東出昌大インタビュー 「人が幸せになれるヒントみたいなものがたくさん散りばめられている」 映画『コーポ・ア・コーポ』公開中

  by ときたたかし  Tags :  

とあ

る大阪のコーポに流れ着いた訳あり住人たちの群像ライフストーリーを温かな眼差しで描いた映画『コーポ・ア・コーポ』が現在公開中です。

原作は2019~2023年にわたってコミックサイト「COMIC MeDu (こみっくめづ)で第一部が連載され、”得体の知れぬ日常を底知れぬ生命力で渉(わた)る。そんな人たちが、ここにいる。”と「苦役列車」「無銭横町」など破滅型の私小説で知られる芥川賞作家の西村賢太氏が生前に称賛を贈った漫画としても知られています。その待望の実写映画です。

そのコーポの住人のひとりである、常にスーツを身にまとい、甘いマスクと言葉で女性を次々と口説いて貢がせる中条紘役を演じた東出昌大さんに話を聞きました。

■公式サイト:https://copo-movie.jp/ [リンク]

●公式サイト上に「常識的ではない、底辺の、それでも暖かい人々の物語です」と言われていました。これについてまず少し聞かせてください。

僕のまわりにも仕事があり家庭があり、収入もあるがゆえ、人からは恵まれていると思われていても、心の中には冷えきった寂しさみたいなものを抱えていて、楽になりたい、解き放たれたいと思っている人がいるんです。それは生きものとして不条理と言うか、禁忌とでも言うのか。

ただ、このコーポ・ア・コーポの人たちは、人から見たら逸脱していて、真っ当ではなくて、普通ではなくてなどと言われていても、どこか温かさがあると、僕は台本を読み思ったんですね。生きるってなんだろうかと、日々きつい人にこそ観てほしいと思いました。

●イントロダクションにもありますが、しぶとく生きる人々の姿は、とても強い生命力があるとも言えますよね。

かといってこの映画が教えてくれるものって、言うほどはなくて。それこそ何でもない1時間30分だと思うのですが、その人生って何でもなくてもいいものでは?と思えることが、僕は魅力かなと思ったりもするんです。そういう意味で言うと、このいびつな人たちは温かい人たちなのかなと思って、あのコメントを書いた記憶があります。

●演じられた中条紘は、いわゆるヒモ男であり、昭和的な言葉で言うとニヒルみたいな役柄でした。

僕には中条の気持ちがよくわかったので、本当は難しい役でもあるんです。その反面難しさもないと言うか、親に敷かれたレールに乗って島で地主として育ち、決められた出世街道があり、ちゃんといい子をやっていた。で、人間ってそれでいいのかと思った時に、ボタンをかけ違えていることに気づいて、大急ぎでそこから逃げるみたいな。そこで自分らしさはすぐには分からずとも、それでもイチから物を考えて生活している中条がヒモをやってるのはしっくり来ましたね。

●どうしてそう思われたのでしょう?

彼は「這い上がりたいね」と言っているから、自分が腐ってるクズだということもわかっているんですよね。かと言って、その臭いものの蓋をしてまた競争社会の中で人を騙して蹴落とすというか、高給取りになって分かりやすく人からパッと見て裕福と言われる生活を送ることはしない。

元々の家柄や頭の良さから考えるに、中条はそういうことができるタイプだと思うのですが、「這い上がりたいね」と言いながらも「生きるって何だろう?」と今いる掃き溜めみたいなところで考えている。そのことは、非常に人間らしいなと思ったので、しっくりきたんです。

●ところで最近はいろいろな役柄を演じられていますが、お芝居の面白さについて、今の時点ではどのように考えていらっしゃいますか?

何気ないことに遭遇すること、ですかね。今回のこの現場だったら馬場ふみかさんを見ながら、本当に原作のユリちゃんみたいだなと何気ない時に思ったり、笹野さんがソシャゲについてめちゃくちゃ熱く語っているので、どういう精神状態で集中するのかとか、いろいろクスッとすることがあって(笑)。お芝居というより、そういう瞬間が好きなんです。でも、きつい役をやっている時は、それこそやけ酒が飲みたくなるような頭痛がするような夜もあります。これはまあ仕方がないことではありますが。

●そういうことも含めて俳優の仕事はお好きですか?

役者の仕事をしていると、僕は人が好きなんだなと再認識させられます。中条という男においても、性善説を信じたい気になる。人を演じるとは、そういう仕事なんだと思います。

●最後になりますが、映画をご覧になる方にメッセージをお願いします。

ちょっと真面目な話をすると、僕は日本という国が今後もっときつくなると思うんです。そして本作は社会的に底辺という人たちを描いた作品ではありますが、生まれた時から不景気だと言われていた世代なので、僕らが学ぶところ、これからの若者が学べるところは……学ぶと言うと大仰なんだけれど、人が幸せになれるヒントみたいなものが、たぶんたくさん散りばめられている作品になっていると思うんです。なので、映画を観ようと思う方には、それを観てほんわかしてもらえればと思います。

■ストーリー

大阪。スカジャン姿で自転車に乗る辰⺒ユリ(馬場ふみか)が、とある安アパートへと帰ってくる。そこは、住人たちがゆる〜くつながりながら暮らす「コーポ」。お湯もでなけりゃ、風呂もなし。だが、個性豊かな住人同士が顔を合わせるたびに、何かと声を掛け合っている。
宮地友三(笹野高史)が、「管理人さんが家賃回収に来よるで〜」「取り立てやで〜」とみんなに声を駆けて回ると、すかさず住人たちが外へ飛び出していく。「あぁ……」と呆然とし、外で猫を抱いて寝ていたユリを見つけてこう告げる。「ユリちゃん、山口さん死によった」。
首つり自殺を図った山口をみんなで引っ張り下ろし、警察へと連絡する一方、冷蔵庫や電子レンジなど拾ってきた無数の家電で埋め尽くされた山口の部屋から、欲しいものを見繕う。冷蔵庫のきゅうりを宮地がみんなで分け合うと、石田鉄平(倉悠貴)が「山口さん、首括る前の日、オレんとこに金借りに来たけど、断ってしもた」と言い出した。「オレがなんぼかでも貸しとったら……山口さん、死なんで済んだやろか」と悲嘆に暮れる石田に、「まぁ、そんな気ぃ落としなや、石田くん」「そうやで」「そうだ
よ」と宮地とユリ、スーツ姿の中条紘(東出昌大)が声をかけるなか、恵美子(藤原しおり)がふらりとやってきて、「石田くん、マイセンとわかば交換しよう」と、タバコの交換を持ち掛ける。どうやら、生前の山口が借金を頼んで断っていたのは、石田だけではなかった様子で……。

公開中

ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo