男の“イチモツ”が“家出”する奇妙でシュールな世界観、上田慎一郎監督と主演・皆川暢二が共有した意識とは? 映画『ポプラン』インタビュー

  by ときたたかし  Tags :  

2018年公開の『カメラを止めるな!』で興行収入31億円を叩き出した上田慎一郎監督が、10年間アイデアを温め続けた最新作、『ポプラン』が現在公開中です。ある朝“イチモツ”が家出してしまった主人公が、「6日以内に捕まえねば元に戻らない」という事態を受け、疎遠だった友人や家族の元を訪ね始め、家出したイチモツを探す旅に出るという奇妙でシュールな世界観の物語ですが、その実はパニック映画であり、自分探しのロードムービーであり、人間ドラマでもあるという、これまでの上田監督作ともまた一味違うエンターテイメントに仕上がっています。そこで、上田慎一郎監督と主演・皆川暢二さんにインタビュー。本作に込めた想いなど、さまざまなお話をうかがいました。

■公式サイト:https://popran.jp/ [リンク]

●まず皆川さんにはオファー時の作品の印象を、上田監督には皆川さん起用の理由をうかがいたいです。

皆川:脚本をいただいた時、田上という男は上田監督がこれまでに体験したことが、つまっているなと感じました。それをどういう風に自分の経験と照らし合わせようか、何かしらの自分の経験とどう重ねていこうかと思いました。

上田:本作の主人公・田上は、社会的な成功をおさめた後に壁にぶつかります。『カメラを止めるな!』の翌年が『メランコリック』だったんですよね。どちらもインディーズ映画として出発して異例のヒットになった。なので、皆川さんはきっと、成功の味も、その後に訪れる壁も、知っているだろうなと思いました。この登場人物を演じる上で必要なものを持っているだろうなという直感はありましたね。

皆川:当時は壁の話は聞いていなかったのですが、それまでも、もともとの接点が深かったわけではないので、ある程度自分の中で推察はしていました。僕に連絡をいただけた背景には、何かしら今言われていたような意図はあるだろうなと、自分の中で感じていました。

上田:昔は映画監督としてご飯を食べられるようになったらゴールだと思っていたんです。でも違った。目標を達成したら、それがすぐに通過点に変わるんだってわかった。ゴールなんて死ぬまで訪れないことを知ったんです。

今回「映画をもっと自由に」をモットーとした“映画実験レーベル”Cinema Lab(シネマラボ)という新レーベルで映画を作りました。限られた予算という制約はあるけど、その代わりに比較的自由に、フットワーク良く臨める体制だった。そういう意味でも準備段階から一緒に走ってくれる人がいいなと。それも皆川さんを選んだ理由の一つです。

●映画はジャンルレスな印象を受けましたが、皆川さんはどういう物語だと受け止めましたか?

皆川:監督ともよく話していたのですが、僕はヒューマンドラマだと思っていました。設定としてイチモツがなくなり、それを探すという突飛なものではあるけれど、軸は人間ドラマだなと強く感じていて。それを表現しきるためには、田上が実際に飛んでいく世界を信じて演じなければいけない。僕がコメディだと思っていたら世界観が壊れてしまうので、そこは崩さないように意識しました。ド真面目にやる、これを監督と共有しました。

上田:観た方の感想でも、受け取るジャンルがバラバラなんですよね。コメディとして大笑いしたという人もいれば、「コメディなの?」という人もいた。ヒューマンドラマやロードムービーだという人もいれば、社会派批評映画だと言う人もいる。ノワールだ、スリラーだという方も。いろいろな感想がうれしいです。

●全部当てはまるように狙って作ったのですか?

上田:粗筋だけを見ると、極めて「ジャンル映画的」だと思うのですが、それを、極めて「非ジャンル映画的」な手つきで仕上げることがイメージでした。もともとあらゆるジャンル映画が雑食的に好きなので、そういう自分の好きは随所ににじみ出ていると思いますね。

●パーソナルな想いを映画にしたことで、何か自分の中で変化はありましたか?

上田:本作は、いわゆる世間一般に言う「成功」を否定している様にも見える映画です。『カメラを止めるな!』があり、若い頃から描いてきた夢がたくさん叶い、でもそれがゴールでないことがわかり、「じゃあ人生にとって成功って何?」と、答えを探しながら撮ったものでもあります。自分の好きなことだけやって楽しく生きるのか? 社会的成功、商業的成功のために折り合いをつけながら生きるのか? それともその両方か? そのバランスなのか? 永遠の問いですよね。永遠の問いだとわかってはいるけど、俺は今こう生きたいと思ってるんだなということを、この映画を作って自分で知ったというのはあると思います。

皆川:撮影の時に思ったのですが、自分がしてきたことを見返すというか、過去に僕は何をしてきたか、とは考えました。一番怖いのは自分が意図してやっていないことが、もしかして周りにとっては悪い影響で、たとえば何か言っていたかも、行動を起こしていたかもと、ちょっと思ったりはしました。それが一番怖いことだなと思ったので、自分の過去を振り返りながら撮影していたところはあります。

上田:僕の場合は映画を撮るたびに、自分の作品に見られているような気がするんですよね。たとえば、『カメラを止めるな!』って声高に言った僕はもうカメラを止められないんですよね(笑)。それこそみんながカメラを止めている時でも僕は止めたらアカンなと。言っちゃったんだから。映画が見ているんで(笑)。また今回『ポプラン』でいろいろなことを言っているから、それに今後僕は見られていくなというのはあります。「心の勃起を大切にしなきゃいかん!」とかですね(笑)。役者にも同じ感覚があると思うんです。そしてそれが、作るたびに一個一個増えるんですよね。

皆川:監督とは完全に同じ状況とまでは言えないですが、何かしら動き出してカタチにしようとしている時に止まれなくなります。そういうものは感じることがあります。

上田:公開してもう少し経てば、この映画が自分にとってどういうものになるか、見えてくるのかも知れないですけどね。

●最後になりますが、映画を楽しみにしている方々へ一言お願いいたします。

皆川:観る時にジャンルを決めて観がちかも知れないですが、映画を観ていくうちに、ジャンルの変容を楽しめると思います。その人自身のジャンルを作って観てみる楽しみもあります。それはすごくいい体験だと思うので、よろしくお願いします。

上田:全年齢対象の上品な映画です!あらすじから想像するものと、映画を観た後の感触はきっと違うものになっていると思います。観た後の感想を語り合うのも面白い映画だと思います。ぜひ劇場で観てください。

■ストーリー

東京の上空を高速で横切る黒い影。ワイドショーでは「東京上空に未確認生物?」との特集が放送されている――。

田上は漫画配信で成功を収めた経営者。ある朝、田上は仰天する。イチモツが失くなっていたのだ。田上は「ポプランの会」なる集会に行き着く。
そこではイチモツを失った人々が集い、取り戻すための説明を受けていた。

「時速200キロで飛びまわる」「6日以内に捕まえねば元に戻らない」「居場所は自分自身が知っている」。

田上は、疎遠だった友人や家族の元を訪ね始める。
家出したイチモツを探す旅が今はじまる――。

配給:エイベックス・ピクチャーズ
上映時間:96分
(C) 映画「ポプラン」製作委員会
公開中

ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo