闇夜に翔ぶ(連載小説)

  by 地方創聖プロジェクト文芸部  Tags :  

episode.11 闇夜に翔ぶ

日神ジャスティオージ外伝~Secret of Birth~
(連載小説)

(イラスト・小林ユキト)※イメージイラストはアマテライザーを持ったテルヒコとユタカ

(あらすじ/邪馬台国の戦火を逃れ残った神秘の鏡、アマテライザーに導かれる記憶を失った青年テルヒコと彼を導く女神ユタカの壮大な歴史の波を駆ける大河アクション小説。台詞後ろ=( )キャラ名)

登場人物(テルヒコ/本作の主人公。記憶を失った青年。その正体は滅びた邪馬台国のかつての王子。)

(ユタカ/鏡を通してテルヒコを導く謎に包まれた女神。かつての卑弥呼の後継者。)
(石上雅也/魔界に魂を売りテルヒコと彼の祖父大善らと対立するライバル。)

(※左/石上雅也&右/甲三=九尾の狐)~イラスト/wakuyu~

(以下エピソード本文)

そのほろ苦い記憶も戦時下において、一瞬のうちに忘れ去られてしまった。

1945年。

昭和20年3月18日、宮崎市は初の米国による空襲の被害を受けることになる。

戦時下の争乱期のなかで繰り広げられた命の駆け引きー。

人々の貧困はさらに激しいものとなり、必要となる物資は戦争のためその多くが担ぎ出されていく。

※「八紘(あめのした)を掩(おお)ひて宇(いえ)にせむ」出典『日本書紀』より

八紘為宇。日本の古き神話においても登場する世界を一つの家にする、という平和のスローガンは大戦下において

日本軍による侵攻を正当化するものとして間違った方向に解釈されていた。

ズガガガガ!

戦地の果てで飛び交う銃撃音。

雅也は人間の理性を崩壊させる地獄(そこ)にいた。

ブシュウ!

飛び散る人間の臓物(パーツ)を勢いよく引きちぎりその胴体ごと即座に蹴り飛ばす。

「うぁあ・・・わあああああああああ!!!!」

軍刀を振るうかつての彼、石上雅也は「剣を振るう喜び」に酔いしれる自らに恐怖した。

経験値=戦闘のポテンシャルを獲得すればするほど、自分は着実に人から遠ざかってゆく。

中国戦線のさなか。

第50師団(台湾歩兵第一連隊)のメンバーは、東南アジア、南方方面の戦いののち、

とある大陸の現地民に対する掃討戦のため、この地に送り込まれていた。

その場所において、正気でいられるものはどこにもいなかった。

それでも当時自分の心を支える絆(モノ)がなかった雅也は曲がりなりにも

みずから軍が掲げた唯一の正義を信じることによってその歪んだ精神に安楽を得ようとした。

それも彼はある意味免罪符として、雅也は戦地における闘いの中、(自分が自分で無くなるハイな感じ)に

憑りつかれてしまっていたからである。

それは雅也(かれ)にとって聖戦であった。

この戦いが続いたらどうなるだろう・・・

そんな恐怖、妄想がじわっと彼の胸の中に去来する。

無抵抗な弱者へ向けられた銃口。雅也は赤ん坊を抱えた母親に向け銃を突きつけていた。

ついにこのときがきた。

「・・・・!!」

日が暮れた。

彼の周囲に流れる時間はあっという間に過ぎ、光の如き速さで流れる死人の魂が

彼を冥府へと誘っているかのようであった。

雅也自身の心はもう既にこのころには死んでいた―。

倒し、倒された者たちの呼び声。

禍々しい闇よりの使者を呼び出すエネルギー

非業の苦しみ、無念の死を遂げた死者の魂は怨念となり、黄泉の国の蓋をひらくに相応しい霊気(パワー)となって

その主たる九頭龍王(くずりゅうおう※九本の首がある竜)の眠れる力を現世へと呼び戻さんとしていた。

「・・・・・・おまえ、だれだ?(雅也)」

「・・・ワレハイブキ(九頭龍)」

赤く光る眼光。亡霊(ファントム)・・・。

その巨大な雅也の心に出現していた闇は自分を見つめ、微笑んでいるように思われた。

雅也は、虚無の空間の中でその巨大な黒い影と対峙していた。

それらはある意味ではピュアな漆黒、屈折した・・・まるで子供の時に母に抱かれ、

寺で見た地獄の極卒の如き亡霊のビジョンであった。

「石上・・・・!おい石上起きろ!(奥寺)」

中国の農村解放区-。

夢の中で笑みを浮かべていた闇に堕ちゆく雅也の魂は、

戦友(とも)であった仲間である奥寺の揺さぶり起こす大声によって瞬時に現世へ引き戻されていた。

「・・・日本軍(みんな)・・・(雅也)」

援軍が、同胞が来る―。それは彼にとって、けして嬉しい状況ではなかった。

日本兵、石上雅也は、ついに逆上し上官を射殺したのだから。

「おい雅也、こいつ(上官)は俺がどうにかしとくから。わかってるよな。」

「・・・・・・・アッハハハハハ!(雅也)」

転がる上官、そして人々の遺体を見た石上は、何かの張りつめたものが断ち切られたかのごとく

周囲へ撃ち散らかし、死人の山が出来上がるのにそう時間はかからなかった。

死者の国より向けられるその瞳は、雅也へじっと向けられていた。

戦後の復興期。依然として町の中に闇市は残っていた。

「あ!オヤブンだぁ!ぉおおーいオレだよォ―!(火輪/化け猫の人間態)」

町の中で怪しまれぬよう女性へ変身していたかの化け猫(雅也の当時の仕事仲間)は、

同僚であった雅也を街中で発見し嬉しさのあまり笑顔の全力で駆け寄った。

(化け猫はもともととある老夫婦に飼われていたオス猫だったが、人間界に蔓延する

邪気の干渉によって怪物化し、魔性を持った赤猫として人里で悪事を繰り返していた。)

最初こそ己の単なる本能で活動していた赤猫であったが、まるで飼い猫が人に慣れてゆくように。

自分の姿を見て一切驚かなかった雅也や見世物小屋にやってくる子供たちと交流するうち

どこか人間臭さを獲得しているようだった。

子供に突っ込まれ容赦なくイジられ、ひどい場合ポコポコ叩かれても、楽しかった。

だって仕事が終わればみんなでコタツの上で鍋を囲めたから。

それくらいの時間が荒んだ当時の現実の中彼の中に流れていたのである。

「・・・・・(雅也)」

「ど、どうしたんニャ!おまえなんか印象変わったにゃあ・・・。(赤猫)」

自分にやさしく接していた雅也の表情が、眼付が変わっている。

それこそ凄まじい、※真蛇(しんじゃ)の如きの眼差しに。

※真蛇=能における鬼女の最終形態。生成→般若などと進み最終的に真蛇となる。

魔性を持つ赤猫にはそれが見抜けた。

オヤブン怖い。だが同時に、どこかで何よりそれを喜んでしまえる心があった。

やったーこいつは俺らの同胞(なかま)になるぞ・・・・。

という確信が一瞬うかんだ。だが・・・それでいいのかしら。ほんとうに、そんなになっていいのか。

俺はそれでいい、でもオヤブンは人間だろ?

