福井県福井市の浄土真宗本願寺派・照恩寺の朝倉行宣住職が実践している『テクノ法要』。2022年4月29日・30日に開催された『ニコニコ超会議2022』内の『超テクノ法要×向源』では、伝統的な歌謡などのコラボを展開していましたが、中でも神戸市兵庫区の時宗・満福寺の岩田尚登住職を中心とした踊り念仏プロジェクト『YUYAKU(踊躍)』と踊り念仏のテクノバージョンを披露して大きな反響を巻き起こしました。
参考記事:【ニコニコ超会議2022】サウンド&VJが圧巻! 宗派を超えたコラボがナムい『超テクノ法要×向源』
https://getnews.jp/archives/3268362 [リンク]
ここで執り行われた踊り念仏は、2022年5月10日にiTune、Spotify、Amazon Musicなどの音楽配信サイトでリリース。『ニコニコ超会議』でも美麗な映像で彩ったKen-ichi KAWAMURA氏のCGがジャケットになっており、現代にブラッシュアップされた踊り念仏を体感することができます。
一方で、全国に約400の寺院を持つ時宗では、特に踊り念仏が存続の危機に晒されているといいます。ここでは朝倉住職と岩田住職に、『テクノ法要』と『YUYAKU』のコラボの経緯や、時宗と踊り念仏の現状、今後の展望についてお聞きしました。
【テクノ法要 2022】テクノ踊り念仏(踊躍第1念仏〜第4念仏 feat. YUYAKU プロジェクト)
https://www.youtube.com/watch?v=Q3KqHJK5vHU [リンク]
【テクノ法要 2022】テクノ踊り念仏(踊躍第5念仏 feat. YUYAKU プロジェクト)
https://www.youtube.com/watch?v=8uefbd2jk30 [リンク]
「オリジナルの踊り念仏のビートを大事にしました」
――朝倉住職は『テクノ法要』で宗派を超えたコラボを次々に実践されていらっしゃいますが、今回、時宗の岩田住職と踊り念仏テクノバージョンを制作することになったきっかけから教えてください。
朝倉行宣住職(以下、朝倉):最初は『YUYAKU』プロジェクトのイベントに協力させて頂くところから始まったんですよね。
岩田尚登住職(以下、岩田):一昨年(2020年)の秋に、満福寺で音楽に関わるアーティストさんに何人か協力して頂いたおためしライブを開催して、踊り念仏のメロディに合わせた楽曲を発表してもらったんですね。ラップなどさまざまなジャンルをミックスした踊り念仏の形を模索してもらって、その時が朝倉さんとのはじめてのコラボでした。
朝倉:今回の『ニコニコ超会議』では、岩田住職に「ぜひ協力してくれないか」と連絡して、「一緒にやりましょう」となりました。『YUYAKU』があったからこそ、『ニコニコ超会議』にも快く協力して頂けました。
――踊り念仏と『テクノ法要』をミックスさせる上で、意識されたことは?
朝倉:まずはオリジナルの踊り念仏のビートを大事にしようと思いました。もともとの踊り念仏にある気持ちの良いリズムに乗りながらお念仏と喜ぶという感覚に、ちょっと切ない感じもあったり……。そういったトランス感を出せればと制作しました。踊っている中でだんだん気持ちが盛り上がっていく、というような表現を特に意識してますね。
――岩田住職は、朝倉住職から前もって音源をお聴きになったと思います。その時の印象は?
岩田:素晴らしいと心から思いましたね。朝倉さんはリズムを大事にするとおっしゃいましたが、実は踊り念仏のリズムに決まり事はないんです。長さやスピードは鉦(かね)のリズムで全てが決まります。その場の雰囲気で飛ばすこともありますし、ゆっくりにする場合もあります。踊り念仏では、第一念仏の出だしで「今から極楽浄土、弥陀に向かって歩き出す」ということで高い音を出して、テンションんを上げていくのですが、これが『テクノ法要』の世界観と合っていて、まったく違和感を覚えなかったです。音楽ではあるのだけど、踊り念仏と何ら変わることはないな、と。
――『ニコニコ超会議』の『超テクノ法要×向源』では4月29日に踊り念仏をお唱えしました。
岩田:当日はぶっつけ本番に近い形でしたが、意外なことがたくさんありました。目の前のモニターを見ながらお唱えをしていると、流れてくれるコメントが励ましてくれている中、会場の人が大人しく座っているというギャップが面白かったですね。そのコメントが熱くて高揚感があって、自分自身のエンパワーメントを促進されるような感覚になりました。
朝倉:実は普段お寺の法要でのお勤めでは、仏さんの方に向いているから、周りがどう感じているか、体感する期間がないんですね。法要に集まる皆さんがどう思っているのか不安になることもあります。だから、皆さんの顔や反応が見れるというのは、僕たちにとっては特別な体験かもしれません。
「もともと時宗はアーティスト集団」
――『超テクノ法要』では、お唱えの前に実際の踊り念仏の映像を流されました。いつのものだったのでしょうか?
岩田:3年前(2019年)の9月16日、一遍上人(1239-1289)の命日に真光寺のお廟所の中で踊り念仏を奉納するのですが、その様子を撮影したものです。この時は真教上人(他阿、1237-1319)が亡くなられてから700年目で、真光寺の檀家さんたちの一遍会と、踊り念仏に関心がある一般市民の方々の計40名ほど集まって踊ったはじめてのケースになります。踊り念仏では、真ん中に導師と六役と呼ばれる僧職が入りお経を唱えて、周りを行道衆と呼ばれる方々が輪になって踊ります。現在では兵庫県のみでなされています。
――『YUYAKU』プロジェクトを始めた理由として、このままでは踊り念仏が継承されないという危機感があったとお聞きしています。一般人としては時宗というと国宝の『一遍聖絵』のイメージですが、改めてなぜ踊り念仏の存続が危ういのか教えてください。
岩田:時宗には三大行儀として、賦算と遊行、そして踊り念仏があります。一遍上人は寺を持たず、各地に拠点があったとしても定住をせずに全国を旅しました。それが遊行。踊り念仏をしながら各地を回って、参加した人に念仏札を渡すという賦算をしていたのですね。現代において遊行をやるのは法律の制約などがあって出来ないという面があるのですが、時宗の教えを一番身近に感じられるであろう踊り念仏も、お坊さんと一般の方々が一緒にやれるのは真光寺しかありません。
――『YUYAKU』ではアーティストと踊り念仏のコラボが中心になっています。
岩田:一遍上人が旅をしていき、武家社会や公家社会に馴染めない人、いろいろな人が増えていった中で、芸能の天才がいたと思うんです。一遍上人にアドバイスする人もいて、踊り念仏が広がっていくきっかけになったのではないかと。もともと時宗はアーティスト集団だったのだから、芸能と相性が良いはずだという確信がありました。『YUYAKU』では「現代のアーティストとコラボしたらどうなるだろう」というところからはじめましたが、テクノ法要とのコラボで私の考えは間違ってなかったとますます確信が深まりました。踊り念仏を残すというよりも、お念仏の喜びを多くの人たちに味わって頂きたいという思いがより強くなっています。
「僧侶がSNSを通じて知り合う機会が増えています」
――お二方ともZoomやYouTubeなどのサービスを使うことでオンラインイベントを実践されています。
朝倉:オンラインサービスの利用で「寺に来てもらう」ためのハードルが下がったように思います。仏教に興味を持っていただいた方に、リアル参拝の手前のステップができた感じだと感じています。また、リアル参拝したいけど、地理的・時間的・身体的な理由で参拝できない方も、オンラインだと参拝できるということもあります。入院中の方でも、オンラインならお参りできますよね。
岩田:近辺だけでなく、仏教に関心のある全国各地の方と知り合えることができて、気軽に双方向のコミュニケーションが図れることで、無理のない緩やかな繋がりを保ちやすいように感じます。これまで寺が付き合う対象といえば、先祖供養を通じた高齢者が中心でしたが、オンラインにより同世代やさらに若い世代との繋がりが生まれたことも大きかったです。あと、オンラインイベントだと寺の本堂や庫裡を片づけたり準備をしなくて良いこと、家族に負担を掛けることなく行えることですね(笑)。
朝倉:寺から配信する場合、基本的に僕の場合ワンオペなので、オペレーション的には大変ですね。配信開始したつもりが、出来ていなかったこともありました。
岩田:元々あまりパソコンが得意ではないので、使いこなすこと自体難しいですね(笑)。Zoomのみならず、vimeoやPeatixなどコロナ禍になってから必要に駆られて必死で覚えたことばかりですので。
プロジェクトの仲間とイベントの企画作りを、オンラインで打ち合わせして進めることも難しいです。普段住職として一人で仕事しているので、他者と協力して物事を進めることに慣れておらず、ミスや行き違いがあったりして、気持ち良く動いてもらうにはどうすれば良いかと、迷うこともしばしばです。以前、踊り念仏をオンラインでやってみるイベントを企画しましたが、音がズレたり踊りが合わなかったりと全くうまくいきませんでした。ただこの経験を通じて、かえって五感で感じリアルで会うことの大切さを知ることが出来ました。
――朝倉住職と岩田住職では宗派が違いますが、以前と比べて交流がやりやすくなった実感はありますか?
朝倉:SNS上での出会いがキッカケになることがありますね。多くの僧侶がさまざまな活動をSNS等を通じて発信していることが、宗派を超えた交流のベースになっていると感じています。Zoomなどを利用したオンラインイベントなどを開催するようなことは増えていますし、実際に浄土真宗の僕の活動もいろいろな宗派の方々に興味を持って頂いています。
岩田:加えて、従来のコミュニティの崩壊や繋がりの希薄化など、不安や抑圧に満ちた時代背景における仏教の果たすべき役割を、各宗派の僧侶が使命感と危機感を以って共有出来たことが大きかったかと思います。具体的な交流については、共通の仏教キーワードを見つけることにより行いやすくなったのではないでしょうか。例えば修行・念仏・声明など、それに対するお互いの思いが伝わると協力しやすいのでは、と思います。特に朝倉さんとは、お念仏に対する熱い想いが、同じくらいの温度ですね。
――踊り念仏テクノバージョンは「踊躍第1念仏〜第4念仏」「踊躍第5念仏」として各配信サイトでリリースされました。iTuneストアでは日本テクノソングのカテゴリーで再生数1位を瞬間で記録したそうですね。
朝倉:びっくりしてます。それまで踊り念仏という言葉は歴史の教科書で聞いたことはあるけれど、本当にあるんだと知ってもらえたら嬉しいですね。
――先程、賦算のお話がありましたが、ある意味ではサブスクで聴く際にボタンを押す行為が念仏札を受け取ることにつながりますね。
岩田:それは気づきませんでした(笑)。
朝倉:面白いですね。現代の御札ですね(笑)。
――テクノ法要と『YUYAKU』、どちらもまだまだ様々な展望が開けそうですね。
朝倉:これからのことも大事ですが、まずはお気持ち。心持ちは源流に戻っているということは『YUYAKU』プロジェクトで感じた事でもあります。「触れて頂きたい」「親しんで頂きたい」というのは、同じ考えだということをまず喜んでいます。その上で、社会情勢が今後どうなるか分からないですが、たくさんの人と輪になりたいですよね。クラブだと大音量で身を任せるじゃないですか。僕は踊り念仏というものを、阿弥陀様の世界に身をおまかせするという体感で、トランスというのがそこにつながっていると考えています。
岩田:まったく同感です。
朝倉:岩田住職にお願いしたいのは、いろいろな音楽のジャンルの音源を集めたアルバム的な踊り念仏集を作って頂きたいのですよ。生演奏やボサノヴァやサンバ……いろいろなバージョンの。テクノ法要だけ目立つのは何か違う。いろいろな音があって、いろいろな楽しみ方があるというようになってもらいたいです。
岩田:それは是非やりたいですね。世界に発信できるような、いろいろな世界の音楽と合わせることで賦算が広がり、お念仏の広がりにもつながるというのが理想ですね。
『一遍聖絵』を体感できるイベント開催!
『YUYAKU』プロジェクトでは2022年6月17日に『トークセッションVol.2 「聖絵をあるく」』を岩田住職の満福寺とオンラインの双方で開催予定。神奈川県藤沢市の遊行寺宝物館館長の遠山元浩氏をゲストに『一遍聖絵』を読み解き、踊り念仏の歴史的背景から一遍上人の人となりなどをテーマにしたトークが予定されています。この日には、踊り念仏テクノバージョンの演奏もあるとのこと。『超会議』などで『テクノ法要』に関心が湧いた人にとっても要注目です。
YUYAKU トークセッションVol.2 「聖絵をあるく」(Peatix)
https://peatix.com/event/3249390 [リンク]