どうも特殊犯罪アナリストの丸野裕行です。
昔から競馬場や競艇場、オートレース場などには予想屋という職業の人々が存在していました。
公営ギャンブルも様々な形の場外券売所ができはじめ、それに伴い予想屋を頼りにするというギャンブラーも激減したわけです。それはなぜか? 正直言って、その予想がまったく当たらないから、というのもありますが、ケータイ普及からのネットの発達も大きな要因です。
現在では、Webの情報商材や予想サイトが無数に立ち上がり、有象無象も含めた雨後のタケノコ状態。互いがこぞってギャンブラーたちの射幸心を煽りまくり、“カモ”の奪い合いに躍起です。
先日には70歳の男性が被害に遭う“ギャンブル詐欺”事件が起こりました。内容はこちらです。
■順位が確定している競馬のレースがある」と男性が1千万円近い大金をだまし取られる
長野県警は、令和4年1月13日、長野市内に住む70歳代の男性が、多額の現金を詐取されるという特殊詐欺事件が起こったと発表。
発表では、昨年10月中頃に競馬情報の提供業者と名乗る男から男性の携帯に「順位が確定した出来レースがある」とまことしやかに連絡があり、その男は「情報提供料金で600万から800万円はかかる」と金銭の要求。70代男性は、12月初めまでに男の指定口座に13回、計943万円を振り込みました。
男が予想した通りの着順で、男性は馬券を購入。しかしまったく的中せず、その男と連絡がつかなくなったことで被害に遭ったと気がついたそうです。
そこで今回は、競馬予想サイトで年間5千万円もの大金を荒稼ぎしていたというT氏(55歳)に、競馬好きの射幸心をくすぐる周到な手口をインタビューしてみました。
競馬予想の商売には種類がある
丸野「競馬の予想業者になるにはどのような手順を踏めばいいのですか?」
T氏「競馬予想っていうのにはいくつかの種類があってね。まずは地方競馬で行う《場立ちの予想師》になる手がある。でも、これは若者が新規参入することはできないんだよ。その他には、スポーツ新聞とか競馬専門紙の編集者になる方法。取材者は通称で《トラックマン》っていうんだけど、最近じゃ競馬好きなだけじゃダメで、やっぱり大卒者を優先的に取るから、難しいかもね。あとは、スポーツ新聞や競馬専門紙に広告を出す業者。大手の媒体は広告料が高いからムリだから、広告料金の低い競馬雑誌に載せてる業者がほとんどさ。それと、俺らみたいな《フリー予想師》だね」
丸「なるほど」
T氏「とにかくネットなんかで上位表示にすることが大切。それか、元手はいるけど《無料予想》の広告を打って、とにかく的中させるという手口で集客する。それで名簿も集まるしね。高額的中の馬券画像をネットで拾ってきたり、イラレで作ったりしてWeb上に公開してしまえば信憑性も出るし、会員はぞろぞろと集まってくる」
名簿集めが先決!
丸「怪しい通販会社やマルチの詐欺会社、闇金融なんかでも一番に求められていますが、やっぱり《名簿》というものが一番大切になってくるんでしょうか?」
T氏「そう。競馬ファンの名簿集めが先決だよね。丸野さんが話していた1千万円近く騙された高齢者なんて、何度も騙されているんじゃないかな。いったん競馬関連のサービスに登録すると、ケツの毛までむしられるくらい金を搾り取られる。実際に俺たちもやっているからね」
丸「どうやって集めるものなんですか?」
T氏「ウチでは、若手を大手の競馬予想会社に入社させて名簿集めたりしていたよね。やっぱり、情報量が多い。レースを的中させることよりも、会員名簿を買ったり売ったりするやりとりの方が大切になってくるから」
セールスレターで会員を集める
丸「どのように騙す方向へ誘導するんでしょうか?」
T氏「まずは数千円で会員登録をさせるセールスレターを送る。“有料の馬券予想をアテにして購入すれば、簡単にペイできる”っていうね。ここで、メールアドレスが集められるから一石二鳥だよね。もしどこかに登録して、出会い系サイトやアダルトサイト、高収入バイトのサイトなんかから頻繁に迷惑メールが届くようになったら、もう(メールアドレスが)転売されたと思った方がいい。そこからは、さらに高い有料会員登録を勧める。でも、当たらないからクレームになるよね?」
丸「そうなりますね」
T氏「そんなときには、“人数制限のある超確率のプランを紹介します”と営業をかける。ギャンブラーは“損失を早く取り戻したい”という思いが強いから、これ以上は料金が支払えないって状態になるまで、金を毟るね。あと、JRA関係者の関係や団体を装って信憑性をアップさせるのも忘れない。だからウチの会社の名前は《JRA公認競馬予想会社》や《栗東騎手協会》、《関東馬主協会》、《西日本調教師組合》なんていう名前をつけてる。(※)日本中央競馬会のロゴマークも拝借して、信憑性は高めているわけ。そのときには《全額返金保証》を謳ってとにかく安心させることが大切」
(※編集部・注:こちらはT氏への取材による意見・事例のひとつです。会社名とその活動内容の関連について断定するものではございません。)
丸「えっ、そんなことしたら大損じゃないですか」
T氏「広告で宣伝はするけど、実際馬券が当たらなくてもなんだかんだ言って返金には応じないよ」
レース情報の価格が上昇したので数十万を振り込んでくれ
丸「そのあとはタケノコ剥ぎのように追加金を請求していくわけですか?」
T氏「そうだね。カモはカモ。騙されて情報を買うと“確定レース情報の仕入れ価格上昇で追加金〇〇万円を振り込んでください”と持ちかける。だいたいのヤツは支払いに応じるね」
丸「アコギですね」
T氏「それにWebサイトの目立たない部分に小さい文字で《返金はポイントで行います》と記載されていて、現金じゃなくてサイト利用できるポイントでしか返金には応じないよ。使えるのか使えないのかわからないポイントでまたニセ情報を掴まされるわけ。そのあとは会社を畳み、また違う予想会社を立ち上げる。そのときも、“栗東の調教師からの有力情報で……”なんて宣伝するわけ」
──以上が、T氏が語った“情報料”詐取の主な手口になります。
もちろん、これら手法のほとんどが違法です。競馬法条文を読んでいただければわかるのですが、競争での不正行為を行う者は、罰金刑だけでなく、懲役刑まで設けられている重罪です。JRA職員や騎手、調教師がそこまでのリスクを冒し、順位が確定しているレースを仕組むなんてことはあり得ないのです。ですから「JRA関係者が加担している」「確定している極秘情報がある」という文言は、決して信じるべきではないのです。みなさんもお気をつけください!
(C)写真AC
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※本記事の内容は、取材に基づく事例のひとつです。