どうして俺は躊躇う?オヤブンが仲間だからか。どうしてなんだろう。

彼はまだ気づけなかった。

「おい!オヤビン!まてーーーーーーーい!!!(赤猫)」

全力で走り雅也の影を追う赤猫だったが、闇市の人ごみの中ついにその姿を見つけることはできなかった。

雅也たちの見世物小屋は無くなり、雅也を知る友人たちと彼の音信はぱったりと途絶えていた。

「おい、いくらなんだよ?(路地裏の男)」

虚ろな表情で歩く雅也は路地裏で屯する男たちに手を掴まれ、どこかへと行った。

「お兄さんたち、そいつ、ボクが買ったよ。(銀髪の少年)」

色素が抜け落ちたかのような白髪(アルビノ)の如き銀髪。

茶色のハンチングに品のいいベストを着たその10代後半くらいくらいの雅な雰囲気の美少年は

雅也を囲む屈強な男たちめがけつぶやいた。

「ほう、いいぜ、おめえさんはいくらだよ・・・?(男)」

「値段をきける口かい。官僚のジジイ相手だったら教えてやってもいいけどぉへへ。(少年)」

少年は鼻を指でこすり何の事を指すかわからぬ”その値段”について答えず、

一人雅也の肩に腕を回し優しく男たちから引き離そうとした。

ガッ!「そう固いこと言わずにぃい~!(男)」少年の腕をつかんだ男を見つめる彼の眼の中には、

金の虹彩の中に獣のような縦線がピシり走っていた。

「う・・・ぐぅう・・・・このガキ、なんちゅう力・・・(男たち)」

一人の男の首を掴んだ少年は、皮肉を並べ立て挑発する。

「そんなに・・・自信過剰なこと言われてもさあお前。(謎の少年)」

「すまないね、キミらみたいな土工は興味ないんだよ。よそあたってくれ。(謎の少年)」

「これやるからさ、いいでしょ?風邪薬。意味わかんでしょ。フフ(謎の少年)」

少年が男らに渡したのは、得体の知れないカプセルであった。

戦後の日本全体を覆っていた暗闇(ダークサイド)。

その銀髪のハンチング帽の少年と黒づくめの雅也は旧知の顔なじみであるかのように二人路地裏を歩いていった。

泥にまみれた靴。二人のあいだ無言の時が続く。

昭和初頭の暗黒に覆われた街並みで、性別はもとより出自・不明を絵にかいたかのような容姿の少年はいきなりこう切り出した。

「ボーイミーツ・・・なんとかってね。(少年)」

「楽しい仕事紹介しようか。困ってんだろ。(少年)」

「・・・ちゃんと食べてるぅ?こんなにげっそりしてさ。(少年)」

パシン!少年の手を振り払う雅也。

「触れんじゃねえよ・・・!どど、どっかいけ・・どっか。(雅也)」

「あんな商売。キミも随分とまあ、ケガれてるようじゃないか~・・・。(少年)」

「しょうがねえだろう。・・・同業者か。貴重な売り上げなんだ、なんてことしてくれやがる。
・・・金はあんだろな。(雅也)」

「へへ・・・それより、おいそこの!(赤猫を指して)
居るのは分かってんだよ・・・!出て来いよ。(少年)」

電柱の影にひょっこりと隠れていた赤猫であったが、
そのやりとりを見続けているうちにうっかりと体の大部分が電柱からはみ出してしまっていた。

「にゃー、ニャンで俺のことが分かったんだー!(赤猫)」

「わかるよ、そりゃ。(少年)」

「おまえ、火輪(カリン)じゃないか・・・元気だったか。(雅也)」

「オヤブン、俺に・・・気づかなかったのかニャイ?(赤猫)」

目をぱちぱちさせる赤猫(カリン)。

「お前(赤猫)もボクの手下になれ・・・。(少年)」

「怪しい商売じゃねえだろうな。おめえさん、なにもんなんだ・・・(雅也)」

「・・・興味あるでしょう?ボクの下で働いてみないかい?(謎の少年)」

「むろんさっき言ったのは・・・ボクが支払う下請けのギャランティだ。
キミを虐待した井上家もぜ~んぶ買収しちゃえばいいサ~。
それにっ、キミのお父上・・・石上西湖の古文書もあんだろ?」

「そこを僕たちの事務所に。とっかかりの前線基地にしようヨ!(謎の少年)」

「どこで俺の身柄を知ったんだい?チビ助、見るからにお前、探偵家業か?いいー身なりだが(雅也)」

「食うには困らぬ、金はあるようだな。(雅也)」

「ぼくにかかればなんだって造作もないことさぁ~。生かすのも、”殺すのも”ね。(少年)」

「・・・?!っ・・・じゃあ、テメエが・・俺ん父さんを?!(雅也)」

「ギャハハッ!!いっくらなんでもそんな無算(むさん)はやらない。
欲しいものはないかい?僕に言ってみればいい。すべて思いどうりさ。(少年)」

「それじゃ、(雅也)」

「人の・・・心は?(雅也)」

「それもいずれ手に入る、僕と来るならばね。(少年)」

「殺したい、人間とかいないの・・・?(少年)」

「お、お前にゃんてことを・・・!(赤猫)」

「あはは!けなげだネお嬢ちゃん・・・・・此奴(こいつ)のこと好きなの?誰だってぶっ潰したい奴の一人や二人いるでしょ?(少年)」

「シャー!て、てやんでぃ!だだだだだだっだだ誰がおめえなんかと!もぞなぎい~!
・・・俺はこれでもれっきとしたヤロー(男)だーい!シャー!
オヤブン(雅也)の子分なんだぞぉお、(赤猫)」

咄嗟に訴える赤猫の突き出た(猫の尻尾)を凝視した少年の笑顔が、
一瞬ヤクザのようなドスの効いた表情(カオ)へと変わる。

「キミも”そんな芸(人への変幻)”ができるんだ。」

「・・・ならよ、ォイ、ズが高いってもんじゃねーか?
このボクが誰か知ってお前、そんなことが・・・・言えるんだ・・・。(白銀の尻尾を出す少年)」

「・・ぁああ・・あ、アニャタは俺らの中で伝説の・・・!(赤猫)」

赤猫はそのただならぬ美貌の少年のオーラから、同じ魔性の物が放つ特有のサガで察した。

あまりに危険

このお方は、自分たちなどでは到底太刀打ちできぬ。

※凶党(きょうとう)だニャ・・・。
(※凶党=悪党、悪いヤツの意味)

震える赤猫を見つめる少年の瞳は、真っ赤な血のアカに変わり

妖しく不気味な妖気が突風となって放たれ、雅也、赤猫、靡く少年の九つの巨大な尾を揺らしていた。

「石上雅也、召集令状の次はこっちだ。僕の懐へ来なよ。(鴉の絵が描かれたカードを彼のもとへ投げる)」

「キミは無意識にカラス天狗を模倣していた・・・・・。(少年)」

「これは定めなんだよ。血が騒いでいるはずさ。奴らを根こそぎ倒せってね。(少年)」

「陰陽連特務機関・・・・・・・お前も、ぉおおおおおおまえも魔物(そう)なのか?!(雅也)」

そのカードに描かれたカラスを見た時、いつになく精神異常者の如く沸き立ち興奮する雅也。

そのとき彼の人生は、産まれて初めて一抹の真実の光の中にあるかのようだった。

雅也の眼が、何かを悟ったように生気を帯び、黒く見ひらかれる。

「ぁはははは・・・・・・・あはははハハッハーーッハハハハーーーーーーーーーーーーーーーー
超絶・ラッキイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!
まってぃた~~~~おれはっこれを・・・・イットウこの日を・・・・!!(雅也)」

「「浪漫」、だよね。会えた、大化の改新以降滅びた石上家の末裔・・・。(少年)」

雅也の瞳に、凛凛とした冬空に光る星のような輝きが戻っていた。

「キミしかいないんだよ。ボクはキミのようなのを待っていた。(少年)」

「誰よりも、素質のある奴を!(少年)」

獲物を見つめるかの如く、紅潮し舌なめずりする少年の眼は雅也の存在ただ一人に向けられていた。

「”僕の”・・・カラス会へようこそ!」

念波に呼応するかの如く、街の黒い鳥(カラス)たちが一斉に飛び立つ。

不気味な声を上げる鳥たちの群れ。

にやあっと笑う雅也の顔は、雅也ではなかった。

突如として雅也を勧誘(スカウト)しにやってきた謎の少年。

それが昭和初期の日本にて、石上雅也と行動を共にしていた、後の九尾の狐の姿であった。

(次回へつづく!)

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