ダークなファンタジー世界で読者を魅了! マンガ『ボロボロのエルフさんを幸せにする薬売りさん』が描く「敬虔さ」

Twitterやpixivなどで活動しているぎばちゃんさん(@gibagibagiba)が更新を続けているマンガ『ボロボロのエルフさんを幸せにする薬売りさん』。2021年9月1日の投稿以来、ダークなファンタジー世界で「素材」として売られていたエルフのリズレのことを壮絶な過去が垣間見える薬売りさんが治療するストーリーに注目が集まっています。

ここでは、第45話から第49話まで紹介。また、この物語を描き続ける理由についてぎばちゃんさんにお聞きしました。

魔族(デミ・リッチ)で「不死の闇医者」の異名を持つアダムスカの住むところに赴き、診断と治療をしてもらってから工房のある村に戻ったリズレと薬売りさん。左目に眼帯をつけてリハビリに励むリズレに、ある日薬売りさんが集落の職人さんに依頼して作ってもらった車椅子が届きます。「イ、イスが…、イスが動いてます…!」とびっくりするリズレに、「“車椅子“ですからね…文字通り」と笑う薬売りさん。「遠出しない場合は私が彼女を背負うよりは双方に負担が少ないはずだ」と思っています。

前の主人に歯を抜かれてしまっていたリズレ。入れ歯を新しくして、「固定されるまで暫く強く噛んでいてください…」と言われて「はひ…!」とイーとしています。薬売りさんは「今日は念入りに擦っておこうかな」と夕食の支度に取り掛かり、できたのがすり身の団子。腕も少しずつ動かせるようになり、食事の訓練をします。「どうです?グラグラとかしませんか?」「いえ…、大丈夫みたいです…」とスプーンを口にする様子を、「大変そうではあるが、自ら口に食べ物を運べる嬉しさも一塩の様だった」と見ます。そんなリズレ、「薬売りさん、このお団子…?」「すり身ですね。お口に合いました?」「はい!…あの…その…」「?………あ!お代わりですか?」「…ハイ」と食欲も出てきました。

工房の定休日にリズレの休養と魔力の充填のためマナの澄み富むスポットに出かけたリズレと薬売りさん。お昼を食べて、動物たちと戯れながら、「薬売りさん、わたし…。この土地も人も好きです…ずっと…暮らしたいくらい…」というリズレを見て、その回復力に「思えば幾月前には信じられない光景だ」と薬売りさん。「記憶さえ戻ればもう彼女は故郷に返しても問題ないくらい回復した」とその横顔を見ます。そして、自分の役目の終わりを感じて「そろそろ私の本意を伝えておくべきなのかもしれない」と考えます。

「私がリズレさんを治療したのは…あなたの為でなく自分のためなんです」と話し始めた薬売りさんに、「えっ」となったリズレ。「薬売りさんのこんな声…聴いたこと…ない…」と思います。それに構わず、拾われた魔族の元で暮らしている内に義侠心に憧れて、魔族の現体制に対するクーデターに参加して様々な人を殺めてきた経歴を話す薬売りさん。「薬屋を営んでいるのも、あなたを助けたのも、自分の罪滅ぼしに過ぎない。イルダ人、魔族もエルフもドワーフも獣人も敵と見なせばこの手で殺したんです…。私は只の”偽善者”なんです」と語りますが、内心で「身体の状況からもうじき故郷を探し始めようと伝えるだけでよかったのに、今までの関係を全て崩して突き放すような事をしてしまったのか…。自分でも理解できなかった…」と思います。

「私と過ごす時間は短い方がいいと思います」という薬売りさんに「ずっと…疑問だった。この人が何故、自分の身を削ってまでこんな私を介抱してくれていたのかが…」と思うリズレ。「お互い名前さえ知らない…。記憶もない…、薬売りさんの昔も何も知らない…、けど!私の心と身体はこの人の優しさを知ってる!!!」となり、「私にとってあなたは…命の恩人ですっ」と右手を胸に震わせながら精一杯の言葉で伝えたのでした。

「人の身体を治す・治される敬虔さを表現できれば」

――『ボロボロのエルフさん』kindle第1集を拝読させて頂いたのですが、備考があることで世界の奥行きが深くて印象に残りました。描く上で影響を受けた作品があるのでしょうか?

ぎばちゃんさん(以下、G):『ボロボロのエルフさん〜』シリーズを描く上で、こういうものが作りたい、ということは取り立ててなかったのですが、スタジオジブリの『もののけ姫』や宮崎駿さんの『シュナの旅』、HBO制作の『ゲーム・オブ・スローンズ』や、三浦健太郎先生の『ベルセルク』といったような中世ヨーロッパのような人間本来のむせかえるような残酷さと美しさが入り混じる世界観にできれば、と思って描いています。また、あまり関係ないのかもしれませんがポルノグラフィティさんの『WORLDILLIA』というアルバムの中に「カルマの坂」という貧民の少年と金持ちの大人に穢される少女の物語をテーマにした楽曲があるのですが、それを思春期に聴いて、そのあまりの救いのなさに衝撃を受けたのも影響の一つかもしれません。

――絵柄がまたダークなファンタジー世界と合っているようにも思います。

G:自分の画風がそういった方向に適合性があるというのもあって選んだ部分もあります。現代劇を作品として際立たせるためには、ファンタジー以上に精緻な背景や知識が必要になる可能性も高いと考えています。

――「エルフを治療する薬売り」というモチーフを着想にしたきっかけは?

G:「キャラクターを魅力的に描く上で必要なものってなんだろう?」と考えた時に一つのアイディアとして「バックボーン(過去)がわかりやすい」という要素があるんじゃないかと思って、ベーシックに美しさであったり傷ひとつない高潔なイメージのあるエルフという種族にそういったものを付加しようと思ったのが最初の着想です。傷ついたものや人が回復するにはそれを治す側の人が必要ですが、文明の発達し切っていないファンタジー世界に、近代的なイメージのある「医者」がいるのは「どうなんだろう?」と思い、その印象をぼかして少し専門性の強い職業にしようとして「薬売り」というキャラクターができました。

――なるほど……。実際、医学史でも黎明期は薬学史と重なっていますし、中世にかけては民間療法が主でした。

G:加えて、私自身の父と祖父が接骨と鍼灸の治療院を営んでいて、患者さんと接する姿を傍で見てきた自分の出自がそもそもなのではないかと感じています。人の身体を治す・治される、ということのありがたさや大変さについてや、そういった職務についている人の持つ「敬虔さ」のような部分が表現できれば、と思っています。

――毎話を1ページにしている理由についても教えてください。

G:この作品を描きはじめた当初より現在まで、自分には漫画家としてのネームや話づくりの能力が足りないと感じておりまして、どうにかシンプルに物語や感情を見やすく伝えたいと思ったときに1Pが一番やりやすそうだと直感的に思いました。仕事を掛け持ちしていて、時間的に余裕がない中でどう連作を作っていくか。元々イラストレーターとして仕事をしていたので、絵的なクオリティを維持していける限界、なにより複数ページを使うということは読む人の時間をそれだけ奪うということだと思っていて、それに見合うような「良い話」を書ける気がしなかったというのが大きなところです。最近は複数ページでしっかりまとまった面白い話を描けないか、ということを課題にして色々なチャレンジをしています。

――無料配信中のAmazon kindleの第1集は10万DLを突破し、TwitterなどSNSで大きな反響があったかと思います。

G:基本的に色々な投稿サイトの全てのリプライやコメントは楽しく目を通させていただいてます!
自分の持っていない視点を持って反応して下さったり、すごく作品に入り込んで反応して下さる方々が本当に多くて、いつも励みにさせて頂いています。自分が小ネタで入れるような小さい描写もつぶさに気づいて「ここ好き!」って感じで教えて下さったりして、ちょっとした批判的なことも含めてそういうコミュニケーションがすごくありがたくて嬉しいです! 読者の皆様から頂くコメントがなかったなら、個人的にはこうして続けていられないだろうなぁ、と思います。

――最後にこの作品のファンへメッセージをお願いします。

G:エルフさんと薬売りさんの物語に対して自分の想像もつかない多くの方々が触れて下さっている現状について、本当に嬉しく感じています。いつも読んでくださってありがとうございます、とお伝えしたいです。自分自身の作家としての拙さに悩まされる毎日ですが、それでもどうにか「ふたりが幸せになるまで」を描きたいと思っておりますので、凄まじい牛歩ではありますが、これからも楽しみにしてくださると嬉しいです。

――ありがとうございました!

ぎばちゃん(Twitter)
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乙女男子。2004年よりブログ『Parsleyの「添え物は添え物らしく」』を運営。ネット、メディア、カルチャー情報を中心に各媒体にいろいろ書いています。好物はホットケーキとプリンと女性ファッション誌。

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