細野晴臣ライブ・ドキュメンタリー『SAYONARA AMERICA』佐渡岳利監督インタビュー 「そのオンリーワンな感じがしっかり伝わると思います」

  by ときたたかし  Tags :  

細野晴臣デビュー50周年記念ドキュメンタリー映画『NO SMOKING』の公開から2年。今回新たに、2019年にアメリカ・ニューヨーク、ロサンゼルスで開催された貴重なライブ映像と細野晴臣の直近のトークシーンをまとめたライブ・ドキュメンタリー『SAYONARA AMERICA』が公開となりました。アメリカの舞台で軽やかに、自由に、ギターを奏で、歌う細野晴臣さんは今何を思い、何を語るのか。ファンならずとも必見の一本と言えそうです。前作『NO SMOKING』、そして本作を通して細野さんの姿を追ってきた佐渡岳利監督にインタビュー。前半では本作へ込めた想い、細野さんとのやり取りなど、後半では仕事をテーマに話をうかがいました。

●本作を制作することになったきっかけや経緯についてぜひ教えてください。

2019年に細野さんの音楽活動50周年のドキュメンタリー『NO SMOKING』を作ることになって、ライブの映像もたっぷり撮影していました。ただ『NO SMOKING』は50周年記念ということもあり細野さんの人生を紹介していく中で、あまりライブの部分を入れられなかったので、せっかく良いライブだったからその映像を作品としてぜひ残したいね、ということはスタッフ間の共通の認識としてありました。今回、大阪で「細野観光」というデビュー50周年記念の展覧会が(2019年の東京・六本木での開催に続き)開催されることになったので、それと連動する形で本作を制作することになりました。

●この映画を観た細野晴臣さんご本人の反応はいかがでしたか?

アメリカの観客の皆さんが、ちゃんと深く細野さんの音楽をとらえてくれていることを実感されたようで、それに対してはすごく喜んでいらっしゃいました。

●この映画を撮って監督として個人的によかったことはありますか?

本作を作るにあたって、僕も改めてアメリカでのコンサートを見て、アメリカのファンの皆さんが細野さんの音楽をどういう風に聞いているのかを見直す機会になりました。それに触れて当時の記憶もよみがえって、素晴らしい音楽の聴き方だなぁと改めて感じましたね。また当然コロナ禍における作品として考えれば、日本から海外に行ってコンサートをすること自体難しい状況が続きますよね。コロナの状況がもう少し良くなれば少しずつ変わっていくかもしれませんが、以前のようにバンバン行くことができないわけですから、そうなったときに日本のコンテンツをもっと海外に広めるにはどうしたらよいのかということを考えるきっかけになったのは僕にとっても大きかったと思います。

●この作品を映像化する作業の際に苦労したことなどがありましたか? また細野晴臣さんご本人から、制作についてリクエストなどがあったら教えてください。

まず細野さんからはいろんなアイディアを頂きました。例えばタイトルの『SAYONARA AMERICA』もそうですし、(劇中に使用した)“In Memories of No-Masking World”(マスクがなかった世界を偲んで)という言葉もそうです。いろんなヒントを下さって、僕も制作するうえで非常に助けになりましたし、良い道しるべを頂いたという感じですね。
苦労した点は、海外から色々な許諾をとることが結構大変でした(笑)。劇中使用した映像、たとえば映画『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』は、日本にエージェントがなかったので権利元がなかなかわからず一番大変でした。でも細野さんともこの映像があったらいいよね、と話していたので、途中何度もくじけそうになりましたが(笑)、海外にも色々アプローチして、結果許諾がとれて本当に良かったです。

●今回の作品を作り終えて、「何か達成した」と感じることはありますか?

ライブ・ドキュメント、いわゆるライブが主体となった作品が映画としてちゃんと成立するんだということがわかったことは大きかったかもしれません。それこそ、今後もライブを生で楽しめなくなるリスクが増えますよね。状況次第ですが観客数にまた制限が出たり無観客にせざるをえなかったり。そうなったときにライブを映画館の大きい画面で大音量で楽しめることは、すごく疑似体験として価値があると思いました。

●これから映画を観る方たちには、何を感じてほしいですか?

今回ライブが中心の作品で、アメリカでのライブはほとんどが現地のお客様でしたが、心からライブを楽しんでいました。昨今日本のコンテンツが例えばK-POPに勢いで負けているという向きもある中、まだまだ日本のコンテンツも受け入れられる可能性があるなと思わせてくれるライブだったと思います。細野さんは「はっぴいえんど」だったり、「YMO」だったり、音楽のオリジネーターであり、いろんな形を作ってこられた方だから、そのオンリーワンな感じがしっかり伝わるんだなと。そして我々もまだまだ頑張れば大丈夫!と体感していただけるのではと思いますね。

●映像を撮る仕事について、普段から心がけていることは何かありますか?

なるべく自分が出ないようにしたいと考えています。自分のキャラが映像に出てしまうことはイマイチだなと僕は思うので、なるべく出ないようにと。それはドキュメントでもテレビ番組でも同じですが、例えばカット割りについてだと、その時に自分を主張する割り方もあるわけじゃないですか。それはそれで素晴らしいものもたくさんあるので、スタイルの違いにすぎないのですが、僕の場合は、そろそろ顔が見たいなと思ったら自然にいく、ちょっと全体的にダンサーも込みで見たいな、と思ったら自然にいく、というようなできるだけ生理に合わせものにしたいなと思ってるんです。生理にバッチリあっているのでカットが変わったことに気づかないぐらいが理想ですよね。これは今までやってきた流れの中で身についていったものだと思うのですが、もちろんこれが正解かどうかは別として、自分はそうであったらいいな、と思っています。

●いまの仕事をしていてよかったと思うこと、辞めたいなと思ったことはありますか?

そうですね、良かったと思うことは、自分の好きな音楽を世の中の皆さんにプレゼンテーションできることでしょうか。例えば細野さんはそもそも有名人ですが、一般の方は当たり前だけど細野さんがどんなことを考えているか、会ったこともなく人生が交わることもないのでわからないですよね。だから本当の意図するところを上手に伝える、そういうことができるのは良かったことかなと思います。

この仕事を辞めたいと思ったことは特にないですね。でも局面的にはありますよ、仕事をしていてコイツいじわるだなーとずいぶん感じたり(笑)。時代も変わりましたけど新人の頃は特にみんなこんなに性格悪いやつばっかりなのか、って思ったり。でも考えてみれば学生のときまでは当たり前のことですが、気の合う友達と一緒にいるわけだから、あまり嫌なやつとは出会わない。でも会社や社会は違うから、「随分世の中には嫌なやつが多いなー」ってことを実感しましたね(笑)。社会に出てそういう体感をするのはきっと皆さん一緒ですよね。でも辞めたいと思ったことはなかったです(笑)。

●今感じている仕事の壁はありますか?

それはすごくあります。コンプライアンスが言われるようになってきて、何かをするために申請とか無駄な作業をすることが増えてきました、何も生産しない、何も生み出さないことを一生懸命やらなければならないことがすごく多いと感じます。だから日本は生産性が低いんだと思うんです。あと、最近eラーニング含めコンプライアンスやパワハラの研修などがとても多い。たしかに大事なことで、ハラスメントがあってはならないのですが、この生産性のない時間なんなんだろう、と思うことはあります。書類の数が増えましたし、こういうことが日本中で起こっていると思うんです。コロナの問題もそう、命が大事、お店だってつぶれないほうがいいに決まっている。そのために何を一番早くやればよいのかプライオリティを決められないんですよね。会社に限らず世の中のいろいろな局面で皆さんも感じているのでは。

あと、日本はスピードが遅いですよね。それは誰もが不満がないように「調整」することが大事で、それを実現するのは時間がかかるからなんでしょうが。海外に比べ日本だけが特殊と言うか、聖徳太子の頃から変わらず「和を以て貴しとなす」という突出してはいけない雰囲気があります。突出しすぎると織田信長とか坂本龍馬のように暗殺されてしまう(笑)。会社(NHK)に所属しながら、映画などに携わっている自分もちょっと変わっていると思います。もしかしたらよく思われていないかもしれない。でもこういう立場にいるからこそ、好きな音楽の良さを上手く世の中に伝えられるよう、いい意味で利用していくこともあるなとも思っています。

●今後の目標、展望、野望、夢などは?

もともと僕はドラマ志望で入ったので、いつかは劇映画をやりたいな、と思っています。ジャンルは何でもよいですが、ミュージカル映画とか音楽がテーマになっている映画のほうが良いかもしれませんね。『ロッキー・ホラー・ショー』みたいな作品とかいいですね。

佐渡岳利 監督 プロフィール
プロデューサー・映画監督。1990年NHK入局。現在はNHKエンタープライズ・エグゼクティブプロデューサー。音楽を中心にエンターテインメント番組を手掛ける。これまでの主な担当番組は「紅白歌合戦」、「MUSIC JAPAN」、「スコラ坂本龍一 音楽の学校」「岩井俊二のMOVIEラボ」「みんなのうた」「細野晴臣イエローマジックショー」など。細野晴臣の「NO SMOKING」、Perfumeの『WE ARE Perfume -WORLD TOUR 3rd DOCUMENT』などのドキュメント映画も監督。

作品概要:
『SAYONARA AMERICA』
11/12(金)シネスイッチ銀座、シネクイント、大阪ステーションシティシネマ他全国順次公開

「はっぴいえんど」、「イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)」として活動、常に変化を繰り返し、斬新にして普遍的な音楽を想像し続ける唯一無二の音楽家 細野晴臣。そのデビュー50周年記念ドキュメンタリー映画『NO SMOKING』(19)の公開から2年、世界は一変してしまった。突然現れたウィルスにより、それまで普通だったことが、普通でなくなり、音楽も映画も舞台も、全てのエンタテインメントを家で楽しむことが余儀なくされる日々が普通になってしまった。ライブは映像として伝えられ、人々が同じ空間で音楽を楽しんでいたのは過去の出来事。
そんな自由が制限された世界だからこそ、”In Memories of No-Masking World”(マスクがなかった世界を偲んで)、2019年アメリカ、ニューヨークとロサンゼルスで開催された“集大成”となるライブを記録した、幸福感と高揚感に満ちたライブ・ドキュメンタリー『SAYONARA AMERICA』が完成した。

https://gaga.ne.jp/sayonara-america/

『SAYONARA AMERICA』
11/12(金)シネスイッチ銀座、シネクイント、大阪ステーションシティシネマ他全国順次公開
(C) 2021“HARUOMI HOSONO SAYONARA AMERICA”FILM PARTNERS
ARTWORK TOWA TEI & TOMOO GOKITA
配給:ギャガ

ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo