韓国映画『高速道路家族』主演 チョン・イル インタビュー 「本当の家族の意味を改めて考えさせてくれる映画です」

  by ときたたかし  Tags :  

第27回釜山国際映画祭では「『パラサイト 半地下の家族』に次ぐ大傑作!」「ユーモア、サスペンス、アクション…映画のすべてが詰まった傑作」と称賛され、本国の公開でも観客・批評家の熱狂を呼び、スマッシュヒットを記録したという話題作、映画『高速道路家族』が現在全国公開中です。

高速道路で暮らすホームレス一家と、家具屋を経営する裕福な訳あり夫婦。2つの家族の出逢いが予測不可能な展開を巻き起こす、パラサイティック・スリラー『高速道路家族』。

そのホームレス一家の父親ギウ役を、「太陽を抱く月」、「ポッサム ~愛と運命を盗んだ男~」など多くの大ヒット作品に出演、本作で実に7年ぶりのスクリーン復帰を果たしたチョン・イルさんが、これまでのイメージを覆す演技力で観る者を魅了しています。来日したチョン・イルさんにお話をうかがいました。

■公式サイト:https://kousokudouro-kazoku.jp/ [リンク]

●先が読めないサスペンスフルな物語の中に家族愛などいくつものテーマが織り込まれていて引き込まれてしまいましたが、ご自身はどこに一番魅力を感じましたか?

この映画は確かに、さまざまな解釈ができる映画だと思います。観る人ごとに受け取り方も変わって来るはずで、わたし自身も本作を6回観ていますが、観るたびに自分の感想が変わって来ます。どの視点で観るかによって、感情移入できるキャラクターも変わって来るんです。どんどん違って見えて来ます。なので立場が変われば面白さも変わる。本当の家族の意味を改めて考えさせてくれる映画でもあるのでオススメの一作です(笑)。

●改めてご自身にとって家族とは、どのような存在でしょうか。

普段はわたし自身とても忙しいですし、家族も忙しくしているので、どうしても家族という存在は二の次になりがちではあったと思います。でも、本作に関わることにより家族というものの意味について改めて考えるようになりましたし、家族と一緒にいられる時にちゃんと楽しく時間を過ごすことが大切だと思うようになりました。どんな時も味方でいてくれる、常に自分の大きな存在になってくれる家族に感謝したいなと思います。

●今回のギウというキャラクターは、これまでのイメージが変わるような役柄だったと思いますが、そこへの抵抗はありませんでしたか?

わたしにとっては約7年ぶりの映画復帰ということで怖さはありましたし、大きな挑戦だったと思います。でも、ギウという役柄は俳優なら誰もが演じたいキャラクターだと思い、いろいろな姿を表現できる役柄だと思ったので怖い気持ちはあったのですが、挑戦してみました。

ギウという人物は、とても感情の起伏がダイナミックな人物なんです。自分がちゃんと理解して感情が胸に迫って来るからこそ、ちゃんとした表現ができるわけなので、ギウについて監督とたくさんの会話をしましたし、そういう作業をしながら作り上げていきました。

●最終的にはどういう性格の人物だと理解して演じたのですか?

パッと見はギウという人物は、悪党に見えるかもしれない。ただ、そういう風に見えないようにしたいということで、監督とわたしは本当に話し合いを重ねました。ギウにとっては家族がこの世のすべてで家族が生きる理由なので、家族と一緒にいる時は底抜けに明るい。逆に家族をひとたびなくすと、彼にはすべてをなくしたも同然なんです。そういう感情の動きを上手く表現しようと思いました。

●約7年ぶりの映画復帰ということですが、この映画に出たことで感じたご自身の変化のようなものはありましたか?

演技をするようになり17年が経ちますが、大きな悩みのようなうちのひとつが、みなさんが持っている自分のイメージでした。それを持ち続けるべきなのか、あるいは変化を付けるべきなのか、これがいつもジレンマでした。ただ、やはり俳優というものは今あるポジションに安住するわけでなく、常に成功する姿を見せてこそこの先も長くこの仕事を続けていけるだろうと、そう考えました。だからこそこの『高速道路家族』は、わたしにとってプレゼントのような作品になったと思います。

また、実際本作に出て、みなさんが持っているそれまでの自分のイメージを破りたい想いもありました。韓国で公開された後作品を観た方々や同じ俳優業の人たちも、今までのイメージとは違うような新しい姿を観ることができたと多くの方が言ってくださいました。それはすごくうれしいし、最高の賛辞と言えると思います。ですからこの作品を通して、再び自信を得ることができました。

●これを機に、新たに成し遂げたいことは何でしょうか?

本作でギウを演じたから、たとえばちょっと悪役っぽいもの、刺激が強い役を演じたいということは特になくて、作品ごとに当然、新しい人物、新しいキャラクターを演技することになりますので、常にどの作品でも取り組む時の気持ちは同じなんです。ただ、この『高速道路家族』でギウを演じたことで、今まで演じたことがなかったようなキャラクターのオファーが入って来ています。なので今までとは違う、より幅の広いキャラクターを演じることになると思っています。

■ストーリー

テントで寝て、夜空の月を照明として暮らすギウ(チョン・イル)と3人の家族。彼らは、高速道路のサービスエリアを転々とし、再び遭遇することのない訪問者に2万ウォンを借りながら食いつないでいる。ある日、すでにお金を借りたことのあるヨンソン(ラ・ミラン)と別のサービスエリアで再び遭遇してしまう。不審に思ったヨンソンはギウを警察に届け出ることに。ヨンソンは残されたギウの妻ジスク(キム・スルギ)と子供2人を放っておけず、家へ連れて帰り一緒に暮らすことに。何不自由のない生活を送るジスクと子供たち。そんな家族をギウは取り戻そうとするが…。相反する二つの家族の出逢いがとんでもない結末を迎えることとなる。

配給:AMGエンタテインメント
全国順次公開中
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ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo