ガガ様の興奮と熱狂と慈愛に満ちた8年ぶりの来日コンサート(辛酸なめ子)

その2日間、所沢は日本で最もHOTなスポットになっていたことでしょう。埼玉県所沢市のベルーナドーム(西武ドーム)で9月3日、4日に「LADY GAGA PRESENTS THE CHROMATICA BALL」が開催。2020年の来日予定がコロナで延期になっていたので、待望の公演となりました。

レディー・ガガの来日コンサートは8年ぶり。これまで過去の公演をほとんど拝見していますが、2012年の「THE BORN THIS WAY BALL」では乳首から炎を吹き出すワハハ本舗ばりに体を張った演出が印象的でした。2014年の「ArtRave: The ARTPOP BALL」では貝ビキニやタコ、ヒトデ風など海の生き物シリーズが独創的で楽しかったです。当初は肉ドレスを着ていたガガ様が、魚になって次は何に変身するのか期待が高まります。

西武線の時点でラッシュ状態でしたが、広大なベルーナドームはほぼ満席。人々の熱気で水蒸気が発生しそうです。購入できたチケットはライト側でステージ正面は見えない席でしたが、花道や中央にもステージがあるので、会場の誰もが見えるようにパフォーマンスをしてくれそうな予感です。

アーティスティックな映像に続き、カウントダウンがあり、スモークとともに登場したガガ様。逆三角形のシルエットの衣装ははどこか宇宙的です。そしてやはり登場したとたん、巻き起こる悲鳴。歓声は自粛のご時勢ですが、ガガ様が現れたら反射的に叫ばずにはいられません。序盤はモードな黒っぽい衣装に身を包み、「Bad Romance」「Just Dance」「Poker Face」などのダンサブルなヒット曲を連発。やはり生の歌唱力がすごすぎます。ダンサーの数も多くゴージャスな演出です。会場のテンションはMAXに。

そのあと、ステージ横の台に磔のように寄りかかったガガ様は、赤い衣装が鮮やかでした。まとっていた布の下には、血だまりのような柄のトップスを着用。グロい衣装もかっこよく着こなしてしまうのがさすがです。

8年ぶりに拝見したガガ様は、28歳だった前回よりも36歳の今の方がパワーアップしてダンスも激しいです。貫祿も増していました。「Put your hands up Tokyo!!」と、パワフルな煽りで何十回も観客に手を上げるように促していました。つい従ってしまうカリスマの圧。

命令口調と、愛情あふれるトークのギャップが刺激的で心がつかまれます。MCを含めて何度も「アイシテマス」「アイシテマス So much!」「I feel so much love!」「I love you so much!」と、日本人への愛を叫んでくださり、感無量です。また、ここ数年、新型コロナウイルスの流行で世界中の人たちが負った傷について語ったり、「Born This Way」を歌う時に、LGBTQコミュニティに向けて「あなたたちは完璧です」と語りかけたり、MCにもガガ様の慈愛があふれていました。ピアノの弾き語りは中央ステージで行っていて、遠目ですが見やすいです。

何より圧巻だったのは炎の演出。コンサートでは頻繁に、火炎放射器のようにあちこちから巨大な炎が発せられ、スタンド席でも熱いのでステージ周辺はどれほどの熱さだったか想像に難くありません。全く動じず、むしろ炎のエネルギーを取り込んで、パワフルなパフォーマンスを見せるガガ様に、プロ魂を感じました。終盤になっても全く歌声は衰えず……。炎は最終的にステージ上でも燃え盛っていて、ガガ様が何度か飛び越える姿は火渡りの神事のよう。炎の背後で片手を上げるガガ様の勇姿は、溶鉱炉の沈むターミネーターのシーンを思わせました。

海の生き物に続く仮装ですが、今回は触覚のようなかぶりものが多かったので、「昆虫」に変身していたのかもしれません。気候変動や食料危機に伴い、昆虫食に世の中の関心が集まっている状況を表しているようです。やはりガガ様は時代を象徴する歌姫です……。というか、もはやシャーマンかもしれません。アンコールの「Rain on Me」「Hold My Hand」などを聴いて、感動の余韻に浸りながら外に出ると、「Rain on Me」の歌詞のままに大雨が降っていたのです! 気候すら操るガガ様の歌のパワーに驚きました。

傘も役に立たないほどの豪雨で、びしょ濡れになりながら駅に向かうと、前方から「キャー!」「ガガ様!!!」と悲鳴が。なんとガガ様がレオタード風の衣装のまま、お客をお見送りに土砂降りの中に飛び出してきたのです。この日、一番近くで姿を拝見できた瞬間でした。元気がありあまっているガガ様にパワーをわけてもらい、帰りのラッシュの西武線にもなんとか耐えられました。観客からの愛を吸収し、また愛を返してくれる……そんなガガ様の愛の連鎖に8年ぶりに浸ることができた公演でした。

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト。東京生まれ、埼玉育ち。雑誌や新聞、ウェブなどに寄稿。 近著に「愛すべき音大生の生態」(PHP)「スピリチュアル系のトリセツ」(平凡社)、「電車のおじさん」(小学館)、「無心セラピー」(双葉社)、「新・人間関係のルール」(光文社新書)、「女子校礼讃」「辛酸なめ子の独断!流行大全」(中公新書ラクレ)など。