など決して攻撃されてはならない「民用物」である施設も攻撃対象にされた。そのガザで、今もかつてを上回る未曾有の犠牲者が出ている。「パレスチナ自治区ガザ地区の情報当局」によると、今年12月20日時点で、少なくとも約2万人が死亡、52600人以上が負傷しているのだ。
 欧米から「テロ組織」指定された「イスラム抵抗組織」の「ハマス」が2023年10月7日、同じ轍を再び繰り返し、奇襲攻撃。イスラエルのベジャミン・ネタニヤフ首相も徹底抗戦として地上軍事作戦を展開した。だが米国やカタール政府などの仲介もあり11月末から一時休戦が行われた。空爆の激しい北部から南部へと避難してきたガザ市民らには、約1週間程度という僅かなひとときの安堵が訪れたが、再び戦闘が再開されてしまった。なぜ、「完全な停戦」が実現しないのか?また、この戦いの「落とし所」はどこにあるのか?

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<リード>
【1】機能不全に陥る国連 「人道的休止」を掲げる米国に及ばぬ「人道的停戦」求める決め手欠く
【2】「(特活)国境なき医師団(MSF)」が緊急集会 救急医療の視点から見るガザ地区の現状
【3】空爆で失われた2人の医師の命 “Remember Us” 私たちを忘れないで
【4】ハマスが医療機関や救急車を「軍事利用」と決めつけ攻撃対象にするのは御法度
【5】イスラエルの戦争犯罪は国際法の枠組みによって責任追及される必要がある
<結び>人質解放に日本政府からも関与を! 全面戦争回避に向けて
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【1】機能不全に陥る国連 「人道的休止」を掲げる米国に及ばぬ「人道的停戦」求める決め手欠く

遡ること11月6日に国連で開かれた非公開会合の終了後、米国のウッド国連次席大使は米国が掲げる「人道的休止(humanitarian pause)」について「人道支援が計画されている地域で局地的かつ一時的に戦闘を止める意味合いがある。ガザ地区での戦闘継続が前提で短ければ数時間で再開される」と説明。
 11月8日発表の主要7カ国(G7)外相共同声明でも「人道的休止」の支持が明記された。一方、アラブ諸国らパレスチナ寄りの国々が求めているのは「人道的停戦(humanitarian ceasefire)」だ。国連の定義によれば「停戦」とは通常、政治プロセスの一環として戦争当事者が戦争停止に合意することを示す。一般的に紛争地全体に適用され、より長期にわたり戦闘が止まることが期待された。国連事務総長のアントニオ・グテレス氏も呼びかけている。これに対し、米国はハマスを利することになるとして強く反対してきた。
 11月15日には紛争勃発の10月7日から40日、国連安保理会合で「人道的休止」を求める決議案が採択された。
 10月18日のブラジル低出決議案には米国は「イスラエルの『自衛権』についての言及がない」として拒否権を行使。だが11月15日には米国は拒否権を行使せず棄権に回った。パレスチナを支持するロシアも「即時停戦」を訴えつつ拒否権ではなく棄権を選び、ガザの人道状況への懸念を深めるアラブ諸国との関係性を優先させた政治的外交判断とみられる形を取った。
 またロシアに同調してきた中国の張軍国連大使は「即時停戦を最優先の目標とすべきだ」と賛成にまわり米国を牽制した。
 
米国政府によるとハマスや過激派組織「イスラム聖戦」らは10月7日の戦争勃発時、外国人を含めて少なくとも240人を拉致した。米国民9人と米国の永住権を持つ一人が行方不明となっており、人質に含まれているとみられている。米NBCテレビが公表した世論調査ではジョー・バイデン米大統領の支持率がかつてなく最低の40%を記録。「人質解放交渉」に失敗すれば、2024年大統領選での再選も危うくなるという国内外からの批判が高まっている。米国が安保理決議案に拒否権発動ではなく棄権に回ったのは、こうした内情が浮かぶと見られる。

11月22日、イスラエル軍とハマスが4日間の一時休戦と一部解放などで合意した。ハマスにとって今回の攻撃は「イスラエルに拘束されているパレスチナ人の解放」を主たる目的とした合意だった。同月24 日から始まった「一時休戦」だったが、7日間で打ち切りとなった。休戦は米国やカタールなどの仲介により当初、4日間の日程からさらに2回延長された。ハマスがイスラエルから拉致した人質計105人を順次解放。イスラエルも拘束していたパレスチナ人計240人を釈放した。
12月1日にイスラエル軍は「ハマスが休戦を破り、(ガザ)からイスラエル領に向けて砲撃した」との声明を出し、ガザ各地で空爆を再開。
同月5日にはガザ南部へイスラエル軍地上侵攻を開始し、イスラエル全土攻撃に拡大した。
これを受けて翌6日に国連事務総長のグテレス氏が国連憲章99条「平和維持に関する任務」を発動させ国連安保理に人道的停戦を宣言することを正式に求めた。99条は国際平和及び安全の維持を脅威にすると認める事項について安保理の注意を促すことができると定められている。

 時を戻すこと今年12月13日国連決議が採択された同日早朝、ガザでは何らの変わりもなく銃撃戦が始まっていた。発砲音がジェニン難民キャンプに響き渡る。市街を走り回る装甲車の影も重々しく、主要な病院の内部ではドローン攻撃の標的にされた3人の男性が遺体となって並べられていた。「BBC」のガザ特派員も取材でガザ市街を歩いていると上空にドローンが飛んでいる低い音が聞こえ、催涙ガスも使われた跡が残されていると報告した。

【2】「(特活)国境なき医師団(MSF)」が緊急集会 救急医療の視点から見るガザ地区の現状

2023年12月11日、「(特活)国境なき医師団(MSF)」が「ガザ地区で目撃した現実 今、私たちに何ができるのか」トークライヴイベントを主催した。
 つい先日まで、または数年前にガザ地区で活動していた4名の登壇者らがそれぞれの立場から見たガザの現地報告を行う。その上で私たち日本人ひとりひとりにできるアクションは何か?共有して考えてみたい。

 前JNN中東支局長の須賀川 拓氏は疑問を呈する。「ガザは『天井のない監獄』だと言われているけれど、イコール『Prison』ではない。何か罪を犯した人や悪事を働いた人が捕えられている場所ではないので、個人的には『天井のない収容所』という方が適切だとずっと思ってきた。当然、中にはハマスの戦闘員でイスラエルを殺戮しようと思う人もいるかもしれない。ただ、住民含めて220万人が『天井の監獄』に当てはまる意味合いが違うのではないか」と述べた。

[出典:「(特活)国境なき医師団(MSF)」YouTube]
 その上で須賀川氏は「戦争当事者が極端に二項対立し合って、お互いを憎しみ合うというのは避けて通れない道。けれども距離が離れている時やそれ以外の国で、その二項対立にガソリンを注ぐような憎しみの連鎖に巻き込まれてしまうのは絶対ダメだと思っていて、特に日本は非常に稀有な立場にある。パレスチナにも非常に長い間支援してきているし、イスラエルとも経済関係をしっかり保有している。要するに日本は今後、『エネルギー安全保障』の面でアラブに頼らなければならなくなったり、『心の繋がり』という意味合いでイスラエル側とも稀有な繋がりを持ってきているので、ガザ危機のイシューを極端に過激化させない。距離を置いている日本人だからこそ、お互いのことをしっかり考えて議論を進めることが私たち一人一人にとって重要ではないだろうか」と日本人として自ら果たせるべきアクションを聴衆に投げかけた。

 「ガザ、西岸地区、アンマン 『国境なき医師団』を見に行く」<講談社>の著書を持つ、作家・クリエイターのいとうせいこう氏は「今までの戦争とは形が変わってきているのではないか?」と自身が現地入りした2019年11月当時を振り返って私見を述べた。
 「僕が同行取材していた時にはドナルド・トランプ米大統領(当時)が米大使館を中心地に移設するという行動に出た時で、ガザ市民が特に平和的デモに立ち上がって、毎週金曜日に行われた。その度にイスラエル側から撃たれては死亡者も出ていた。中でも後ろから足を狙われて撃たれている人が多かった。しかもその撃たれている足に銃弾が貫通するのではなく、禁止されているはずの『ダムダム弾』に非常に近いような形で中で破裂するようになっているので骨ごと砕けてしまう。それをMSFのスタッフがどうすれば足を短くせずにこの骨を接着できるか?という治療を毎週500人を越え増え続ける患者を診ていた」と、このガザ危機を巡る医療の緊急援助が今に始まったことではないと明かした。さらに、いとう氏が目の当たりにした事例で、「子供が塀の近くに落ちているオモチャを素手で取ったら、それが実は爆弾で、左手の先が吹っ飛ばされてもう、ないという。子供に対してそんなことをする必要があるのだろうか?」と訴える。さらに今年10月7日以降のガザの話に時間を戻すと… 

[出典:「(特活)国境なき医師団(MSF)」YouTube]

[出典:「(特活)国境なき医師団(MSF)」YouTube]

「イスラエルとパレスチナ問題で言うと、ヨルダン川西岸地区などのハッキリとは言えないが、イスラエルの公務員のような方達が銃器を持って引っ越してくる。そうすると、『パレスチナ人のところから臭い臭いが漂ってくる』『騒音がひどい』ということで警察を呼ぶ。呼ぶとさらに大きな銃を持った人が駆けつける。その地区全体がイスラエルの支配しやすいエリアになってしまう。つまり、『引っ越す』という行為そのものが戦争や占領を引き起こしている。このことは今まで国連が定めてきた『戦争』と呼ばれるものではないと思える。戦争の形が変わった時に我々、市民がいかに対応するかが問われているのではないか」と、いとう氏は聴衆に投げかけた。

[出典:「(特活)国境なき医師団(MSF)」YouTube]

 「(特活)国境なき医師団(MSF)」の白根麻衣子アドミニストレーターはガザ地区で人事マネージャーとして勤務していた。シファ病院にもよく訪れていたという。
 「ガザでのたわいもない日常が今年10月7日で一瞬にして崩れてしまった。無差別な暴力の中で最も傷つくのは一般市民であり、何の罪もない人たち。自らの家を追い出されている。北部にあった私たちの宿舎や診療所から『退避しろ!』と言われた時にMSFの車に乗車し、『逃げろ!』と言われても道には大荷物と子ども達を抱えた市民が彷徨っている。車を持っている人はガザでは多くはない。歩くのもままならない子ども達と一緒にどうやって何十キロもの道のりを歩いて避難できるのか?私たちの車を見て『乗せて行ってほしい』と言われても私たちも着の身着のままで車内でぎゅうぎゅう詰めになりながら退避するのに一人も乗せることができない」と忸怩たる思いを吐露した。
 その上で「南部に着いてからも南部に行けば安全だと思っていたが、全くそうではなく、昼夜問わず避難先でも空爆があった。私たちは屋根のある避難所に逃げることはできなかったので、(帰国前の)最後の2週間は、野宿生活だった。もちろん、電気はなく、トイレを流す水もない。ガザにいる220万人以上の一般市民らが当時よりさらに過酷な状況に置かれている。次の日の食事をどうするか?私たちは40人弱で避難生活をしていたので、残っている食材のカロリー計算をし、『これを50人で割ったら2日間保つね』という話をしながら明日をどう生き抜くか、いつ起こるかも分からない空爆で、食料を買いに行くことさえできなかった。」と窮乏した状況を切々と伝えた。しかし「現地パレスチナ人のMSFスタッフが私たちを助けるために、無い食料を町中歩き回って探して私たちに届けてくれた」という一筋の光が差し込んだ経験も語り、「即時停戦以外に一般市民を守ることができない。停戦できなければ次のステップのことも考えられない」と白根氏はガザの現実を見つめた。

[出典:「(特活)国境なき医師団(MSF)」YouTube]

 「(特活)国境なき医師団(MSF)」の鵜川竜也「感染症」専門医は2023年4月から11月1日までガザに派遣されていた。
 「MSFはガザで「手術プロジェクト」を展開している。ケガなどで手術が必要になった人の治療や、手術をしたことで身体にダメージを受けて、その後心にダメージを受けた方へのメンタルヘルスのケアだったり、私が関わっている「感染症」の治療を行った。手術の前後には抗生物質を使うし、外傷や怪我、銃撃痕の手術の後には感染症になりやすい。さらに長期間、抗生物質を使って治療しないとならなくなると、その期間に感染症を起こしていたバイ菌に耐性がついてしまい、抗生物質が使えなくなってしまうことがよくある。特にガザはその耐性菌の関わる感染症の発生率が高かったので、今回『感染症専門医』として派遣された」と鵜川氏は語った。
 その上で「空爆などで怪我をした後はとても菌がつきやすく感染症を起こしやすい。さらに骨に関する感染が起きてしまうケースがある。少なくとも私が働いていた施設の中で耐性菌というのは非常に多く見受けられた。その感染症に耐性菌が関わってくると、かなり治療が難しくなること、感染症が増えることを心配している」とも述べ、鵜川氏は「避難している中でかなりの長期間過酷な環境にいて、多くの人々が密集した中で避難生活を送っていたので、『呼吸器感染症』など『咳』や『風邪症状』が出たり、下痢症になったり、普段なら罹患しないような感染症でも、身体の状態が悪く、密集していると、人から人へ病原菌が移りやすくなる。悪化した時に病院へのアクセスが確立していない場合についてかなり懸念がある」と今も空爆が続く現地ガザ市民らに思いを寄せた。

[出典:「(特活)国境なき医師団(MSF)」YouTube]

【3】空爆で失われた2人の医師の命 “Remember Us” 私たちを忘れないで

 今年11月21日にガザ北部に残された数少ない病院の一つだった「アル・アウダ病院」がある。まさに鵜川医師が勤務していた病院が攻撃の標的にされた。その日、「MSF」のマフムード・アブ・ヌジャイーラ医師(写真・左)とアフマド・アル・サハール医師(写真・右)の2人が殉職した。
 彼らは紛争が激化してから1ヶ月以上も家族に会わず、病院で患者の治療に注力していた。ヌジャイラ医師は長年、MSFで働いて、総合診療医として外来と入院治療に携わっていた。享年38歳。奥さんと3人のお子さんを残してこの世を去ってしまった。
 サハール医師は今回の戦争が起きる直前にMSFのチームに加わった方だったが、婚約したばかりで、近々結婚を予定していた若い医師だったという。

[出典:「(特活)国境なき医師団(MSF)」YouTube]

 2人のチームメイトだった鵜川氏は鎮痛な面持ちを浮かべた。
 「2人とも医師なので、戦争が起こっても病院の患者さんの元から、自分の患者さんがいる限り離れられない。そこで『治療を続けたい』というのは同じ医療者として分かるし、そういう彼らが攻撃の対象にされて亡くなったというのはあってはならないこと。『医療への攻撃』を断固認めず、医療者が命懸けでそこに行かなければならないという現実を作ってはいけないものなのだ、と2人の訃報を受けて、さらに強く思えた」と鵜川氏は毅然と前を向いた。

