Huluオリジナル「THE SWARM/ザ・スウォーム」プロデューサーが語る、超大型深海SFサスペンスの“ふたつのポイント”とは?

  by ときたたかし  Tags :  

オンライン動画配信サービスHuluが参画した超大型国際ドラマ「THE SWARM/ザ・スウォーム」(全8話)が現在Huluで独占配信中です。

本作は、世界中で大ヒットしたHBO製作ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」の主要プロデューサーの一人で、数々のエミー賞受賞歴を誇るフランク・ドルジャーが「ゲーム・オブ・スローンズ」以降初めて手掛ける連続ドラマで、全8話からなる世界各地を舞台とした深海SFサスペンス。木村拓哉さんの海外ドラマ初出演でも反響を集めました。

本作の製作総指揮を務めるフランク・ドルジャー氏にインタビュー。名プロデューサーが語る2つの撮影時のこだわりや2つの重要ポイントとは!?


●原作小説はかなりボリュームがありますが、それを全8話のドラマに落とし込むにあたり、どのような基準で取捨選択をされたのですか?

「ゲーム・オブ・スローンズ」や「ジョン・アダムズ」、「ROME[ローマ]」の制作の経験から学んだことがひとつあり、それは何があってもキャラクターに焦点を当てるということです。ストーリーは常にキャラクターからの視点で描かれなければならないと考えています。原作は科学的な説明が非常に多いのですが、それらをすべて映像化するのは難しいです。今作では登場人物たちがそれぞれの場所で異変の原因を調べていくのですが、その過程でキャラクターの強みや弱みが反映されているエピソードをつなげていき、成長に繋がっていないエピソードはカットするというアプローチをしました。

そして、全体的にストーリーをシンプルにしています。先ほどお話ししたように、本作をディザスターものとしては描きたくなかったのですが、原作の後半3分の1はそういった方向に向かっていきます。映像化にあたっては物語にとって必須になる部分だけを抽出し、科学者たちがいかにこの未知なる存在と向き合っていくのかをドラマとして見せることを意識しました。原作では後半、実は人間対人間という構造になっていくのですが、ドラマではそうではなく、人間と自然界や海との関わり合いをしっかりと描くように意識しました。

●映像で特にこだわったところを教えてください。

主に2つの点にこだわりました。まず1つ目は「海」をキャラクターとして扱うこと。

「THE SWARM/ザ・スウォーム」では登場人物たちが海で起きたことに対してリアクションをすることで物語が進行していきます。そういった背景もあり、海を1つのキャラクターとして描くことが重要でした。そのため、屋外のシーンはなるべく海に近いところを撮影場所として選び、視覚からも音からも海という存在を感じられるように工夫しています。

2つ目は、海のシーンは場所によってビジュアルやサウンドを全く異なるものに変えているという点です。海というものが美しくも危険な場所であり、人間よりもはるかに力強い存在であるということを表現したかったんです。

●木村拓哉さんの出演も話題ですが、お仕事をされた感想を教えてください。

木村さんについてはハッとさせられた部分が3つあります。1つ目は年齢を重ねていて大人の成熟した権威を表現できる感性、2つ目は知性が感じられること、最後にスクリーン上の存在感でした。

木村拓哉さん演じるアイト・ミフネは原作の後半で非常に重要な役割を果たす米軍総司令官の女性ジュディス・リーを、木村さんのイメージに合わせて作り変えたキャラクターです。一緒にお仕事をさせていただいて、とても素晴らしかったです。現場では撮影はとてもスピーディーに進行していき、複雑なシーンもあったのですが、見事に演じ切ってくださいました。他のキャストともとても良いバランスでしたし、演技も見ごたえのあるものとなっています。特にミフネは、物語を1つにまとめてくれるとても重要な役割を担っています。彼のためにミフネというキャラクターを作ることができて本当に良かったです。


●撮影中の木村拓哉さんとのエピソードがあれば教えてください。

撮影を通じて特に感心したのは、ミフネのオフィスの撮影シーンでの出来事です。2日間かけて色々なシーンを撮影したのですが、ビデオ通話をしているシーンや、グリーンバックで背景を変えるなど、様々なことをしなければなりませんでした。撮影現場から離れた場所に木村さんの控室を用意していたのですが、撮影が終わった後、彼が控室に行ってから5分後くらいにすぐメイクさんと衣装さんを引き連れて撮影現場に戻ってきて、「控室を用意してくれるのはとても感謝しているけど、行ったり来たりする時間がもったいないから、撮影場所にスペースを用意してくれればそこでメイク直しや着替えをするよ」と言ってくれたんです。

セットの角の方に椅子を置いてカーテンをかけてスペースを作り、そこでメイク直しや着替えをしてくれたので、通常は移動も含めて30分かかる所を5分で衣装替えができるようになりました。そのおかげで色々なアングルで撮影ができたし、監督と共に演技を深めていくことができました。普段、大スターとお仕事をしている自分の経験からすると、作品や演技がどうこうというよりも、自分がどう扱われるかの方が大事、という方は結構いらっしゃいますが、木村さんは全くそうではありませんでした。自分がやりやすい環境にこだわるのではなくて、時間を無駄にせず、より良い作品を作りたいという思いからそういったことを仰ってくださり、これが本当のプロフェッショナルだなと感心しました。

●「THE SWARM/ザ・スウォーム」を楽しみにしている日本の視聴者にメッセージをお願いします。

まずは作品を楽しんでいただきたいです。2つ重要なポイントがあります。1つ目は原作では割とはっきりと「善人」「悪人」を分けて描いているのですが、ドラマでは絶対にそのような描き方はしたくありませんでした。みんな善悪のバランスが取れたキャラクターとして描いています。気候変動や海を守るために、我々全員が行動することができるのだということを伝えたかったからです。ドラマの中のあるキャラクターのセリフに「海が死ねば我々も死ぬ」というものがあります。今まで皆さんが環境に対してどう振る舞ったのかは別にして、本作を見る事で、環境に対してまた違った向き合い方ができるようになればと思っています。

2つ目は原作では割と年配のキャラクターが多いですが、ドラマでは若いキャラクターに設定を変更していることです。若い世代の中には、環境に対するダメージがあまりにも大きすぎて、希望がないんじゃないか、もう何をしても無駄なんじゃないかと思っている方もいると思います。そんな方々にも、作品を見終わった後に、まだまだ私たちにもできることがある、と感じてもらえればうれしいです。

作品概要
タイトル:Huluオリジナル「THE SWARM /ザ・スウォーム」(全8話)
配信情報:Huluで独占配信中

■スタッフ
製作総指揮:フランク・ドルジャー(「ゲーム・オブ・スローンズ」(11~19)
監督:バーバラ・イーダー(「バーバリアンズ -若き野望のさだめ-」(20)
「Thank You For Bombing(原題)」(15)
ルーク・ワトソン(「Britannia(原題)」(18)「リッパー・ストリート」(12~16)
原作:「深海のYrr」フランク・シェッツィング著
脚本:スティーヴ・ラリー(エミー賞ノミネート作品「ストライクバック」(10~20)
マリッサ・レストラード(「ディープ・ステート」(18~)
制作:インタグリオ・フィルムズ、ndFインターナショナル・プロダクション

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ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo