どうも特殊犯罪アナリストの丸野裕行です。
ヤクザであれば、親分や兄貴分が抗争相手を殺めてしまった場合に、自分が身代わりになって「懲役」にいくことがあります。そのような場面というのが極道社会には数多くあるわけです。
身代わりになって「オレがやったんだ!」と警察に自首して、少しだけでも刑を軽くする……。それが、目上の人間に対する義理や作法。
今回は、斎藤学氏(仮名/52歳)に兄貴分に対する内部統制の義理、組織への忠誠について聞き、綴っていきたいと思います。
様々な工夫を凝らして「身代り」を買ってでる
丸野(以下、丸)「恐怖政治になるということですか?」
斎藤氏「ヤクザ組織は、組織崩壊を防止するために、リンチや破門、指を詰めるなど暴力を使う恐怖政治をを行います。その他、ヤクザ社会ではいろいろな工夫を凝らして、組織が壊滅しないように工夫します」
丸「そんな工夫の中に《身代り》という制度があるわけですね」
斎藤氏「このような《身代り》は、それぞれのヤクザ組織にとって、特に兄貴分や親分の命を奪われてしまうことは、組織存亡にかかわります。そうです、一大事なわけです」
《代貸し》は博徒として一番上の階級
丸「それで自首すると?」
斎藤氏「対立抗争の事案や組同士の抗争などが発生してしまった場合、捜査機関に有力幹部や親分が検挙・拘束されるので、輩下の組員が身代わりになって、警察などの捜査機関に自首することが多いわけです」
丸「身代わりにね」
斎藤氏「昔から、博徒集団では《代貸し制度》をつくって、親分が逮捕されることを防ぐことを守ってきました。博徒の集団では、親分と呼ばれる貸元、代貸、本出方、助出方、三ん下となっています」
丸「なかなかややこしいですね」
斎藤氏「三ん下はいくつかの階級に分かれて、代貸しというのは博徒階級の親分である貸元の補佐役になるわけです」
丸「ということは、代貸しというのは賭博などを開帳するときに、全部の責任者になって、もし間違いがあっても、親分の名前は絶対に出さずに、身代わりになるための役割だということですか?」
斎藤氏「まぁそういうことになりますね。現場においてのヤクザの責任制度があるわけです」
関東では《代貸し》、関西では《盆守り》
丸「常に身代わりであるわけですね」
斎藤氏「ちなみにですが、関西地方では《代貸し》とは呼ばずに《盆守り》という言い方もします。以前はそういうのが多かったわけです。現在のヤクザ社会の“身代り”というのは、このような極道集団がとってきた《代貸し》制度の意識が受け継がれているといわれています」
丸「今では、賭博事件に限らずに対立の抗争事件やその他の事件などを問わず、自分たちの組織防衛をするために組長や実力のある幹部の身代りになるそうですね」
斎藤氏「そうですね。犠牲的になるような感じに変化してきてますね。こんな感じで身代りとなるのは、極道組織から要求される場合と、自分の組のために自分から身代りになる場合があります」
丸「よくある極道映画の流れですよね」
警察も把握している《代貸し》
斎藤氏「いずれにしても、懲役に務めに出たとしても、服役しているあいだや出所後の生活や待遇、家族の面倒などにおいても、極道組織としては全面的にちゃんとその組員の面倒を看てやるという前提ありきのものなんです」
丸「なるほどね」
斎藤氏「でも、警察4課などの捜査機関としては、ヤクザ社会にこのような“身代り”制度があることをちゃんと念頭に置いて捜査していますから、そんなにうまくいかない」
丸「で、使用者責任などの法律改正ができたわけですね」
斎藤氏「その通り。現実的には、身代り自首がちゃんと成功することはあまりありません。でも、身代りというのは極道組織の防衛をするためには必要になるんですね。ですから、三ん下の彼らは一旗揚げるために、なかなか諦めることはないんですよね」
丸「一旗揚げるためにですか……」
斎藤氏「特に敵対している組との対立抗争事件など、自分の組織の存亡をかけるときには、このような身代わり工作をするケースが非常に多いですし、後を絶たないですね」
斎藤氏は最後にこう締めくくった。
「ヤクザ社会は下っ端が盾になってなんぼ。報われることなく死んだ組員も数多くいますよ。そりゃ、そんなものです。下っ端は使い捨て。上層部の人間も、そうやってのし上がってきたんですから……」
彼が言った“使い捨て”という言葉。果たして本当にヤクザになってのし上がれるのか……その点に疑問が残りました。
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