ドキュメンタリー映画『共に生きる 書家金澤翔子』宮澤正明監督インタビュー 「混沌とした世の中で、人とのきずな、共に生きることの神髄を身近で見させていただいた」

  by ときたたかし  Tags :  

天賦の才能を二人三脚で開花させた書家・金澤翔子さんと母・泰子さん。数々の苦難を乗り越え育まれた、母娘の絆を描くドキュメンタリー映画『共に生きる 書家金澤翔子』が、現在全国順次公開中です。

NHK大河ドラマ「平清盛」の題字を担当するなど、今や天才書家と呼ばれるようになった金澤翔子さんが、書家として一流の舞台まで上り詰めるまでにはいくつもの努力と挑戦、そして母・泰子さんの支えがありました。

金澤翔子さんと母・泰子さん共に生み出す“書道”に魅せられ、彼女たちの日々の活動に密着した本作の宮澤正明監督にお話をうかがいました。

■公式サイト:https://shoko-movie.jp/ [リンク]

●天才書家として注目を集める金澤翔子さんの書は多くの人たちを魅了しているわけですが、監督ご自身も魅せられたわけですよね?

もちろんです。僕が翔子さんの書で一番好きなのが「両忘」という漢字で、これは過去も未来も両方を忘れると言う意味で、今を生きる意味だそうです。まさしく翔子さんの生き方そのものなんですね。その日、その時間、その瞬間を本当に全力で楽しく生きる彼女ほど、純度が高い時間を僕自身は過ごしてませんが、同じようにはできなくてもその何分の一かでもやってみようと思える、それが大事なのかなと。今回、翔子さんと母の泰子さんを一年間密着して改めて感じました。

●今回の映画化ですが、最初にオファーをした際、どういう反応だったのでしょうか?

最初は、なかなか泰子さんに首を縦に振ってもらえず、それでも何回かうかがい、熱意が伝わったのか、やっと快諾していただきました。

2022年の4月くらいにインタビューが始まり、5月の連休にクランクインしました。

当初は、僕は芸術性の高い書に惚れ込み、これは英語圏でもスペイン圏でも大画面で見せたいなと、そういうシンプルな想いで撮影をスタートしましたが、翔子さんの席上揮毫(書道パフォーマンス)や日常生活を見たり、泰子お母様のお話しを聞くうちに、撮影途中からアート作品映画から人間模様が中心の内容に少しずつ変化していきました。

●もちろん書が素晴らしいのですが、そこに至るおふたりの人生のドラマも凄まじく心動かされるものがあったということですよね。

そうなんです。考えてみれば、素晴らしい人間模様がないのに、あそこまでのものが生まれるはずがないですよね。僕は最初、そこを飛ばして見ていた。彼女の書だけを見ていたんです。でも違うんです、これが生まれるまでにはどれだけのご苦労があり、汗があり、涙もあり、笑いもあったかということ。5歳から書と向かい合い、長い時間をふたりで共有し合いながら、生きて来た。それらを映画表現で、芸術と人間模様を凝縮できたらと、クランクインして途中から、僕の考え方が変わるわけですよね。

●スクリーンを通して伝わるおふたりの生き様は、母娘のきずな以上のものがありますよね。

まさにドキュメンタリー映画になりました。もちろん、最初からドキュメンタリーではあったのですが、書いているところを追うとか、そういうものになるだろうと思っていました。ところが最初にインタビューをした際、ご本人の言葉から出るリアリティの凄さに圧倒されるわけです。なかなかない人生で、だからこそこの書なのだと逆に気付かされた。そこからでしたかね、映画が少しずつ変化しながらも神髄に近づいて行ったのは。

結果、僕が撮りたいと思って始めたドキュメンタリーでしたが、むしろ撮らされたという感覚に近いのかも知れません。

●おふたりは完成した映画をどう受け止めていらっしゃるのでしょうか?

試写をお見せした後に、黙って握手をしてくださって、自分は感無量で声も出なかったのですが、喜んでいただけました。それがとてもうれしかったです。

この映画には、実は驚くべき必然的なエピソードがありまして、昨年末に久ヶ原の画廊兼ご自宅に伺った際に、泰子お母様が片付けをしていたら12年前の絵馬が出て来たて、その裏に翔子さんの字で「神様、わたしの映画ができますように」と書いてある絵馬を見せてくれたんです。

怖くないですか、これ(笑)。僕も瞬間鳥肌が立ちました。
そしてお母様が(今回のことは)腑に落ちたとおっしゃったんです。

●それはつまり、映画が出来る運命だったということでしょうか?

最初にも言いましたが、何度も最初は断られてギリギリOKだったのに、映画を撮る運命だったと思ってくださって。僕もびっくりして「よかったですね」と。翔子さん本人が撮りたかったのかと。そんなことも含め不思議な話が多く、そんなエピソードもありましたね。おふたりのことを知れば知るほど、これをどう映画化しようか、そればかりを考えて作りました。ご本人の言葉から出るリアリティの凄さ、なかなかない人生ですよね。小説や物語にはないものです。

●最後になりますが、映画を観る方へメッセージをお願いいたします。

混沌とした世の中で、人とのきずな、共に生きることの神髄を身近で見させていただいて、本当に人間にとって一番大切なものはなんだろうと、自分自身も感じたからこそ、映画の内容が変わってしまうくらい、勉強になりました。

お2人と過ごせた時間は、自分にとっても晩年に向けての転換機になったとも思います。
みなさんもこの映画を観て、それぞれいろいろな思いを感じてほしいです。

■作品紹介

NHK大河ドラマ「平清盛」の題字を担当するなど、今や天才書家と呼ばれるようになった金澤翔子は、5歳から母・泰子を師として書道を始め、純粋な心で揮毫する彼女の“書”は数多くの人々を魅了してきた。彼女の代表作の一つである「風神雷神」は、京都の建仁寺で国宝・俵屋宗達の「風神雷神」の屏風に並んで書が納められ、日本のみならず国連でのスピーチやニューヨークやプラハでの個展開催など世界的な活躍を見せている。

生まれてすぐにダウン症と診断された彼女に母である泰子がどう向き合ってきたのか、どうやって彼女の才能を開花させていったのか、金澤翔子が書家として一流の舞台まで上り詰めるまでにはいくつもの努力と挑戦、そして母・泰子の支えがあった。

映画ではそんな彼女たちの日々の活動に密着して金澤翔子と母・泰子が共に生み出す“書道”と彼女たちの幸せの形に迫る。

『共に生きる 書家金澤翔子』
公開中

配給:ナカチカピクチャーズ
配給協力:ティ・ジョイ
出演:金澤翔子、金澤泰子
監督:宮澤正明

(C) マスターワークス

ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo