韓国映画界の鬼才、ナ・ホンジンのリクエストとは?その想いを受け継いだ映画『女神の継承』バンジョン・ピサンタナクーン監督インタビュー

  by ときたたかし  Tags :  

衝撃のデビュー作『チェイサー』(08)、そして『哀しき獣』(10)、『哭声/コクソン』(16)などの韓国映画界の鬼才ナ・ホンジン監督。その新作も待たれるなか、初めて海外の監督とタッグを組み、原案・プロデュースを手がけた待望の新作、『女神の継承』が現在公開中です。

ミニシアターランキングで2週連続第1位に輝くなど大ヒット公開中ですが、本作はタイ東北部イサーン地方が舞台であり、深い森や神秘的な洞窟、エキゾチックな儀式を余すところなくカメラに収め、観る者を社会の常識が通用しない戦慄の秘境へと招き入れます。

監督・脚本は、バンジョン・ピサンタナクーン。本作制作のきっかけは、ナ・ホンジンが『哭声/コクソン』の続編としてファン・ジョンミンが怪演した祈祷師・イルグァンの物語を思いついたことだったそうですが、その構想はタイの祈祷師をモチーフに本作へと受け継がれ、ピサンタナクーン監督が新たな映画として完成。その経緯も含め、お話を聞きました。

■公式サイト:https://synca.jp/megami/ [リンク]

■監督・脚本:バンジョン・ピサンタナクーン

1979年、タイ生まれ。パークプム・ウォンプムと共同で監督を務めた『心霊写真』(04)で長編デビュー。2004年度のタイ国内興収1位を記録した同作品は、落合正幸監督のハリウッド映画『シャッター』(08)としてリメイクされた。その後、タイの有名な怪談に基づくホラー・コメディ『愛しのゴースト』(13)が、国内の歴代興行成績を更新。1000万人を動員する大ヒットとなった。

●映画に登場したイサーン地方は素晴らしいロケーションでしたが、実際に撮影してみていかがでしたか?

あの地域は、タイでも観光地としては選ばれない地域なんです。北部のチェンマイや南部のプーケットは人気がありますが、イサーンはそれほどイメージが付いていない土地なんです。実際に撮影に行ってみたら、メコン川沿いの雰囲気や、迷信と結びついている地域性は気に入りました。

また、韓国のプロットにはキリスト教の描写がたくさん出てきましたが、タイではそこまで普及していないんです。でも、イサーンの一部にはキリスト教を信じている場所があり、映画の中にもクリスマスのパレードが出て来るのですが、映画としても記録したいと思ったんです。タイ人の目から観ても、とてもパワフルな情景だったと思います。

●作品中には魅力的な人たちがたくさん出てきますが、どのように人選したのですか?

キャスティングはとても難しかったです。というのはリアルな演技をしてほしかったので、有名な俳優を選びたくなかったのです。演技経験はあってもいいのですが、大衆に顔を覚えられていない俳優が理想的でした。なので大事な役や霊媒師などは舞台俳優、パントマイマーから選びました。

●ナ・ホンジン監督が原案で、監督が脚本を担当されていますが、どういう経緯でタッグを組むことに?

実はバンコクで出会い、その3~4年後に連絡をいただきました。韓国語で脚本を書いていたが、それは辞め、ローカライズしてタイ映画として撮ってほしいと言われました。連絡をもらった時は、本当にうれしかったです。自分が大好きな監督なので、ぜひ一緒に仕事をしたいと思いました。

●ナ・ホンジン監督は厳しいイメージがありますが、共同作業の感想はいかがですか?

そうですね。わたしがディテールを映画に入れていったのですが、「明確に描くのではなく、オブラートに包むように」と言われました。「観客が観ているうちに少しずつ疑問を持つように」と。そういうアドバイスをもらいました。

●観客の想像力を刺激するためでしょうか?

観客が自分自身と紐づけてほしいという意図だったと思います。制作者の意図が100パーセント、ひとりの人間に届くとは思えないんですよね。観客は理解する箇所が異なるもので、その状態で話し合うことで補完してもらいたいとう意図がありました。それはさまざまな国で成功しました。

たとえばタイでも成功したのですが、ネットの批評や掲示板でさまざまな議論が展開されていました。わたしもナ・ホンジン監督もストレートにメッセージを投げることはせず、観客には考えてもらい、自分のことのように受け取ってもらいたいと思いました。

●ちなみにナ・ホンジン監督は、完成した作品にどういう感想を?

コロナ禍で彼は撮影には来られず心配だったのですが、見せたところ気に入ってくださって特に問題もなかったですね。もちろん多少の直しは入っていますが、大筋では変更なしでした。僕自身も80パーセントはよくできたかなと思っています。

●日本の映画ファンには、どうアピールをいたしますか?

興味深い作品を撮ったつもりです。特にホラー映画のファンにはおすすめで、いろいろな新しい試みをしたアジア映画なので楽しんでもらえると思いますし、気に入っていただけたらうれしいです。

■ストーリー

タイ東北部の村で脈々と受け継がれてきた祈祷師一族
美しき後継者を襲う不可解な現象の数々…

小さな村で暮らす若く美しい女性ミンが、原因不明の体調不良に見舞われ、まるで人格が変わったように凶暴な言動を繰り返す。途方に暮れた母親は、祈祷師である妹のニムに助けを求める。もしやミンは一族の新たな後継者として選ばれて憑依され、その影響でもがき苦しんでいるのではないかー。やがてニムはミンを救うために祈祷を行うが、彼女に取り憑いている何者かの正体は、ニムの想像をはるかに超えるほど強大な存在だった……。

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ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo