※編集部注・本記事の意見・内容は取材時における現場での一つの見解です。業界全体に当てはまるものではありません。
どうも特殊犯罪アナリスト&裏社会ライターの丸野裕行です。
イギリスやインドの変異種まで姿を現し、若年層への感染も広がる新型コロナウイルス感染症。GWをまたいだ、東京・大阪・兵庫・京都の4都府県への3度目の緊急事態宣言ですが、5月11日の期限を31日まで延長し、愛知県と福岡県を対象地域として追加する方針を打ち出しました。
さらに、まん延防止等重点措置を北海道、埼玉、千葉、神奈川、岐阜、三重、愛媛、沖縄の8道県に拡大され、予断を許さない状態です。
止まることを知らない新型コロナ感染の恐怖と経済活動ができないという焦り、確保できていないコロナワクチンの接種、11週間を切った東京オリンピック開催に立ち込める暗雲。なんとか収束を試みる後手後手の政府の対応は、“人流抑制”が関の山です。
何度も何度も減っては増え、減っては増え、とまるでバイオリズムのような曲線を描き続けるコロナ感染者数ですが、この先の見えないコロナ禍で関西各地に点在する「風俗店」は現在どのような状況になっているのでしょうか?
今回は、以前大阪にある遊郭“ちょんの間”に取材したように、失くなってほしくない男の遊び場「風俗店」の女の子やスタッフさんに、お店の現状、風俗店を取り巻く環境について取材してみました。
『このコロナ禍、オトナの遊び場・大阪にある「遊郭」はどうなっているのか?』https://getnews.jp/archives/2851251
お客さんの入りは全盛期の3分の1
具体的に「風俗店」の現状はどのように変化してしまったのでしょうか?
まずは、ホテヘル(ホテルヘルス)激戦地である、大阪市中央区日本橋付近にむかいます。このあたりは、日本有数の電気街である《でんでんタウン》が有名で、東京秋葉原のようなサブカル発信基地としても広く知られています。かつてマンヘル(マンションへルス)が主流のエリアだったのですが、現在では全店一斉摘発を受けてしまい全滅。今では、大阪市内で1、2位を争うほどのホテヘルエリアです。
まずは、コロナ前は人気店だった『R(仮名)』の関係者・M氏(40歳)にお話を伺いました。
丸野(以下、丸)「今風俗店というのはどんな状況なのですか? 感染予防対策などをとられているんでしょうか?」
M氏「風俗店のお客の入りはどんなところでも3分の1程度に減っています。やっぱり、彼女たちに働いてもらっているこういったお店は“超濃厚接触”という感じで運営されているじゃないですか? お客様に言われれば、キスは断れないし、密着してサービスを行うので、これといった対策はなかなか厳しいと思いますね。もちろんPCR検査と検温は随時行っていますし、お客様にも入店時に、検温とアルコール消毒には協力していただいてます」
丸「昨年くらいから、性風俗店でもクラスター感染が出たりしていますよね。ヘルス店はわかりませんが、“おっパブ”なんかのさらに不特定多数が交わる場所での……」
M氏「そうですね、“おっパブ”や“セクキャバ”、“いちゃキャバ”などは惨憺たる有様です。陽性者が出れば、保健所はここぞとばかりに風俗店を公にするでしょうし、そうなると休業、客足がどんどん遠のき、廃業に追い込まれます」
丸「なぜ、“おっパブ”や“セクキャバ”は感染者が出やすいのでしょうか?」
シャワーを浴びられるかどうかで雲泥の差が出る?!
M氏「同業者や系列店からの情報では、大阪と京都にはない神戸のピンサロ店なんかで“出たらしい”とまことしやかに囁かれています。ああいった場所は、女の子が1度出勤すれば十数人のお客さんを回る。不特定多数の接触になるわけです。やっぱり様々な場所にお客さんの唾液がついてしまうので、それで感染が広がるんでしょう。このような業態のお店は以前から性感染症が蔓延しやすいといわれていました。アルコールでの消毒を繰り返してしまうと、肌が荒れてしまうので、女の子も嫌がります。ひと通りのプレイが終了すると、シャワーを浴びることができないので、おしぼりを使って拭き取る程度です」
丸「なるほど」
M氏「だけど、一応PCR検査キットを仕入れて、ちゃんと定期的に調べているので、噂だけだと思いますね」
丸「ホテルヘルス店はそれがないと?」
M氏「ヘルスという業態だとホテルでシャワーが浴びられますし、1回1回のプレイで清潔に戻れますからね。大阪に点在する遊郭なんかも怖いんじゃないですかね、入浴的内閉鎖された“密”の空間ですから」
イソジンでうがいする回数が3倍に増えた
このヘルス店の現状を、同じく大阪梅田の箱モノ店(店舗)『W(仮名)』で働く、U実ちゃん(22歳)に質問してみました。
丸「シャワーを浴びられるかどうかでリスクの度合いが変わってくると、とあるお店の店長は言っていたんだけど、どう?」
U実ちゃん「こんな仕事をしていて、感染予防なんて100%できないよ。キスしたがるお客さんの要望を断ることなんてできないから、私は唾液を飲み込まないようにして、すぐにイソジンでうがいする。通常営業のときの3倍はうがいしていると思う。一時期、大阪の吉村市長が“イソジン液がコロナに有効”と言ったのをいまだに信じてやってる」
丸「確かに言ってたよね。市場や店頭から、一時期消えてしまった」
U実ちゃん「お店では濃厚接触してしまっているので、仕事がないときは自宅に籠って一歩も外へ出ない。食事はUberで済ませる。同じお店の子からは、相変わらず営業しているホストクラブに誘われるけど、収入が半分以下になったのでもう行く余裕がないんだよね」
ちなみに1軒目に取材をしたM氏のお店とU実ちゃんが働いているお店では、昨年夏から2ヵ月に1回のPCR検査を、お店すべてのスタッフに行っているとのことです。日々さまざまなお客さんがやってくるのに、2ヵ月に1回では少ないと思ったのは筆者だけではないと思います。
京都の風俗店も壊滅的な状態が続く
続いては、京都祇園~木屋町に点在する風俗店の数々。筆者も以前潜入取材でボーイとして働いたことのあるこの街で、話を伺うことにしました。
木屋町にお店を構えるヘルス店『I(仮名)』の店長・A氏(39歳)とお店の女の子・Kさん(30歳)はこう答えます。
Kさん「一度、お店のスタッフ全員で、抗原検査を行ったのですが、全員陰性。正直胸を撫でおろしました。私は、シングルマザーで子育てをしながらこの仕事をしているので、子供にうつしたらどうしようか、そればかりが気になります」
A氏「自治体側も、ナイトワークのようなお店にはPCR検査などを実施していますが、私たちのような風俗店まではしてくれません。ウチはグループ店なのですが、本部のすべて持ち出しですね。それに、ウチのお店はシングルマザー多いんですよ。生活もあるのにお客様が激減して、彼女たちには申し訳なくて……。Kちゃんは、子供を寝かせてからラウンジでもバイトしているみたいなんですが、酒の提供ができない今、お店も休業しているようなので……」
丸「Kさん、生活面では大変ではないですか?」
Kさん「今までの休業補償制度など、私たち風俗従事者は対象外にされています。本当に偏見の目にさらされているような気持ちになりますね。女の子たちはみんな、生活費や学費、養育費などに困窮しています」
実際、風俗業が新型コロナウイルス感染症対策で救済する対象(持続化給付金、家賃支援給付金など)になるか否かは、裁判で争われています。事業者向け給付金の《対象外》にされた風俗業者が国を訴えたわけです。なんとか救済を……と訴えかける原告側に対して、国は「本質的に“性風俗業”は不健全。社会一般の道徳観念に反するもの。国民の理解は得られない」と反論しています。
一般社会から爪弾きにされた女性たちが流れつく最後の砦
Kさん「私たちの中には、正直一般的な昼職に就くことが困難な女の子たちもいます」
丸「たとえば?」
A氏「完全な自由出勤で日払いで現金を受け取れる風俗は、躁鬱や過食症、拒食症などの精神的な疾患を抱える女性や夫からのDV被害から逃れてきた女性なども多いんです。しかし、コロナで生じた店舗休業や営業時間の短縮、自粛などで日々をしのぐ生活費用を稼ぐという手段が格段に減少しました。数日間働けなくなれば、家賃滞納や食費がない、光熱費がなく電気やガスを止められたりと今までの生活が崩壊します。実際に夫から逃げた女性は、保険証や住民票の移動もできずに10万円の定額給付金を受けとれなかったという話も聞きました」
丸「ああ……、可哀想ですね」
Kさん「それに、コロナ禍になってからというもの、客層すらも様変わりしてしまいました。これまでの一般的なお客様ではなく、来店が多くなったのは、無職や肉体労働系、女の子を乱暴に扱う人や異常に性欲が強いお客さん。こんな時期に本番強要するお客さんもいるので、女の子も指名が取りたくてムダに頑張る子もいて……。目も当てられない状態が続いているんです」
関連業者も虫の息
関西圏の風俗店で働くキャストたちの宣材写真を数多く撮影しているフォトスタジオ『L(仮名)』のカメラマンであるF氏(45歳)は……
F氏「3度の緊急事態宣言が出てしまい、ウチも開店休業状態です。正直、どこの風俗店もキャバクラなどの飲食店も、お金が回らないから新しい写真を撮っている場合じゃない。お店側も宣伝広告を打って、客入れにテコ入れをしてもコロナ禍ではどうしようもない。まず、コロナ感染リスクのふるいにかけられてしまうので、お客さんが来てくれるのはほんのわずかです」
丸「Fさんのような風俗関連の業者さんも困っているのではないでしょうか?」
F氏「タオルなどをレンタルしているリネン業者、今まで集客を担ってきた情報誌やWeb会社なども困っているんじゃないですか。スカウトの会社も、今は仕事がない可愛いガールズバーの女の子たちが風俗に流れてきているので、散々でしょう。高級コンパニオンまで、入り込んできているとの話です。今まで身を粉にして働いてきた女の子たちも総入れ替えが近いのかもしれません」
「こんなはずではなかったのに……」一般的な生活を送る人々よりも風俗業で高給を取っていた彼ら彼女たち。新型コロナウイルス感染症が拡大してから、各生活相談窓口には風俗従事者の相談が急増したといいます。
日々感染者が増え続けるPCR検査での感染経路不明の陽性反応。その中でも、風俗従事者や風俗利用者が本当のことを言い出せずに《感染経路不明》扱いになっているという噂も独り歩きしています。
この未曽有のコロナショック、風俗業はしっかりと乗り越えられるのでしょうか?
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