 MSFでシファ病院に派遣されていたアドミニストレーターの白根氏は今年11月1日に帰国した後も現地の職員とは毎日欠かさず連絡を取り続けているという。「死者が毎日増えていく。今や、1万8000人にも上る。それはどんどん増えていくただの『数』じゃなくて、一つ一つには命があり、家族がいて、周りや仲間がいて本当に多くの人の日々の生活があったということを忘れないでほしいと言われている」と心境を語った上で、殉職されたヌジャイーラ医師が生前、ホワイトボードに書き残したメッセージを撮影した写真を掲示した。
 「この写真にあるように彼らは全てをやり切っていて限界なんか、とっくに越えている。なのにこの紛争が止まらない。停戦に結びつけないということに本当に無力感を感じるし、一人の人間として『これは間違っている』ということを多くの人に伝えていきたい。」として司会者から「最後まで残った人は伝えてください。私たちはできることをした。私たちを忘れないでください」とのメッセージを読み上げた」。

[出典:「国境なき医師団(MSF)」YouTube]

【4】ハマスが医療機関や救急車を「軍事利用」と決めつけ攻撃対象にするのは御法度

前出の須賀川氏は「(特活)国境なき医師団(MSF)」主催のガザ危機を考えるトークイベントである場を踏まえ、今ガザで活動している医療従事者、医療施設への攻撃はいかなる場合も決して認められないという医療危機から先鞭をつけた。
 「今、ガザで展開できている医療は救急医療だけ。足を失った人、重大な内臓の疾患を負った人、脳に障害を負った人。そういう患者をサポートできる体制がほとんどないというのが現状。理学療法士もいないからリハビリなんてできない。それこそ義足なんて以前と違って誰にも作れない。当然、心理カウンセラーなんていない。それはどうなっていくか?そのコミュニティー全体がどんどんどんどん疲弊していく。特に子どもへの被害が際立っている。世代に空白が人為的に生まれるということは、いかに非人道的で許されないか。人種や居住国が遠いなどは関係なく、人間として考えなければならないのではないかと強く思っている」と指摘した。

[出典:TBS(2023年1月26日)]
また、須賀川氏は戦場取材に深く切り込んだ観点から「決して攻撃対象にしてはならない『医療施設』をハマスが『隠れ蓑』にしていた。もしくは『救急車』をハマス戦闘員の移動に使っていたという風に言っている。けれども攻撃の時に対象とした『救急車』が果たして軍事対象になるのか否かについてはイスラエル側に徹底的な説明が求められる。また、MSFの白根氏も勤務していたことのある『シファ病院』の前で『救急車』が空爆されている。イスラエル側は『救急車を使っていたのはテロリスト(ハマス)に間違いない』と決めつけ、院内で戦闘員を見たという状況証拠だけで、シファ病院そのものが『(ハマス)の司令部』になっていたとして、病院丸ごと攻撃対象と見做していいはずがない」と糾弾した。

 国際法で「均衡性」が常に求められるので、医療施設としての保護が剥奪される条件というものが必ずあるはずだ。どれだけ軍事利用されているのか?イスラエル側はまず、説明をしなければならない。説明がないまま疑いだけで人を罰することは「法治国家」としてできない。証拠があって初めて立件するものだ、とする須賀川氏の問題提起から以下の「国際法」の専門家の講演へと視座を移したい。

【5】イスラエルの戦争犯罪は国際法の枠組みによって責任追及される必要がある

2023年10月20日「(特活)日本国際ボランティアセンター(JVC)」が主催したウェビナー国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」の副理事長の伊藤和子氏が「ガザの危機 国際法の観点から即時停戦を求める」講演を行なった。同人権組織は「国連特別協議資格」を所持しており、国連・日本政府・企業に対して人権侵害の幅広い問題に対しアドヴォカシー活動も積極的に行なっている。
 本講演から「ガザ」という戦場における国際法の「有用性」について、「国際法」の専門家の観点から紐解いてみたい。

 例えば、ガザでは「イスラエル国防軍」が始めた「無差別報復空爆」によってパレスチナ人3500人以上の命が既に奪われている。
 「戦争犯罪」の原則である「ジュネーヴ第4条約」第33条により「(ガザの)人々に対する集団的懲罰は許されない」と規定。
 民間人や病院を含む民間施設を標的にした行為は、「ジュネーヴ第4条約」「追加議定書」第48条により「国際人権法」及び「人道法」に対する明らかな違反であることが定められている。
 また、人々がガザの北部から南部に強制的な移動を命じられたとしたら、「ジュネーヴ第4条約」第49条1「移送及び立ち退き」違反で第三国や他地域への強制移送・追放は禁止され、及び同条第49条6でも「占領地域への自国文民の追放・移送の禁止」の法的根拠となる。ヨルダン川西岸地区という入植地があって、イスラエル人がどんどん入植地内に送られてくる。この場合、同49条6項に抵触すると言われてきた。
 「第一追加議定書」第51条4及び5によって、「無差別な攻撃の禁止」が規定されている。
 「世界保健機構(WHO)」によると、今年10月7日の紛争勃発から11月28日までの統計で、203の病院が攻撃されている。空爆の負傷者1万1000人だけでなく、妊婦5万人、糖尿病など慢性疾患のある病者35万人と言われている。こうした系統的な病院への攻撃とは、意図的なものであれば明らかな「戦争犯罪」に該当する。例えば「ジュネーヴ第4条約」第18条「文民病院」及び第20条「病院職員」さらに「ジュネーヴ第二追加議定書」第7条「傷病者の尊重・保護」また第9条「医療要員の尊重・保護」、第10条「医療活動の保護」第11条「医療組織・医療用輸送手段の保護」を規定し、「病院」を最も守るべき砦としている。
 病院の空爆により、イスラエル側とハマス側の両者が責任の押し付け合いをしている二項対立で調査が必要な状況だ。非国家間・非国家武力紛争においても「第2追加議定書」には「傷病者の搬送」についても掲げられている。

 終わらないガザ危機の「根本原因」となっているのは、イスラエル政府によるパレスチナ人に対する系統的な差別とイスラエルによる国際法違反のパレスチナ占領にある。
 1967年の第三次中東戦争によって、イスラエルは1949年の停戦ラインである「グリーンライン」を越えて西岸地区とガザ地区に侵略した。
 以降、国連安全保障理事会が撤退を求めてもこれに従わず、イスラエルが西岸地区とガザを56年間に渡り違法に占領し続けてきた。
 国連安保理決議242(1967年)は、戦争による領土の獲得が認められないことを明確にし、「近年の紛争で占領した領域からのイスラエル軍撤退」を即時行うよう、イスラエルに求めた。
 国連総会決議2625(1970年)にいわゆる「友好関係原則宣言」は、改めて「武力の行使または威嚇に基づく領土併合はいかなる場合も違法」という国際法の原則をこの時確認しているはずである。「イスラエル建国」に関しても国連が1947年にイスラエルの地をユダヤ人の国とアラブ人の国に分割する計画を立てた。米国のハリー・S・トルーマン大統領(当時)の支持を受けたダヴィッド・ベン・グリオン初代イスラエル首相が翌1948年に「イスラエル国家建国」を宣言して国連が承認したものだったが、イスラエルはこれ以降も国連の警告を完全に無視し、占領が続けられている。

 国連パレスチナ占領地の人権状況に関する特別報告者のフランチェスカ・アルバニーズ氏が強く警告している。
 「再び、自衛の名の下にイスラエルが民族浄化に等しいものとなる行いを正当化することを模索している。イスラエルによって為されるあらゆる軍事作戦が国際法の限界を越えて上手く進む。その国際共同体は今、国際法のこれらの目に余る違反を止めなければならない。悲劇的な歴史が繰り返される前に。時は要素となる。パレスチナ人とイスラエル人双方が平和で、平等の権利・尊厳、自由に生きることに値するものだ」と。

[出典:国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」副理事長 伊藤和子氏 資料]

 国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」副理事長の伊藤和子は「ガザ情勢」を巡る「国際法」の枠組み整備について次のように解説する。

[出典:国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」副理事長 伊藤和子氏]

「2004年、パレスチナの『壁』建設という、ヨルダン川西岸地区にイスラエル側が巨大な壁を建設してパレスチナ人の人々が移動の自由等を侵害していた問題に関して『国際司法裁判所(ICJ)』が勧告的意見を公表した。このなかでICJは、占領地パレスチナには国際人権法及び国際人道法が適用されることを明らかにした。つまり、イスラエルは占領地の人々に対し国際人権法上の人権保障の義務を負い、また国際人道法上の義務を負っていることはICJの見地からも明らかである。
 また、パレスチナは2012年に国連総会の決議により、国連オブザーバー資格という地位を付与され、2015年には『国際刑事裁判所(ICC)』のローマ規程に加入した。この結果、パレスチナの領域―つまりヨルダン川西岸地区とガザ地区で起きた事態について国際刑事裁判所(ICC)のローマ規程が適用される。ICCは、戦争犯罪、ジェノサイド、人道に対する罪を裁く常設的な国際裁判所であり、占領地で行われた全ての「戦争犯罪」、「人道に対する罪」「ジェノサイド罪」について、ICC検察官が捜査したり、訴追することが可能となった。戦争犯罪を訴追・処罰する法的な枠組み状況が整ったことを受け、2014年に起きたガザ紛争において起きた「戦争犯罪」行為に対し、ICCの検察局が既に捜査を始めている。そこで『ハマス』だけではなく、イスラエルの戦争犯罪も同然捜査の対象となっている。2019年にICC検察局が出した声明では、2014年のイスラエル軍の攻撃について、ICC8条の戦争犯罪(その内容としてはジュネーヴ条約違反、共通3条違反、慣習国際法上の違反等)に該当する合理的な確信を検察局は有している、との認識が表明されている。
 但し、戦争犯罪を立証するための証拠を集めて訴追に持ち込むには多大な労力がかかる。一番の問題は占領者であるイスラエルが許可しないため、検察局がガザに入るのが難しいことで、周辺国に逃れた人からの聞き取りに基づいて捜査しなければならないという問題がある」と伊藤氏は問題点を指摘した。
 それでも2019年以降2023年に至るまで、訴追の動きが進まなかったことは、特に人権侵害の被害を受け続けてきたガザの人々にとって耐えがたいことだったと思う。この間、ウクライナ紛争が発生し、ICCに対する国際社会の期待はウクライナ問題に集中したが、ガザの問題への関心が後回しにされることは正当ではない。正義の遅延は正義の否定とも受け止められるのであり、深刻な人権侵害は世界のどこで起きても、平等に裁かれなければならない。人権侵害の責任が問われないままでは重大な人権侵害は繰り返される、それがガザで起きていることだ。
 国際法は、イスラエル・パレスチナの紛争解決にとって最も有効な手段であるが、国際社会のアクターは国際法に依拠して問題解決する立場に立つ政治的意思を欠いてきた。今こそそうした姿勢を根本的に改めなければならない。」
[出典:国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」副理事長の伊藤和子氏 資料]

<結び> 人質解放に日本政府からも関与を! 全面戦争回避に向けて

[出典:ANN系列(2023年12月13日)日本政府にイスラエル人質解放交渉を訴え]
2023年12月13日、緊迫するガザ情勢の中、イスラエルの人質家族が訪日した。イディット・オヘルさん。息子を連れ去られたとして国際社会に人質解放の交渉を関係各国に働きかけるよう訴えてきた。オヘルさんは「カタールやエジプトなど、我々を助けられる国の政府や人とコネクションを持っていて、日本政府に対しても交渉に関与してほしい」と日本記者クラブで会見を開いた。「ジュネーヴ第4条約」34条は「人質の禁止」を規定しており、「国際法」に則った「戦争犯罪」であることを改めて周知させる機会となりそうだ。
今年11月3日に上川陽子外相はイスラエルのテル・アビブで同国のコーヘン外相と会談した。パレスチナ自治政府のマルキ外相とも会談。イスラエル国民との連帯を表明し、「誘拐された方々を案じており人質は即時解放されるべきだ」との意向を示していた。

イスラエル軍がハマスの戦闘員に投降を呼びかけるなど、ガザ南部包囲全面攻撃が続けば、返ってイランの「革命防衛隊ゴドス部隊」が「ハマス」だけでなく様々な支援を行なっているアラブ諸国のテロ組織である代理勢力の「非国家主体」を巻き込んだ全面戦争になるリスクが高まる可能性がある。
ハマスによる攻撃は欧米では民間人を狙った「テロ行為」だと強く非難されている。しかしながら一方で中東イスラム社会ではイスラエルが長年パレスチナ人への抑圧を続け、空爆などで多くの民間人を殺害してきたことへの怒りが強い。今回のハマスの襲撃もイスラエルのパレスチナ政策の積み重ねが招いたことだとの認識が浸透している。
かねてからイスラム教シーア派国家イランは「ハマス」と連携している過激派組織「イスラム聖戦」やイエメンのシーア派武装組織フーシ派「アンサー・ルッラー」、レバノンを拠点にするシーア派組織「ヒズボラ」、「イラク人民動員部隊」、アフガン人のシリア動員部隊「ファーティミーユーン旅団」、パキスタン人のシリア動員部隊「ザイナビ・ウーンドゥ」などの「抵抗の三日月」と言われる代理戦争勢力の後ろ盾となるスポンサーの役割を果たしてきた。国として認められていない「非国家主体」の代理勢力からすれば、ヒエラルキーのトップであるアヤトラ・ハメネイ最高指導者やホセイン・アミール・アブドゥルラヒヤーン外相との面会が叶うという「政治的認知の付与」の恩恵を受けることができるからだ。イランの支援を受けた「非国家主体」に代理戦争を戦わせて全面対決になれば、それはイスラエルにとっては最大の脅威となるであろう。

イスラエル及びハマス双方の拉致した人質は行方不明あるいは殺害されたのか否か。状況が全く分からない暗中模索の中で、自分の息子を返してほしいと日本の記者会見から世界に向けて切実に訴えた前述の人質被害家族オヘルさんの声は国際社会に届くのか?それこそ冒頭で触れたイスラエルのエルダン国連大使がハマス指導者のシンワル氏に繋がる電話番号を掲げて電話するよう求めたそのナンバーにでも縋りたい思いが込み上げてくるのではないだろうか。機能不全の国連を突き上げる国際社会の民意とそのグラスルートをエンパワメントする有用性ある「国際法」という武器をいかに使うのか?私たち一人一人はあらゆるチャネルの活用と確かな専門性に裏打ちされた知識や技術を今こそ駆使する必要に迫られているのではないだろうか?

tomokihidachi

2003年、日芸文芸学科卒業。マガジンハウス「ダ・カーポ」編集部フリー契約ライター。編プロで書籍の編集職にも関わり、Devex.Japan、「国際開発ジャーナル」で記事を発表。本に関するWEBニュースサイト「ビーカイブ」から本格的にジャーナリズムの実績を積む。この他、TBS報道局CGルーム提携企業や(株)共同テレビジョン映像取材部に勤務した。個人で新潟中越大震災取材や3.11の2週間後にボランティアとして福島に現地入り。現在は市民ライター(種々雑多な副業と兼業)として執筆しながら21年目の闘病中。(株)「ログミー」編集部やクラウドソーシング系のフリー単発案件、NPO地域精神保健機構COMHBOで「コンボライター」の実績もある。(財)日本国際問題研究所「軍縮・科学技術センター」令和元年「軍縮・不拡散」合宿講座認定証取得。目下プログラミングの研修を控え体調調整しながら多くの案件にアプライ中。時代を鋭く抉る社会派作家志望!無数の不採用通知に負けず職業を選ばず様々な仕事をこなしながら書き続け、35年かけプロの作家になったノリーンエアズを敬愛。

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