episode.8 もうひとりのアマテラス(連載小説)

episode.8 もうひとりのアマテラス

(イラスト・小林ユキト)※イメージイラストはアマテライザーを持ったテルヒコとユタカ

日神ジャスティオージ外伝~Secret of Birth~

(連載小説)

(あらすじ/邪馬台国の戦火を逃れ残った神秘の鏡、アマテライザーに導かれる記憶を失った青年テルヒコと彼を導く女神ユタカの壮大な歴史の波を駆ける大河アクション小説。台詞後ろ=( )キャラ名)

登場人物(テルヒコ/本作の主人公。記憶を失った青年。その正体は滅びた邪馬台国のかつての王子。)

(ユタカ/鏡を通してテルヒコを導く謎に包まれた女神。かつての卑弥呼の後継者。)
(石上雅也/魔界に魂を売りテルヒコと彼の祖父大善らと対立するライバル。)

(以下エピソード本文)

アマテラスは、日本の祖先神であり太陽の女神とされる。

弟に海原を統べる武勇の神、スサノヲ。

月、夜を支配する神ツクヨミがいる。

(※アマテラス・スサノヲ・ツクヨミを三貴神という。)

神話においてアマテラスは弟であったスサノヲの乱暴狼藉に怒り、ストライキとばかりに洞窟、すなわち天岩戸にひきこもってしまう。

この際おこった事件を(天岩戸伝説)という。

宮崎県の高千穂に伝わるその岩戸伝説が最も有名なそれである。

闇に包まれた世界に光を取り戻すべく、八百万(たくさん)の神々が協議した結果、アメノウズメが艶かしい舞いを踊りアマテラスを誘い出し、「あなたよりも尊い神が現れたので皆で宴会をしていたのです」と嘘をつき、八咫鏡を天照へと見せた。

鏡に写る自ら(アマテラス)の美貌に見とれた大神を、タヂカラオ(力自慢の神)が力ずく引き出したために世界に光は戻ったとされている、これが伝説の内容である。

宮崎県山村集落から数キロ離れたとある空き地。

「ここか・・・。いまはだれもいないのか。」

その男石井十蔵(プロジェクトスタッフ)は汗吹く額を拭いながら日中の日奉神社へやって来ていた。日光をより集めてしまう黒いTシャツを着てきた己の今朝の選択を彼は後悔していた。

今回十蔵が来たのはほかでもない。ちょっとだけ己の趣味の範疇でもあった。

それも神社に向かうまでの道のりが楽しいからである。最近買ったお気に入りの自転車でサイクリングして帰りの風景を写真にし事務所のカレンダーにしてやりたいという秘めた理由であった。

(イラスト※石井十蔵)

「空気がきれいでサイコー!どんだけぇ!・・・・・・って言っても誰にも聞かれねえしサイコー!」

「しかしロマンあるよなぁ。なんかこういう奥宮のある神社ってのは・・・。(十蔵)」

神社の祭神を描いたものだろうか。いくつか絵馬らしき極彩色の板が屋内上部に立ち並んでいる。

目の前にドンと見えたA2サイズの絵馬。

「・・・(高千穂の天岩戸伝説を描いたやつか?!)・・・なんだ?」

十蔵は、神社の神を描いたとおぼしき、その「岩戸絵図」を見て、思わず見入ってしまった。

「・・・ヒゲ・・・じゃないか」

そこに描かれていたもの。八百万の神々に囲まれ岩戸から出てきた天上界の日神(天照大神)とおぼしき神の顔にはあろうことか、男しか生えるはずのない「髭」が描かれていたのだ。

「これ最近の手直しや贋作じゃなくってマジのアマテラスだよな。あのカミサマってたしか女・・・じゃなかったかな?(髭ってそっち系ってこと?!)・・・落書きじゃないみたいだけどな・・・。俺の彼女でも髭ははえるけど作者のオリジナルかな。」

十蔵はその風変わりな絵馬の髭を生やしたアマテラスを食い入るがごとく見つめた。

しかし目を凝らし何回見ても

アレンジにしてはスパイス過多に思われた。

「天照男神説・・・。」昭和に大善がみずから出版したとおぼしきカラーの本が置いてあった。

「先生もこんな本よく書いたなあ。」

アマテラス男神説ー。

考古学者大善が邪馬台国の女王(二人の天照大神説)説と並び、生涯をかけ研究していたテーマである。

こと日本は、日の丸の国旗やその(ひのもと)という名に因むように(太陽)、すなわち日の神を中心に国体が成立した歴史がある。

人々は太陽の慈愛に満ちた光の恵みにより獲られる収穫に感謝し、採れた作物や米を太陽神に捧げた。

この日奉神社もそんな弥生時代からの古き信仰とは無縁の場所ではない。

女神とされる日神アマテラスは、その原型としてギリシャの太陽神アポロンのような男性の神だったという説もある。

ほかには、卑弥呼など太陽を祭るシャーマンを死後、女神アマテラスとして神格化したともいわれる。

時代によって様々な像や絵画が描かれているが性別から記述も多様でその実体はいまだに不明点が多い。

現在の挿し絵などで描かれるアマテラス像が成立したのは意外にも明治に入ってからといわれる。

エジプトなどでもそうだが、「王の系譜」を表すものに太陽が用いられる例は多かった。日本もそうであった。

そもそも太陽に関連する神は多い。「天照」の字を冠する太陽神は日本神話に数えて二柱登場し、高千穂峰に天より降臨したアマテラスの孫、皇祖ニニギノミコトの兄にあたる日本の初代(ゼロ号)王「ニギハヤヒ」がまたの名を太陽神「アマテル」といった。

(神話では)男神アマテルは女神アマテラスの孫であり、見方を変えればある意味もうひとりの(影のアマテラス)ともいえる。

この話はマイナーな古史古伝を知るもの以外にあまり一般的にはほぼ知られていない。

(十蔵がやってきた日奉神社の本殿の祭神はこの天照御魂神であったためこういった絵馬が残されていたのだろう。)

古来祖母にあたるアマテラスから十種の神宝を託されたアマテルことニギハヤヒは、天の岩船(神の乗る岩でできた空とぶ船)で宮崎や河内、近畿大和地方へ数度にわたり天孫降臨し「日本」という国名の名付け親となり、王になったというがそれ以降影は薄く、同じアマテラスの末裔とされた親戚の神武天皇に皇位を渡した。

同じく太陽神と関連するヤタガラス、三種の神器の中核になる八咫鏡も太陽神崇拝と関連は深い。

ニギハヤヒ(アマテル)の子孫である一族はその後皇室を守護する軍事刑罰を司るボディガードの(物部一族)となる。

つまり、ある時代において君主につかえる番犬だったということになる。

戦争が起これば天皇は物部の連中を、逆らうものたちを軍事力(&霊術)で撃退する戦闘要員として駆り出していた。

物部は、「モノノフ・武士」であると同時に「モノノケ・物の怪」と呼ばれ常に歴史の影にいた。

その物部一族、出自を同じ祖先とするが、厳密には全く異なる信仰を持った氏族・血縁の連合といっても過言ではなかった。そのため彼らのなかで激しい争いが絶えなかった。
(※各氏族の発祥については諸説ある)

物部同盟のなかでも、とりわけ海家はその信仰における神事・祭祀のコアパーツ(心臓部)であり、“女たち(巫女=シャーマン)”の生き残りであった。

さらに物部一族は陰陽道の名門でもあった。かの知れた役行者(えんのぎょうじゃ)を輩出した(鴨家)、有名な土御門一門(陰陽師の安倍晴明)もこれら一族の出である。そして大化の改新以降滅亡した石上(いそのかみ)家も。

カラス男(石上)も、海家(大善)とは腹違いの同族だったことになる。

彼らふたりがライバルとなりぶつかるのも天が定めし因縁かもしれない。

日本の歴史的暗部におとされた漆黒のナゾ。

時はながれ、平安戦国時代と呪術において多数の流派を輩出した物部一族は、京都に支部をおき結界(五芒星)のパワーで日本という国を霊的に守護してゆく。

変わりゆく歴史の影で、陰と陽・・・光と闇の力。一族同士の長きにわたるその確執、彼らは激しい血で血を洗うバトルを繰り広げていたのだ。

争いの背後には、九尾の狐の影があった。

魔界と天界の戦いは、物部一族が求めたとある(鏡)を巡るその「内部抗争」として反映されていた。

真実を写し出すその(鏡)ー。

滅亡した邪馬台国の残党勢力(海家)は、闇の陰陽道を駆使する一族の敵勢力(カラス会)の手により土蜘蛛といった霊術兵器を差し向けられ歴史のなかで何度となく攻防を繰り広げることになる。

陰陽特務機関カラス会(組織※クロウ)。 
※クロウ=英語でカラス

クロウの狙いは、日奉神社の神宝である神獣鏡(天照伊弉=あまてらいざ)。それがアマテラスの精神が宿る八咫鏡の原型(プロトタイプ)、“アマテライザー”であった。

その頃安村邸宅にて。

「あの優しいじいちゃんが・・・?!(テルヒコ)」

「・・・昔は大善くんも戦争の夢にうなされて毎夜飛び起きて奥さんの首を絞めかけたりね。後遺症が大変だったそうよ。反動か知らないけど共○党てあだ名がついて近所から言われた程おっかなかった。背中に刺青して。軍隊で舐められんようにしていたんやろうね。」

「晩年のイメージからは想像もつきません。うちのじいちゃんはたしか・・・(テルヒコ)」

「いやもとはかなり、やっぱりおとなしいっていうのか学者肌だわね彼は。物腰もそうやし、娘や孫がうまれてからじゃないの?もとに戻ったんよ。」

鞠子がなんとも言えぬ複雑な顔で続ける。

「戦争はそれほど、人を変えるほど・・・恐いんだよ。大善くんはたしか前線には出とらんで救護兵やったんかな。たしか。でも敵が来たら殺りあわないけんしこわいよね。マーくんもなんか戦争から戻ってからイキイキした顔で・・・。」

「マーくん・・・。(テルヒコ)」

「マーくんはね、マーくんもかなり頭良かったよねえー。ほんと・・・向こうの棚にマーくんの写真がね。・・・ま、いいかもう昔のことやし。(鞠子)」

何かに躊躇った表情となった鞠子はテルヒコに頼む。

「テルヒコちゃん、よね。あんた。ごめんテルちゃん私眼がこんなん(盲目)だから、さ。横にお茶碗あるでしょ。あなたも食べなさい。」

「あ、いや俺は・・・!良かったら、なんか作りましょうか!?・・・ええと」

「頼んじゃっていいかなあ。助かるわあ。(鞠子)」

テルヒコは黙々と野菜を剥き始めた。

「・・・上機嫌ねえ。あっ美味しい!(鞠子)」

テルヒコは自らに関係する人物と出会えた気がして内心嬉しかった。そして、いつになくキッチンでいつにない明るい表情(かお)になっていた。

「え?!あの神社にそんな絵馬が?(テルヒコ)」

「おもしろいでしょ。大善くんかなりはまりこんで調べとったねえ。神社の伝説は・・・。(鞠子)」

「あそこの祭神は、たしかアマテラスだったはず。(テルヒコ)」

「橘家が管理する頃には色々わからなくなってたんだけども。(鞠子)」

「あんたも、橘の血が入ってるんだよ。(鞠子)」

「千里(せんり)ちゃんの、ね。大善くんの一人娘だからあんたの・・・。(鞠子)」

「オレの、お袋・・・!(テルヒコ)」

クロウの手により断たれた記憶の接点が目の前の彼女(鞠子)の記憶の中に微かに残っていた。

テルヒコは忘れた母親の名前(千里)をそのとき再び知ることになる。

「もう家がバラバラで橘→野村姓だから、野村千里だけどね。彼女も・・・。(鞠子)」

「じゃ、橘家はいまもあるんですか?(テルヒコ)」

「いはするけど、若いのはほとんどみんな県外に出ちょるし、古参の存命の連中はみんな頭の固い年寄りで音信(おとさた)は途絶えちゃったかなあ。(鞠子)」

「海さんのところも連絡先がみんな急に消えてて。バッタリ。」

「親戚の琢磨くんも消えて会社から、なくなってたんだって。そういうスジの連中ともめたのかしら。(鞠子)」

「クロウがやったんだ・・・やつらならやりかねない。(テルヒコ)」

「つまりは、海家はオレだけなのか・・・。(テルヒコ)」

「お袋の住所は今は・・・?!(テルヒコ)」

「エッあんた千里ちゃんの、知らないの?!(鞠子)」

「そりゃーさすがに私も・・・。アラまぁー。(鞠子)」

希望を見出だしかけたつかの間肝心の手がかりが消失しテルヒコは落胆した。

(大善が宮崎に隠居生活をして、大学の若者と積極的に関わろうとしたのも後進を育てるための思惑だったのでは。神社にある神宝のことも・・・。他の親類と距離をあけたのはクロウから守るためでは、と思えてきた。)

すべてを知り得る傍証はない。

「うわっ。カミサマの名前ってありすぎるんだよなあ、いまだに誰が誰だかわかんねーし・・・。(十蔵)」

神社のケースの中から出てきた三冊ほどの古文書。十蔵はかすかに読み取れる記述から、その神アマテラスの名を見つけた。

「・・・なんだ・・・天照皇太神の荒魂(あらみたま)って・・・」

膨大な情報のなかには、アマテラスの荒魂(アマテラスの勇敢な心=荒魂)の別名とされる海家の祖神の名前(マガツヒノカミ)が載っていた。

マガツヒノカミはアマテラスの悪を憎む強い心を表現した女神とされるが、神話にて「※黄泉の国の穢れからうまれた女神」とされた。

※黄泉の国=死者のゆく穢れた国。日本神話では女神イザナミが黄泉にゆきその体は腐敗し蛆がたかり、夫のイザナギは逃げ出してしまったという。

(八十禍津日神は大祓詞のみに登場する川の女神(瀬織津姫)とされる。伊勢神宮においてもアマテラスの荒魂は祭られている。)

(注・マガツヒノカミとマガツカミは別の神。)

江戸末期の写本であろう古文書の中に描かれていた着物を纏った女神らしい姿の絵。

「(何枚かページを捲る)・・・豊(ユタカ)?これが神社の・・・。(十蔵)」

「いや・・・読めねー、まったくわかんねーなー。」

古文書に記載された文書を詳しく読み取ることができなかった十蔵は、携帯にて写真を三枚ほど撮影し書類を整理して神社を後にした。

(次回へつづく!)

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