全国順次公開中、映画『コントラ KONTORA』が映し出すもの 「家族とこじれている人にも観てほしい」監督の想いとは

  by ときたたかし  Tags :  

ワールドプレミアとして上映されたエストニアのタリン・ブラックナイト映画祭でのグランプリ&最優秀音楽賞受賞をはじめ、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭での国内長編コンペティション部門 優秀作品賞受賞など、数々の映画祭で高い評価を獲得してきた衝撃作『コントラ KONTORA』が現在、全国順次公開中です。(7月11日(日)、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭 2021プレイベントでも上映あり)
 
本作のメガホンを握ったインド出身のアンシュル・チョウハン監督は、「車の事故で家族を亡くしたある男性が、過去に戻ろうと後ろ向きに歩き出した」という記事から映画化が始まったと語り、そこに個人的な想いも込め、モノクロームの独特の映像世界で多くの観客を魅了しています。チョウハン監督にお話をうかがいました。(今年1月に監督に取材した内容に加筆してお届けします)

■関連記事:アンシュル・チョウハン(映画『コントラ』監督) – 時空を逆走するほどの想い。人間がもつ良い面と悪い面、どちらもきちんと描きたかった [リンク]

■公式サイト:https://www.kowatanda.com/kontora [リンク]

●今回の物語やテーマを映画化しようと思われた、最初の着想のきっかけは、どこにあったのでしょうか?

普段の生活や映画ではまず自分が観ないような、そういうものを題材にしたいという思いがもともとありました。個人的な経験も映画には投影していて、そこも元になっているところもありますが、ある時イギリスにいる後ろ向きに歩く男性がYouTubeに取り上げられている姿を観て、なぜそういうことをするのか興味が湧いたのです。リサーチを進めると彼は事故でご家族を失くして、前に進めなくなってしまったというのです。それも含め、いろいろな要素を組み合わせて映画を撮ることにしました。

●日本の文化・習慣の描写もリアルでしたが、どうリサーチをしてまとめたのでしょうか?

わたしは日本に住み始めて9年になるので、ある程度のことは理解していますし、初対面でもどういう人柄かがわかるというか、顔の表情でどことなく人となりがわかるようになりました。おそらく日本人が考えていることを感じ取れているということはあったと思うのですが、ただ、題材になっている遺産や相続みたいな問題は日本だけでなく、いろいろなところで起こる問題ですよね。僕の国のインドでも起こること。後は映画に落とし込む際に、日本らしい表現に気をつけた影響もあったとは思います。

●映画を観た観客の感想で、どういう声が届いていますか?

映画の感想はあまり受け止めないようにしているところもありますが、実際に観た人の声の中には、自分の家族ともう少し話をしようと思ったなどと、気持ちの変化があった人はいましたね。そういう意味では、家族との信頼関係がよくない人にも観てほしいですね。もう少し両親と話したいのになかなか話せていないという人などがいれば、ぜひ観てほしいと思っています。

●この映画を撮ったことで、監督ご自身の中でチェンジしたものはありますか?

自分が作りたいものが作れたという快感があったことと、この映画を作って上映・オンライン公開されたことで、気持ちを浄化できることはありました。この映画を作ることで、ふつふつと映画への前向きな気持ちが湧いたことはありますね。

●監督の活動拠点は東京だそうですが、映画製作は大変ではないですか?

もともと僕はCGアニメーターとして日本に来ました。最近は映画製作がメインですが、個人的に映画を作ることはまったく大変ではありません。むしろ、それをリリースする、上映することが困難なのです。上映するためには日本の上映システムに則らなければなりません。インディペンデントの映画製作者としては自分の作った映画をどう残していけばいいのか、そこは考えなければならないのです。

●次回作で撮りたいテーマはありますか?

3作目のアイデアはあります。コロナ禍でどうなるかがわかりませんが、今年中には撮りたいですね。僕は映画を仕事として作り続けたいという思いがあります。それが目標です。

●映画ファンに一言投げかけるとすれば、何を伝えたいですか?

この映画を観ることで歴史や人との関係について、もう一度考え直すきっかけになると思うんです。なので、この映画で少しでも自分たちの両親や祖父母の世代が、あの戦争の時代をどう過ごしていたかなど、想いをはせることを望みます。若い方はそういうことに触れる機会があまりないと思いますし、そういう意味では映画は全身で入り込み、いろいろと観ることができると思うので、映画を通して歴史を学べると思います。

■ストーリー

高校生のソラ(円井わん)は、父親(山田太一)と二人暮らしだが、その関係は冷え切っている。そんなある日、急死した祖父が第二次世界大戦時の日記の中に遺していた、記号化された宝の存在を知ることとなる。彼女が密かに宝の探索を試み始めたとき、突然無言で後ろ歩きをする見窄らしい男(間瀬英正)と遭遇する。ソラの身に、ほぼ同時に起こった二つの事象。それは果たして何かの啓示なのか?

全国順次公開中:https://www.kowatanda.com/kontora-theaters [リンク]

東京 新文芸坐 8/13 のみ
茨城 あまや座 8/14~
兵庫 元町映画館 近日公開
京都 出町座 近日公開

ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo