窪塚洋介主演『Sin Clock』牧 賢治インタビュー 「黒服の男たちが何か悪巧みしている映像を自分でも観たかったんです」

  by ときたたかし  Tags :  

窪塚洋介さんが18年ぶりの邦画長編単独主演作となった映画『Sin Clock』が現在、新宿ピカデリーほか全国公開中です。

どん底の人生を生きるタクシードライバーたちが思いもよらぬ偶然の連鎖に導かれ、幻の絵画をめぐるたった一夜の人生逆転計画へ挑む姿をスリリングに描き出す予測不能の犯罪活劇。

その本作で商業映画デビューを果たした牧 賢治監督に話を聞きました。

■牧 賢治
1979年生まれ。2014年に初の脚本・監督作として短編『japing』をわずか20万円で製作し、スティーヴン・スピルバーグやジョージ・ルーカスも受賞経験のあるヒューストン国際映画祭短編部門にてゴールド賞を受賞。その後もサラリーマンをしながら、2017年にHIP HOP長編映画『唾と蜜』を自主制作。ニース国際映画祭ほか国内外で受賞し、単館劇場系で一般公開。今回が記念すべき商業映画デビュー作となる。

■公式サイト:https://sinclock.asmik-ace.co.jp/ [リンク]

●ストーリーは、何に着想を得ているのですか?

自分の経験がヒントになっていますが、20歳の頃に出会ったクエンティン・タランティーノ監督がとても好きで、特に『レザボア・ドッグス』(92)ですよね。黒服の男たちが何か悪巧みしている映像を、自分なりに上手く、しかもアジア、日本という地で描けないかなという想いがあったんです。

ただ、黒服だから任侠の世界にするのではなく、普段から黒服の人たちはいるだろうと。そうだ、タクシードライバーの方たちはいつもスーツを着ている。 なので彼が巻き込まれていく物語にすれば、必然的に黒服の男たちが密談しているカッコいい映像になるのではないか、という狙いはひとつありました。

●ノワール感や懐かしい雰囲気も素敵でした。

映画だけでなく、小説の影響も受けています。邦画でも北野武監督、僕たちの世代ではSABU監督、塚本晋也監督。小説であれば村上龍さんであったり、花村萬月さんであったり、ハードボイルドで言うと梁 石日さん。あのストーリー展開が好きで、そういうノワールを描く作家さんの刺激を受けたのが20代。そこがずっと自分の中に残っているというのはあります。一番感受性が豊かだった時代でしたので。

あの当時感じた刺激を、次の世代にも持ってもらいたいなと、おこがましいのですが、そういう想いはあります。それに自分が刺激を受けたあの世界観を、自分自身で観てみたかったというのもありますね。

●音楽面も素晴らしかったです。

今回、Awichさんや、Jinmenusagiさん、GEZANさんらに、素敵な楽曲をたくさんご提供いただいているので、音楽映画としてもライブを聴きに行くような感覚で観ていただけます。劇場でないと楽しめないとうか、あの爆音を生で浴びてもらうと、映画を楽しみながらライブも味わえる感覚になるので、音楽好きの方にもぜひ観ていただきたいというのもあります。

●商業映画デビューということで、終えてみていかがでしょうか?

前作までがインディペンデント映画で演技経験のない方にも出ていただいていたのですが、今回は窪塚洋介さん、坂口涼太郎さん、葵揚さんなど、一線で活躍する一流の俳優の方々がたくさん出ています。自分のインディペンデントでのやり方がしっかりと響くのか、そこが一番意識しました。

●窪塚さんも長編邦画では18年ぶりの単独主演でした。

僕自身、特別な存在だと思いました。すべてのシーンにおいて主演俳優の振る舞いをしていただいたなと思いました。お芝居だけでなく、座長として現場もとても柔らかくしていただいて、共演者の関係、事前のリハーサルなども綿密に打合せして現場に臨まれていた。主演俳優の役割というものを勉強させていただきました。

●チョコレートプラネットの長田庄平さんの“権力に酔うマッドコップ”、警官・成田役など、キャスティングの妙と言いますか、みなさん強く印象に残りましたが、どのように決めたのですか?

企画段階で人物像のビジュアルを作り上げて行くんです。自分には脚本を書く前から明確なビジョンがありまして、佇まい、口調、人物像が頭の中にあるんです。それを元に探していくと、今回の警官の場合、必然的に長田さんになりました。普段すごく面白いお笑いをされていますが、YouTubeで「悪い顔選手権」などをされていて、コントなどでも怪しい役柄が少なくない。持っている空気感がいいなと思っていました。

●今日はありがとうございました。最後に一言お願いいたします。

大きくくくると、サスペンス・ノワールで、クライム・ムービーであり、アクションもありという映画です。ただ、主人公はドロップアウトしているものの、元々普通のサラリーマンという設定です。 つまり描いている感情は、どのような方たちでも抱くようなそれであり、主人公、その奥さん、まわりの人たち、どの立ち位置に立っても、自分を投影、共感していただけると思います。広い世代の方が楽しめるので、ぜひ劇場へお越しください。

■ストーリー

どん底の男たちは、たった一夜の強奪計画で、人生逆転を果たせるのか――?
偶然が連鎖する、予測不能の犯罪活劇。

社会からも家族からも見放されたタクシードライバー、高木。
奇妙な偶然が呼び寄せた、巨額の黒いカネを手にするチャンス。鍵を握るのは一枚の絵画。
高木はたった一夜での人生逆転を賭け、同僚らと絵画強奪計画を決行。
だが、運命の夜はさらなる偶然の連鎖に翻弄され、男たちの思惑をはるかに超えた結末へと走り出していく――。

『Sin Clock』
絶賛上映中
配給:アスミック・エース
(C) 2022映画「Sin Clock」製作委員会

ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo