「映画監督として20年間で今一番幸せです」 映画『世界の終わりから』紀里谷和明、最後の監督作品撮り終えた心境を語る

  by ときたたかし  Tags :  

『CASSHERN』(04)など数々の作品を手掛けてきた紀里谷和明さんが監督・脚本を務め、監督自身“最後の作品”と公言している映画『世界の終わりから』から全国順次公開中です。

本作は“世界の終わり”とそれを救うため奔走する一人の女子高生の物語で、力強く生きる映画的なヒロインではなく、孤独と絶望に満ちた世界を必死に生き抜こうとする姿を独自の世界観で描いており、公開直後より大きな話題を集めています。

「映画監督として20年間で今一番幸せです」と語る紀里谷監督に、本作のことをはじめ、現在の胸中についてもうかがいました。

■公式サイト:https://sekainoowarikara-movie.jp [リンク]

■20年前描いた怒りと希望が、今回は絶望と希望になっている

●公開前の試写会でも評判だった本作ですが、改めて本作を撮ろうと思った心境の経緯をうかがってもよいでしょうか。

『CASSHERN』で僕は映画を撮り始め20年が経ちましたが、その当時から言いたいことは変わっていないんですね。世界の不条理について、その当時から語っていた。そして『CASSHERN』当時は僕の中に世界のそれに対するとてつもない怒りがありました。当時は30代。映画化の企画を始めたのは30歳の頃です。そこから20年経った今、基本的には変わっていないけれども、唯一違うことは当時描いた怒りと希望が、今回は絶望となっている。いや、絶望と希望ではあるのですが、そこが違います。

●それが今回、世界の終末を描いている理由ですね。

怒りがあきらめに変わってしまっているということですね。ただ、これは僕の勝手な想像かも知れませんが、現代に生きる多くの人たちから感じる感情でもあるんですよ。多くの人たちが、もはやあきらめちゃっている感じがする。絶望している感じがします。特に若い人たちを見ていると、そう思うことがよくあるんです。

ただ、それだけでは僕も悲しいので、そこに希望をほんの少し。そうは言いながら、いまだに僕もすがっているというわけです。

●確かに20年間を振り返ってみると、世の中自体が悪くなっていると思う人も多そうですよね。

世界情勢もそうですが、圧倒的に何が起こっているかと言うと、人々の孤独感がものすごく増しているということなんですね。これもよく言われることですが、ガジェットで、スマホで、人と人がつながってはいるけれども、孤独は増幅しているように見えるんです。だとすれば、悲しみや悩み、絶望をそこで共有することも難しいわけですよね。この作品の主人公もとてつもなく孤独ですし、僕の位置付けとしては、多くの人々の代弁者の存在として志門ハナがいる、ということなんです。

■主人公役は、伊東蒼さんでなければ成立しないと思った

●その志門ハナ役を伊東蒼さんが演じているわけですが、世界を救おうと奮闘する姿が頼もしいと言いますか、伊東さんならではの素晴らしい主人公像で演技力でしたね。

それが伊東蒼という俳優の素晴らしいところですよね。おっしゃるように、伊東さんが主人公役でなければこの物語は成立していなかったと思います。正直なところ、脚本を書き上げた時に「これはどうすれば…」と自分でも思いました。彼女を誰が演じるのか、はたして適役がいるのかと。あの時、実はとても恐怖を覚えました。本当に怖かったですね。

●その時はどなたも念頭に置かれてはいなかったんですね。

そうですね。それでキャスティングの方に伊東さんを教えていただいて、まず『さがす』を拝見しました。もう「この人だ!」と即決でした。でも伊東さんは高校生だから夏休みの間しか撮れないので、ほかのキャストの人たちにもお願いをして、伊東さんのスケジュールに合わせて撮影をしました。しかも毎日22時には必ず終わらせるので、相当な負荷だったなと。

●伊東さんご本人は撮影で「強くなった」と振り返っていました。

ご本人には、ものすごく負荷をかけてしまったと思いますね。映画としても出ずっぱりだし、ありとあらゆる感情をフルパワーで表現してもらわなければいけなかった。壊れるのではないかという恐怖もありました。

■これを僕の“遺書”、最後の作品としてみなさんに提出する

●これが「最後の監督作品」ということですが、それは本当ですか?

圧倒的に少ないバジェットで制作していたので、細部のことを言うとキリがない話なのですが、そこを考えずに言うと、もう僕はこれが本当に最後の1本でいいと思っているんです。これを僕の“遺書”として、最後の作品として、みなさんに提出する。それで問題はない。僕の最後の1本であり、唯一のものでもいいと思っているんです。

●そしてすべてを終えた今、いかがでしょうか?

自分の中での合格点のラインはあったので、そこを超えられない恐怖はあったのですが、この20年間、映画は4本だけですけれども、ありとあらゆることが全部、この作品に到達するための階段だったと思います。だから、映画監督としては非常に幸せですね、今。自分の尺度でしかないのですが、そのポイントに到達できたという達成感が強くありますね。

●悲しまれるファンの方も多いと思いますが、お気持ちは変わらないのですね。

そうですね(笑)。20年やってきて、映画を作ることは苦しいことの連続でした。それの苦しみは大きかった。あとは、ひとつの終着点として言いたいことは言い尽くしてしまったんですね。だからまた何か伝えたいことが出てくるまでは、たぶん無理なんですよね。それと映画をやっていると、人生がそれ一色になってしまうんです。今年55歳でもあり、違うものを見てみないと、みずみずしい感覚にはならないんですよね。一度自分を映画と切り離さないと、新しいこともできないと思うんです。人間として成長するため、喜びを感じるため辞める。それが正直な気持ちです。

■ストーリー

高校生のハナ(伊東蒼)は、事故で親を亡くし、学校でも居場所を見つけられず、生きる希望を見出せずにいた。ある日突然訪れた政府の特別機関と名乗る男から自分の見た夢を教えてほしいと頼まれる。
心当たりがなく混乱するハナだったが、その夜奇妙な夢を見る……。

ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo