映画『帰れない山』監督インタビュー「ある人は映画を観た後、古い友人に連絡を取ってみようと言ってくれました」

  by ときたたかし  Tags :  

世界39言語に翻訳され、イタリア文学の最高峰・ストレーガ賞に輝いた同名の国際的ベストセラー小説映画化した『帰れない山』が現在、全国公開中です。

北イタリア、モンテ・ローザ山麓のアオスタ渓谷を中心に、トリノ、ヒマラヤ山脈で撮影された本作は、山と対峙して己と向き合い未来を見つめる青年たちの、かけがえのない友情と魂の交流を丹念に紡ぎ出した一作。

本作を共同監督したフェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン監督&シャルロッテ・ファンデルメールシュ監督にお話を聞きました。

■公式サイト:https://www.cetera.co.jp/theeightmountains/ [リンク]

●改めてうかがいますが、原作を読まれた際に映画化されたいと思われた、主な理由は何でしょうか?

フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン監督(以下、フェリックス監督):理由はたくさんありますが、自分のパーソナルな部分でつながりを感じたので、物語を自分でも語れるのではないだろうかと、読書をしていて思いました。実は当初は自分には遠いお話しで難しいだろうと思っていましたが、それが分かると自分でも語れそうなだと思ったんです。

実際、自分の両親も人里離れた山に家を建て、休暇ごとに家族で訪れていました。母は最終的にはそこに引っ越しました。実にパーソナルな意味で、自分にとってのブルーノ(アレッサンドロ・ボルギ)の存在もありました。ある意味似たような状況を設定できたことが、理由としてまずはひとつあります。

●共通点があったわけですね。

フェリックス監督:自分が心動かされた部分として、彼らが人生でもっとも根源的なところを大事にして生きているということが言えると思います。そういうことを考えていくに従って、自分も高い山で生活する機会はなかったけれども、そこに飛び込んでみようと思ったのです。

シャルロッテ・ファンデルメールシュ監督(以下、シャルロッテ監督):ストーリーそのものはとても柔らかく、詩的でありながら、それでもリアルで純粋さを持っているものです。どこか優しさも持っています。自分の人生を見失ったり、人を失ったり、残念な気持ちにさいなまれているなかでも、人生の糧となるものを見つけていくことができるんです。人生の愛を失わずに育むことができるんです。それが表現されていると思いました。

●撮影は、準備段階を含めてどのような感じでしたか?

フェリックス監督:とても困難なものでした。気候もどんどん変わるので、フレキシブルでなければならないことはとても大変でした。常に3~4のバターンを用意しておいて、天候に合わせて撮影を進めました。室内のシーンもスタジオは一切使わず、標高2000メートルの雪に囲まれた家で撮影をしました。それでもクルー全員が、このやり方に賛同してくれたので、撮影を進めることができたのです。

●ピエトロ役のルカ・マリネッリ、ブルーノ役のアレッサンドロ・ボルギの演技が素晴らしいですよね。どのように演出されたのですか?

フェリックス監督:特に監督として演出することが要らないほどでした。彼らが持ち込むものは素晴らしく、リアリティをもたらすものでした。ルカは2か月前から山に入り、散歩したり、毎日山歩きをしたり、どんどん役柄に入っていきました。アレッサンドロも一週間前に入り、乳絞りを覚え、チーズの作り方を覚え、没頭していきました。

ルカもアレッサンドロもピエトロとブルーノ、それぞれの役柄に対して、ちゃんと入り込んで行くことができたんです。

●パーソナルなものを撮ったことで、ご自身の人生に対しての価値観など、何か変わったことはありましたでしょうか?

シャルロッテ監督:確かにふたりの関係性においても、この作品はお互いをつなげてくれるものであったとは思います。コロナ禍があり、ロックダウンがあり、その中でふたりが一緒に作業をすることによって、何かを見出せるのではないか、一緒に仕事を成し遂げようという考えに至ったところはあります。

また、時間が止まっているような山の自然の状況の中で、自分たちの関係を見つめることで、新たなものを見出していくことが出来たようにも思います。あまり人もおらず、いつもより一緒にいる時間も多かったので、その中ではある意味ヒーリングのような状況が生まれたように思います。

●今日はありがとうございました。日本の映画ファンに投げかけたいメッセージはありますか?

フェリックス監督:みなさんが映画を観てくれるだけで心を動かされていますが、心がオープンになってくれればうれしいです。それぞれ違う感じ方があると思うので、ある人は映画を観た後に古い友人に連絡を撮ってみようと言ってくれました。美しいことがそれぞれたくさんあると思いますので、それぞれの感じ方で観ていただければと思います。

■ストーリー

都会育ちで繊細な少年ピエトロは、山を愛する両親と休暇を過ごしていた山麓の小さな村で、同い年で牛飼いをする、野性味たっぷりのブルーノに出会う。まるで対照的な二人だったが、大自然の中を駆け回り、濃密な時間を過ごし、たちまち親交を深めてゆく。やがて思春期のピエトロは父親に反抗し、家族や山からも距離を置いてしまう。時は流れ、父の悲報を受け、村に戻ったピエトロは、ブルーノと再会を果たし…

『帰れない山』

全国公開中

(C) 2022 WILDSIDE S.R.L. – RUFUS BV – MENUETTO BV –
PYRAMIDE PRODUCTIONS SAS – VISION DISTRIBUTION S.P.A.

第75回 カンヌ国際映画祭 審査員賞受賞

監督・脚本:フェリックス・ヴァン・フルーニンゲン&シャルロッテ・ファンデルメールシュ
撮影:ルーベン・インペンス

原作:「帰れない山」(著:パオロ・コニェッティ 訳:関口英子 新潮クレスト・ブックス)

出演:ルカ・マリネッリ、アレッサンドロ・ボルギ、フィリッポ・ティーミ、エレナ・リエッティほか

2022年/イタリア・ベルギー・フランス/イタリア語/1.33:1/5.1ch/147分/原題:Le Otto Montagne/日本語字幕:関口英子/配給・宣伝:セテラ・インターナショナル/宣伝協力:ポイント・セット

ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo