「いまこの時代でも会社・組織で権力をめぐる闘争は存在する」イ・ビョンホン主演『KCIA 南山の部長たち』監督インタビュー

  by ときたたかし  Tags :  

1979年、韓国のパク・チョンヒ大統領が中央情報部部長のキム・ジェギュに暗殺された実話を、『インサイダーズ/内部者たち』(15)のウ・ミンホ監督が独自のアレンジも加えて映画化した実録サスペンス、『KCIA 南山の部長たち』が現在、全国で順次公開中です。

軍事クーデターで政権を握り、独裁者と批判されるほど絶大な権勢を誇ったパク・チョンヒ大統領は、側近だあった中央情報部部長キム・ジェギュになぜ殺害されたのか?キム部長を演じる韓国を代表するトップスター、イ・ビョンホンの熱演が物語るものとは?監督にお話を聞きました。

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■ストーリー

1979年10月26日、大韓民国大統領直属の諜報機関である中央情報部(通称:KCIA)部長キム・ギュピョンが大統領を射殺した。大統領に次ぐ強大な権力と情報を握っていたとも言われるKCIAのトップがなぜ?さかのぼること40日前、KCIA元部長パク・ヨンガクが亡命先であるアメリカの下院議会聴聞会で韓国大統領の腐敗を告発する証言を行った。更には回顧録を執筆中だともいう。激怒した大統領に事態の収拾を命じられたキム部長は、アメリカに渡り、かつての友人でもある裏切り者ヨンガクに接触する。それが、やがて自らの運命をも狂わせる哀しき暗闘の幕開けとも知らず……。

●本作で注目してほしいポイントは何でしょうか?

1979年10月26日に起きた、中央情報部部長による大統領暗殺事件を描いています。なぜその事件が起きたのかを描いているのですが、時期としては事件が起こる10月26日からさかのぼって、40日間の様子が描かれています。この事件は韓国ではとても有名な事件なので、たくさんの方が知っているのですが、この事件に加担した人物の内面、つまり感情や心の中は、なかなか知られてはいなかったんですね。当時の主人公である中央情報部部長の感情はどうだったのか、どういう感情を持っていたから大統領の暗殺に至ったのか、そういう面も描かれていますので、人物同士の関係性や、感情、内面に注目してほしいと思います。

●本作を監督するにあたり、まず考えたことは何でしょうか?

申し上げたように、この映画は大統領をなぜ殺されたのかを描いている作品であり、どうして殺されたのかという理由を描いているのですが、観客がこの映画を観て、その答えを自ら見つけてほしいという想いで撮りました。そして非常に大切だったことは、政治的に非常に敏感な物語ですので、客観的に撮ることがとても重要でした。何かひとつの答えにに偏って撮るのではなく、全体を見捨てえて撮ることが大事なことでした。

●キム部長役、イ・ビョンホンの「凄さ」について教えてください。凄まじい迫力で、圧倒するパワーに満ちていましたね。

ビョンホンさんと映画を撮る作業は2作目になりますが、俳優としてすごい点は自分の姿を完全に消して、キャラクターになりきることですね。映画ごとに新しいキャラクター、新しいい人物を作れることが一番すごいことだと思います。だからこそ各国の映画監督たちは、イ・ビョンホンさんと映画を撮ることを望んでいるのです。

●今回の作品を作り終えて「何か達成した」と感じることはありますか?

コロナ禍で興行的には大変でしたが、収支が合うくらいには成功した作品なので、また次の作品が撮れるという安堵感がありました。個人的には、これ以前の作品とはスタイルが違います。それまでが直線的でダイレクトに撮っていたとしたら、今回は冷たい瞬間もあるドライな感じで撮った映画になります。そんな風に新しいスタイルを模索しましたが、幸い満足したという声が多く、うれしく思っています。

●完成した映画の感想・自己採点はいかがですか?

この映画を観すぎてしまったと言えるくらい観ていて、ポストプロダクションの作業では数百回は観ますので、この映画を客観的に観ることは難しいです。もう少し時間が立てば、自分の感想がこうだったと、言えることはあるかと思います。

自己採点については、自分の作品をやはり、自分で採点することは難しいことですので、映画を観てくださった観客の方、批評家の方、記者のみなさんが点数をつけていただければと思います。

●日本の映画ファンには何を感じ取ってほしいですか?

みなさんが映画を観る前にわたしが説明するのもどうかと思うのですが(笑)、1970年代当時の韓国でなぜこの事件が起きたのかを描いている作品です。日本の歴史の中にも第一人者がいて、それを取り巻く人々がいたと思うので、似たような状況は日本にもあったのではないでしょうか。そういう歴史はどこにでもあり得ると思いますので、今この時代でもたとえば会社・組織で権力をめぐる闘争は存在しますよね。それと比較してみてもらうことがよいかと思います。韓国で1970年代に起きた事件ではありますが、それを拡大して今の視点で観ていただければと思っています。

ウ・ミンホ監督

デビュー作『破壊された男』(2010)では、娘を失いさまよう父親の熾烈な死闘を描き、練られたストーリーと緻密な演出力で注目を集めた。『スパイな奴ら』(2012)では異色のテーマと強烈なキャラクター、胸を打つドラマを1つのストーリーにまとめあげ、リアルスパイ劇という新しいジャンルを誕生させた。本作と同じくイ・ビョンホンを主演に迎えた『インサイダーズ/内部者たち』でR指定作品としては歴代最高の観客動員数を記録する大成功を収める。実はその『インサイダーズ/内部者たち』より以前に、監督は本作の映画化を夢見ていたという。「<朴正煕(パク・チョンヒ)大統領暗殺事件>は、もちろん広く世間に知られている事件です。でもこの事件の背景に本当は何があったのか、その多くが未だ謎に包まれています。事件をよく考察し掘り下げ、その先に何が見えてくるのかを知りたかった」と。(公式サイトより)

【主な監督作】
『麻薬王』(18)、『インサイダーズ/内部者たち』(15)、『スパイな奴ら』(12)、『破壊された男』(10)(公式サイトより)

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全国公開中

ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo