映画『湖底の空』佐藤智也監督、阿部力インタビュー:誰かを思慕する気持ちを静かに力強く描く人間ドラマ

  by ときたたかし  Tags :  

『マレヒト』(95)『L’Ilya〜イリヤ〜』(00)『舌〜デッドリー・サイレンス』(04)などインディペンデントで映画を作り続けてきた佐藤智也監督の最新作、映画『湖底の空』が全国公開中です。韓国、中国、日本など、それぞれの土地を物語の背景に据え、その国に関係なく人間に共通するサバイバーズ・ギルト、すなわち誰かを思慕する気持ちを、静かに力強く描いてます。

主演は、韓国インディペンデント映画のミューズ、イ・テギョン。彼女が一人二役で演じる空と海に振り回される新聞記者の望月を、「花より男子」の美作あきら役で注目を集め、その後中国・台湾など国際的に活躍する阿部力さんが演じています。

そこで今回、佐藤監督、そして阿部さんに本作にまつわるお話をうかがいました。

■公式サイト:https://www.sora-movie.com/ [リンク]

■動画

●ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2020では、審査員の満場一致でグランプリに選出されましたが、どういう感想が届いていましたか?

監督:実は初のオンライン開催でしたが、感想はみなさんTwitterに寄せてくださったので、しっかりと僕らには届いていました。

阿部:現地に行かなくても観られたので、参加した人は増えたのではないですか?

監督:増えたとは思います。寄せられた感想のいくつかは、パンフレットへの使用許可をいただいたりしています。ギミックが見事とか、三か国語が切り替わるエンディングロールは初めて観たとか、ほめる声が多かったですかね。わりとこちらの意図が届いたとは思います。

●阿部さんは、最初オファーがあった際はいかがでしたか?

阿部:監督が10年くらいかけたシナリオということで、再考に再考を重ね2018年くらいにようやく撮影できることになったとうかがいました。その内容が素敵でした。なので自分でよければぜひやりたいとお伝えしました。監督の静かなる熱意も感じましたし、物語も静かな世界観に惹かれました。自分の想像の話ですが、まるでずっと深いところを泳いで最後にスッと上がってくるみたいな。そういうイメージですかね。

監督:自分はアート系の映画が好きなんです。アクションみたいなものではなく、日常の淡々としたドラマがあるけれども、そこにはいろいろな想いがこもっている世界が好きなので、今回もそれを目指したところはありますね。

●人を思う気持ちを描いていますが、どういう想いを込められたのでしょう?

監督:もともとのきっかけは実際の双子に話を聞いた時に双子同士、結びつきがものすごく強いそうなんですよ。でも、子どもの頃などは一心同体で暮らしているけれども、大人になってだんだん自我が生まれれば離れていくと。その双子が自我ができる前に強制的に離されてしまうとどうなるのだろうかと、そこが気になりました。

そこで、相手のことを思いながら自分の人生を生きる、まるで主人公が二人分の人生を生きるような設定を考えてみました。

●そこに阿部さん演じる望月が関係してくるわけですよね。

監督:最初お会いした時に『ベティ・ブルー』や『ニキータ』の相手役みたいなイメージをお伝えしました。主人公の女性がものすごく精神的なトラブルを抱えているので、それに対してどんどんいくのでなく、ちょっと待ってあげる感じのキャラクターだというお話をしました。

阿部:監督がおっしゃっていた待つということ以外では、望月は望月なりに幼い時の経験もあり、彼なりに抱えている問題もあるんです。そこを膨らませて、成長した望月は、自分が抱えている問題を秘めているような人と言いますか、そういう意識はしていました。

●この作品、どういう風に観てほしいですか?

監督:切り口としてはサスペンス風の人間ドラマですかね。サバイバーズ・ギルドという言葉が東日本大震災後に使われましたが、死んだ人のことを思うと自分が生きていることに罪深さを感じてしまうという、要は生存者の罪の意識みたいなことですよね。その言葉は宣伝上、使ってはいるのですが、普通に生きているだけで罪の意識を持ってしまう人たちがいれば、ちょっと救いになる話にもなればなと思っています。

●阿部さんは以前の舞台あいさつで、いろいろな想いが交差する映画だと言われていましたが、改めてメッセージはありますか?

阿部:僕はイ・テギョンさんがひとりで演じている彼女のお芝居をはじめ、日本語・中国語、言葉もものすごく時間をかけて準備されたと思うので、監督のキャステングはピッタリだなと感じましたし、そこを観てほしいなと思います。

監督:俳優さんが多岐に渡っているので、そういうところも観てほしいと思います。韓国で頑張っている俳優さん、日本に住んでいる韓国出身の俳優さん、日本に住んでいる中国人の方、いろいろな背景を持ってくれた人たちが参加してくれたので、そういうところを味わってもらえたらと思います。

■ストーリー

空(そら)と海(かい)は、日本人の父・高志と韓国人の母・チスクの間に生まれた一卵性双生児の姉弟。大きな湖があり、民俗芸能が盛んな韓国・安東(アンドン)で生まれ育った。

 現在、28歳となった空は中国・上海に暮らしている。イラストレーターとして仕事を得ようとするが、作品の売り込みはなかなかうまくいかない。出版社に勤める日本人の男性、望月が何かと空の絵を気にかけ、仕事を提供しようとする。異郷の地で暮らす二人は、似たような境遇から親密な関係を築きつつあった。

 空のもとに双子の弟が訪ねてくる。インターセックスだった海(かい)は性別適合手術を受けて女性となり、名前を海(うみ)と変えていた。

 海(うみ)は空と望月の恋愛を後押ししようとするが、空は「絵が本当にうまかったのは海(かい)だ」と思いながら、恋愛に積極的になろうとしない。絵のこと以上に問題になっているのは、空と海(うみ)が幼少時代から抱えたある秘密だった。空は何かに追い詰められ、精神的に不安定になっていく……。

全国順次公開中

愛知 名演小劇場 7/3(土)〜
神奈川 横浜シネマリン 近日公開
栃木 宇都宮ヒカリ座 近日公開
栃木 小山シネマロブレ 近日公開
岐阜 CINEX 7/3(土)〜
東京 K’s cinema 上映終了
京都 京都みなみ会館 7/23(金)〜
大阪 シアターセブン 7/24(土)〜

2019 / Japan SouthKorea China / 111min.
(C) Marehito Production

ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo