新藤まなみ&小原徳子インタビュー 男女4人が絡み合う人間の業を描く映画『卍』は、「誰にでも起こり得る物語」「自分もそうなってしまう怖さもある」

  by ときたたかし  Tags :  

谷崎潤一郎の不朽の名作「卍」を、『溺れるナイフ』『生きるとか死ぬとか父親とか』のシナリオを手掛けた井土紀州監督が令和にアップデートした映画『卍』が全国公開中です。

女性同士の性愛にはじまって、文字通り男女4人の<卍がらみ>の人間の業を描く本作。そのきっかけとなる主演の光子役・新藤まなみさん、相手役の女性・園子役の小原徳子さんにお話をうかがいました。

■公式サイト:https://www.legendpictures.co.jp/movie/manji/ [リンク]

●光子と園子、互いに惹かれあう役柄ですが、どういう人物像だと理解して演じましたか?

新藤:光子はカフェでバイトしながら彼氏と同棲していて、やりたいこともなく、フラフラしているような女性です。でも、本当は感情に敏感で繊細で、自分も何者かになりたいと思っている。なので小原さん演じる園子と出会い、自分もそうなりたいと思い始めるんです。彼女みたいな人生にあこがれいて、劣等感も感じながら飛び込んでいってしまうんです。

小原:園子はセレクトショップのオーナーで、夫がいて、一般的な感覚だと理想的な生活をしている女性だと理解しました。仕事は成功していて、夫との関係も良好であるものの、光子と出会うことで、それが少しずつ狂っていってしまいます。光子に対しての自分の気持ちがコントロールできず、そんな自分と初めて対峙してしまう女性なんです。

●劇中で描かれもしますが、お互いにどうして惹かれたと思いますか?

小原:仕事も成功している園子は、誰からも距離を置かれる立場にいたと思うのですが、光子は唯一それをぶち破って来た存在だと思うんです。手が触れた時、自分の中での距離感など何かが崩れてしまった。

新藤:おそらく光子もなのですが、お互いにないものを相手に感じてたと思うんです。自分にない魅力を相手に感じていたのだと思います。

●純粋な恋愛の意味合いだけでなく、日常が壊れてしまいそうなのめり込み方に、映画を拝見していて怖いという感情も抱いてしまいました。

小原:本当に身近にある世界感で作られいるお話なので、わたしも怖いなという感覚はすごくわかります。自分にもいつ光子が現れ、壊れてしまうかもしれない。誰にでも言えますし、わたしにも言えると思いました。

新藤:怖いと思う理由は、リアルだからですよね。あり得そうだな、実際ありそうなシチュエーションだなと理解できちゃうから、きっと怖くて自分もそうなっちゃうかも知れないという想いが怖く感じるんですよね。

●令和版とでも言いますか、新しい『卍』になりました。

新藤:これまで何度も映画化されましたが、モデルやセレクトショップなど、設定からして普通にいそうな人たちが出てきて、あり得そうなシチュエーションで絡み合ってしまいますよね。わたしも自分だったら壊れちゃうなと思ったので、恐いなとは思いました。

小原:ただ、怖いのは怖いですが、大人がこんなにもなってしまう恋愛の当事者になれるのは、ちょっとうらやましい感じもしました(笑)。

●光子と園子、ふたりの考え方など共感するポイントはありましたか?

新藤:光子は自由奔放で天真爛漫に見せているだけで、実はまったくそんなことはないんです。とてもいろいろなことで人に迷惑をかけているし、いろいろなことに気付いちゃう性格でもあるので、そこは似ているなと思いました。母親とのシーンでも、頭では「何この人」という印象でも、心の中ではきっと愛しているし、無下に出来ない。本当は感情に自由に生きられたらどれだけ楽かと思うところなどは、似ているなと思いました。

小原:わたしの場合、物語が園子の視点で進んで行くため、ブレないようにディスカッションの時間をしっかり取りました。しっかり自立した女性であるからこそ、それが崩れた時が大事だということで、なので実際にそう見えるように、園子の話し方や立ち方を自分の中に落とし込み作って撮影に入ったので、自分とは違う部分が多かったですね。

新藤:光子は言いたいことが言えなくて我慢する回数が多い人なので、それを明るさで無理矢理カバーしているところがあるんです。本当は揺さぶられる、敏感な性格だったのかなと思います。感情が爆発しそうなところなども、自分と似ていたかなと思います。

●最後にうかがいますが、映画『卍』に関わってよかったこと思うことは何ですか?

新藤:いろいろな考え方を知ることができたことですかね。今まで自分は自分、他人は他人だったのですが、そこに対してディスカッションはせず、受け入れられるようになりました。これは一番よかったことです。

小原:もともと型にはまらない恋愛を考えることは好きだったのですが、それを話せる場がなかったし、どこまで踏み込んでいいかわからなかったけれど、こうして深いところまでいろいろな人と話せることは、今回映画『卍』に関わったからこそなので、それはよかったです。多様化していく恋愛のあり方について話せるきっかけになるとうれしいですね。

新藤:演じていて日常生活で交わることのない経験だったので、考え方が一皮剥けた感じはあります。でも、誰の人生でも起り得ることだと思うんです。あるあるかも知れない。ぜひ感じていただけたらと思います。

■ストーリー

服のセレクトショップオーナー・柿内園子は、歯科医である夫・孝太郎の支えを得て店の経営に情熱を注いでいた。ある日園子がよいモデルがいないかと孝太郎に相談したところ、孝太郎はあてがあると若い女性・光子を紹介する。光子は孝太郎が偶然立ち寄った喫茶店の店員だった。さっそく光子を起用して新作服の撮影に臨む園子。気取ってポーズを決める光子を園子は夢中になって撮ってゆく。後日、光子がモデルになった服は若い客を中心に飛ぶように売れていった。

園子と光子は仕事を通して親しくなり、二人の様子は姉妹に間違われるほど仲良さそうに映った。ある日、二人は撮影と称して海岸までドライブする。夕暮れになっても帰りたくない二人はどちらともなく唇を重ねる。園子の抑えていた感情がほとばしり光子を強く求めると、光子はそれを喜ぶように受け入れる。女性二人、最初はぎこちなく、しだいに激しく愛し合うようになる。

だが後日、ショップに光子の彼氏だと名乗る男・エイジがやってくる。光子と園子の関係に気付いているエイジは「光子を二人で共有しよう」と言い出す。そして同じ頃、孝太郎が二人の情事を裏付ける証拠を見つけ出し…。

撮影=塚本桃

(C) 2023 「卍」製作委員会
制作:レジェンド・ピクチャーズ
配給協力:マグネタイズ

ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo