有村架純、志尊淳が新型コロナに打ちひしがれた日本の職場で働く「エッセンシャルワーカー」と呼ばれる保育士や介護福祉士、農家の人々など、声なき仕事人達の現状をレポートするドキュメンタリー映画『人と仕事』が公開になりました。『さんかく窓の外側は夜』(21)の森ガキ侑大監督以下、当初は劇映画を制作予定だったものの、新型コロナウイルスの感染症拡大の影響で、映画制作を断念する一方、監督・俳優はそのままに、現在の日本を探るドキュメンタリー映画へシフトしたという、異色のプロセスを辿っています。そこで登場する人々は、夜の街で生きる人々や、シングルマザー、社会的養護が必要な子どもたちなど、誰にも頼れない社会でたくましく生きる人々、そして仕事そのもの。まさに“今”を映し出した本作について監督に話を聞きました。
■公式サイト:https://hitotoshigoto.com/ [リンク]
●企画の当初はコロナ禍を描くものではなかったそうですね。でも世の中が変わってしまい、必然的に方向性も変わったそうで。
そうですね。世の中がそうなってしまったのですが、これは描かなければいけないと立ち上がったところもあります。そもそもの企画内容も今の時代に伝えなければいけないことを扱うものでしたし、メディアでは言えないこともあると思いますが、この映画ではなるべく言おうと。なので鮮度としても今じゃないと作れないと思いました。
●映画を観ていただければ分かることではあるのですが、これから観る方たちへ事前に伝えたいことはありますか?
ウソ偽りがまったくないことですね。魂の叫びじゃないですが、人々の本当の声を拾っています。それはテレビも新聞も伝えてはいるのですが、もうワンステップ奥に入り込んでいるという自負はあります。いろいろな業種の方たちを一列で固めていく表現は、映画でなければできないことだと思うんですよ。
たとえばニュースでコロナ関連の人々を報道するのであれば、数分の世界で切り取り、「はい、次はスポーツです」となるじゃないですか。
●あれは気持ち悪いですよね。自宅療養の報道の後にまったく関係のない話題に切り替わるのですが、気持ちまではすぐ切り替わるわけではないというか。
難しいと思います。コロナ番組ばかりだと、数字は取れないでしょう。なので、流れで伝えることができる手段は、現時点ではNHKの特番か映画しかないなとは思いました。この映画の中に90分というタイムラインで、いろいろな人たちの悩みをジグザグに描いて、これが社会である、というものは映画でないとできないなと改めて思いました。これでたくさんの人に観てもらい、考えるきっかけを作るしかないだろうと。
●本作の企画の発案は『新聞記者』(19)『パンケーキを毒見する』(21)など、話題作を世に送り出しているスターサンズの河村光庸さんですが、ちょうど『パンケーキを毒見する』(21)も大ヒットしていて時代を映している方ですが、どういうリクエストがありましたか?
「段取るな」という注文はありました。エッセンシャルワーカーとリモートワーカーという入口があり、いろいろな職業の流れがありますが、僕は段取りのプロというか、そういうジャンルのところにいたので、とても勉強になりました。20数年、物事を段取る仕事だったので、そこをどうにか壊していく作業から入りましたね。段取らず、しっかりと真実を映し出して伝えていくようにしました。
●段取りがない世界での作業という意味では、レポートを務めた有村架純さん、志尊淳さんも大変だったのではないでしょうか。
みんな不安だったと思います。不安のまま一緒に突き進んでいく、それを説得することが一番大変でした。正直、僕にもわからないんです。でもわからないから面白いはずですと、そういう話をしましたね。僕も不安だったので、正直ずっと胃が痛かったです。
●志尊淳さんが街の人にインタビューを断られて心折れそうになったと言われていたと思いますが、やっぱりモノづくりで先が見えない恐怖はありますよね。
せっかくなのでヘタなものは誰も作りたくないんです。自分たちが消化して理解して、どうすればよくなるかはつねに考えているふたりだったので、その気持ちはよくわかります。でも、正直に答えられないんですよ。僕も答えはわからなかったから。ただ、それこそがドキュメンタリーなのかなと途中で思いました。つまり答えがわかると、面白くないじゃないですか。なので仮定でも答えを作らずに記録的な映画、新しいものを作ると。でも、新しいものを作る時は常に不安がつきまとうものなんです。
●この切り口で映画を撮られて、改めて何か気づいたことはありますか?
入口はエッセンシャルワーカーとリモートワーカーなのですが、僕は撮りながら最初はそのことに偏りすぎてしまいました。でも、どんどんいろいろな人にインタビューしていくにつれて、これはコロナ禍で人とは、仕事とは、もう一度見つめ直す機会だと思いました。なのでその分け方を離れ、生きるとは何か? それは仕事をすること、仕事をするということは、どういうことなのか。その本質に入って行くと、見えてくるものがありました。
最終的にはこれからコロナ禍を生きていく人、未来の子どもたちはどういう目線で見ているのかというところで、児童養護施設に入って行くんです。そこでたくましく生きている姿を観た瞬間に、僕はこの映画、すごいものになるなと実感しました。あの子たちの生きる力みたいな、もう目が違うんです。
●今日はありがとうございました。最後にこれから観てくださる方々に一言お願いします。
コロナ禍では、いろいろな考え方があったと思うんです。なのでこの映画を通じてみんなで一緒に生きるとは何か、でも生きるということはそこに仕事があり、仕事をしないと生きていけないという真理がありますよね。そういう意味で、もう一度仕事を通じて生きることについて考えてほしいです。この映画が若い人から年配の方まで、観ていろいろと感じてもらえる映画になっていればいいなと思っています。
■ストーリー
2人の“俳優”が、役ではなく、そのままの“自分”としてスクリーンに登場。有村架純と志尊淳が、保育士や農家などといった職業に就く人々を訪ね、体験し、演技ではない、ありのままの言葉や表情で、職場が直面する数々の問題に触れ、現代社会の陰影を浮き彫りにする。そして、「リモートでは出来ない、そこにいなければできない仕事」の価値を再認識していく有村と志尊は、そんな「エッセンシャルワーカー」達の姿を、次第に自分自身の仕事-俳優業-と重ねていく。
様々な人と仕事への眼差しがもたらす2人の変化。「人にとって、仕事とは?」果たして2人が見つけた答えとは一
(C) 2021「人と仕事」製作委員会
公開中