愛のカタチを問う映画『きみとまた』平井亜門&葉名恒星監督インタビュー「観ている方の気持ちを揺さぶろうと思ったら、自分が裸にならないとダメだろうと」

  by ときたたかし  Tags :  

『きみは愛せ』『愛うつつ』などの新鋭・葉名恒星監督の商業映画デビュー作である、映画『きみとまた』が全国公開になります。

本作は、愛しているから愛している女性に性欲を抱けない男と、精子が欲しい女が織りなす物語で、葉名監督自身の体験に基づくストーリーです。

自身の過去2作品を経て、“愛しているからこそセックスをしない”というテーマをさらに突き詰めた、新しい愛のカタチを観る者に問います。監督自身の投影でもある主人公・まるお役の平井亜門さん、葉名監督に話を聞きました。

■公式サイト:https://mayonaka-kinema.com/kimitomata/ [リンク]

●自主映画監督のまるおは監督自身の投影でもあると思いますが、物語を含めて最初の印象はいかがでしたか?

平井:とても繊細な男の子という印象でした。僕もこじらせているような部分があるので(笑)、自分の若かりし頃を思い出しました。しっかり向き合ったら面白い映画になるのではないかと、わくわくしました。過去の自分とも向き合うことができるのではないかと、撮影が楽しみでした。

●ストーリーの、そもそもの着想はどこから来ているのでしょうか?

葉名監督:これはマヨナカキネマというレーベルで、映画を撮るにあたっては若者の愛とセックスについてというコンセプトがありました。そこで自分が脚本を書いて監督をするならば何ができるのかと思った時に、仮に全然知らない人の愛とセックスを描くには、たくさんの取材や研究と勉強が必要になると思ったんです。

であれば、今出来ることとなると、僕自身をどれだけ出していけるかだと思ったので、センセーショナルなプライバシーも含め、僕自身を存分に出して行こうと思ったんです。であればたとえば撮影中でも誰かに質問されても、全部答えられますよね。主人公まるおにとっての子作りは映画作りというテーマも、僕自身を反映させた感じになっていますので。

●平井さんは、愛しているから愛している女性に性欲を抱けないまるおを演じてみていかがでしたか?

平井:監督の自己投影というお話を今改めて聞いて、もっと理解したいと思いました。もちろん自分とリンクしているところもあるのですが、改めて思うと、たとえばまる君はアキちゃん(伊藤早紀)になぜ6年間も惹かれているのか、とか。演じたのは僕自身なのですが、僕もまだまる君を探りたいなと。とても難しい役柄だなと改めて思いました。

葉名監督:これまでの自分の過去の2作品もひとつのテーマについて撮っているので、お客さんの中には理解出来ない方も出てくるかも知れません。なので無理に理解や共感をしなくてもよくて。でも、まるおのことを愛してほしいとは思うんです(笑)。

平井:ほんとに!

葉名監督:極端な話、まるおは嫌いという感情になってもらってもいいのですが、それでも愛してほしいなと。それは希望としてはあります。

●個人のこととしても受け止める方もたくさんいるかも知れませんよね。

葉名監督:それは、そうなればうれしいと思いますが、観ている方たちの気持ちをちょっとでも揺さぶろうと思ったら、自分が裸にならないとたぶんダメだとは思いました。今の僕のレベルだと、ちょっとでもカッコつけたら届かないのではないかなと。なのでみなさんを感動させたい、共感を得たいというスタートではなく、自分が裸にならないとダメだろうと。

●伊藤早紀さん演じるアキには、どういう意味を持たせようと思ったのでしょうか?

葉名監督:愛とセックスというテーマで描く時、本来は未来ある行為がないという本質的なところで悩んでいる女性です。まるおは、未来ある自分の映画監督という姿を想像しながら映画という子作りをしている。アキは、旦那と未来を作るために子作りをしたいと思っている。その2個の子作りがどうぶつかるか、というところでアキを描きたいなと思いました。

●平井さんは、今回の映画『きみとまた』を、みなさんにどう勧めたいでしょうか?

平井:僕はまる君の気持ち、完全に分かるっていう感じではないんですよね。分かる人もいるだろうし、そうじゃない人もいると思うんです。ただ、最近は多様性みたいな言葉があったりするけれど、こういう考え方の人もいるということを発見してほしいとは思いました。この映画を観て、何かそういう発見があったらいいな、うれしいなとは思います。

●映画や物語で葛藤や悩みを描くことで自分だけじゃないと思う人が出るかも知れないですよね。それが映画の良さでもありますよね。

葉名監督:そうですね。そう言う方と出会えたらいいと思います。

平井:今ここではまる君の視点で話しましたけれど、たとえばアキさんを僕の視点で観ると、わりと罪深いと思うんです。旦那さんがいるわけで。

葉名監督:そうですね。結婚していますので(笑)。僕は、この映画を観て、こういう人たちを許容しようとみなさんに求めているわけではないんです。そういう個性のまるおを受け入れる、そういうアキを世の中が受け入れてほしいということではなく、そもそも愛の行為とは? ということに立ち返ってほしかったんです。そういうテーマにチャレンジしたかったので、いろいろな思いに至っていただければいいなと思っています。

■ストーリー

愛しているからセックスをしたくない。

それが原因で別れた恋人アキを未だに忘れられないでいる自主映画監督のまるお。自身の体験を基に新作映画を撮ろうとするが脚本に行き詰ってしまう。なぜアキを抱けなかったのか。自らも答えを出せないと問いに向き合うためアキに会う決心をするまるお。

一方のアキはサラリーマンの田頭と結婚しているが、子供は欲しいのにセックスレスの夫婦関係に悩んでいた。久しぶりに再会するまるおとアキ。まだアキの事を忘れられないまるおに対し、アキは別れ際に言う。

「まるおの精子をください。」

撮影=オサダコウジ
公開中

ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo