「“今”のブライアン・ウィルソンが描ければ、過去の作品と違うものが作れる確信はありました」 ドキュメンタリー映画『ブライアン・ウィルソン/約束の旅路』監督インタビュー

  by ときたたかし  Tags :  

アメリカのロックグループ「ザ・ビーチ・ボーイズ」の創設メンバーにして伝説的リーダー、ブライアン・ウィルソンにスポットを当てたドキュメンタリー『ブライアン・ウィルソン/約束の旅路』が現在公開中です。

ブライアンをめぐっては過去に数本のドキュメンタリー、劇映画が製作されていますが、本人に長時間、密着してのアプローチは本作が初となります。そのほか貴重なアーカイブ映像やブライアンをよく知る関係者、彼を信奉する有名ミュージシャンたちのコメントも絡め、伝説のアーティストの実像を鮮やかに紐解いていく、新たな切り口の一作に。

監督は、ドキュメンタリー畑出身のブレント・ウィルソン。ラストネームが同じだけでブライアンとは血縁関係がないですが、9歳の頃からザ・ビーチ・ボーイズの熱烈なファンだったそうです。取材しました。

■公式サイト:https://www.universalpictures.jp/micro/brian-wilson [リンク]

●日本公開おめでとうございます。作品の日本公開を受け、日本の映画ファンには何を感じ取ってほしいですか?

ブライアン・ウィルソンの神話と伝説を、本作で上手いこと分けることができたかも知れません。そして人間としてのブライアン・ウィルソンも分けることができたと思っています。なので希望としては、本物のブライアン・ウィルソンを観てもらうことができるでしょう。伝説だけでなく、人としてのブライアン・ウィルソンを観てもらうことができるのです。

●もともとザ・ビーチ・ボーイズ、そしてブライアン・ウィルソンの熱心なファンだそうですね。

9歳の時からのファンです。今は53歳なのでずいぶん長いですよね(笑)。当時父が亡くなったばかりで、彼のレコードコレクションを父がどういう人間だったか知るために眺めていました。そしてコルベットの横に立っている5人の男たちを見て、とてもクールなジャケットだと思いました。そのレコードをかけ、最初に聴いたアルバムが「シャット・ダウン・ヴォリューム2」でした。それ以来ザ・ビーチ・ボーイズ、ブライアン・ウィルソンのファンです。ザ・ビーチ・ボーイズの音楽が最初に好きになった音楽でした。自分の人生の一部です。

●本作を映画化するにあたり、どういう想いで作業へと入りましたか?

とても長い時間がかかっていますが、とても情熱を持って進めていたプロジェクトでした。ドキュメンタリーは本当に大変な作業です。本当に大変なプロセスでした。彼は何度も背中の手術をしていますし、何度もインタビューをしようと試みましたが、上手くいかなかったんです。そして、リリースのタイミングでコロナが蔓延するという状況になりました。

●改めてうかがいますが、これまでにもブライアンを扱った作品はありましたが、今作の特色は何でしょうか?

あまりにもたくさんのドキュメンタリー映画があるので似てしまうと困るから、どれだけ違うものが作れるかが重要でした。ただ、多くのそれはとてもいいものですし、『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』という長編映画もありましたよね。それでもブライアンの熱心なファンとしては、まだ本物の彼が描かれていないように感じました。今のブライアンについて、ですね。彼の今を描くために、映画製作に乗り出しました。それさえできれば、ほかの映画とは違うものが作れるという確信はありました。

●そして、ブライアンやザ・ビーチ・ボーイズの真相に迫り、驚いたことは何でしょうか?

ブライアンがどれだけユーモアがあり、楽しい人間か分からなかったんです。とてもドライなユーモアのセンスがあり、常に驚かされました。クルーも楽しませてくれますし、とても笑わせてくれます。仲間たちと過ごすことが、どれだけ楽しいかを見せてくれます。彼はふたりの弟と一緒に育っていて、19歳からバンドを始め、仲間たちと過ごすことが好きだったわけです。そういう側面を知ることが出来て、とても良かったです。映画の中で彼が語っているように、ただみんなとつるみ、バカなことをやっていることが楽しいんです。それはとてもうれしい発見でした。

●一方で、この映画を撮る上でミッションのようなものはありましたか?

彼の精神状態の問題は映画のテーマとして難しい側面はありましたが、その精神的な問題を分けて彼の人生を語ることも難しいと思いました。それがどれだけ困難なことであろうとも、それをストーリーの中で語ることは必然だと思いました。精神的な問題そのものが、彼の人生の物語の一部だからです。本物のブライアン・ウィルソンを描くのであれば、です。ただ、精神疾患との戦いや苦しみは彼にとって大きな問題であり、それを監督としてきちんと語ることは大きな役割だと思っていましたが、ブライアン・ウィルソンの伝説の大事な一部は、音楽なのです。

●今回、監督として、ファンとして作品を作り終えていかがですか?

とても満足しています。困難はありましたが、それによって映画がどんどんよくなっていったと思っています。本物のブライアン・ウィルソンをきちんと捉えることが出来たと思っています。エルトン・ジョン、ブルース・スプリングスティーンなどの素晴らしい人たちが、ブライアンについてあれだけ語ってくれていることもうれしく思っています。なのでみなさん、彼のファンであろうとなかろうと、それぞれに感じ取って、彼が残した意図を自分なりに手繰り寄せてもらうことが、わたしの希望です。

■ストーリー

「サーフィン・U.S.A.」「グッド・バイブレーション」「神のみぞ知る」、そして名盤『ペット・サウンズ』『スマイル』。名曲誕生の裏にあった、孤独と悲哀。音楽の神に愛され、天才という名を欲しいままにしていた元ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソン。その輝かしすぎる栄光の日々の半面、プレッシャーに苛まれ陥った薬物中毒、バンドメンバーとの確執、そして精神科医による洗脳など長いすぎる暗黒時代を経て、ようやく人生の第三幕を歩み始めたブライアンに密着した初めてのドキュメンタリー。“絶望”と“孤独”を知ったからこそたどり着いた“希望”と“喜び”。3年間70時間にも及ぶ撮影と、貴重なアーカイブ映像や未公開のデモ音源、音楽界の著名人によるインタビューとともに、9か月をかけて再構成した本作。波乱万丈な人生を送り生きる喜びをシンプルに表現し続けた、ブライアンの軌跡を辿る旅路の果てに見えた素顔とは?秘められた想いが今、「天才」自身の言葉によってつむがれる。

『ブライアン・ウィルソン/約束の旅路』
(C) 2021TEXAS PET SOUNDS PRODUCTIONS, LLC
配給: パルコ ユニバーサル映画
TOHOシネマズ シャンテ、渋谷ホワイトシネクイントほかにて全国公開

ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo