仏映画『ハッピー・バースデー 家族のいる時間』監督&主演インタビュー「家族が食卓を囲んでいるうちに仮面がはがれてしまうんだ」

  by ときたたかし  Tags :  

国民的女優のカトリーヌ・ドヌーヴを筆頭に、フランスを代表する豪華キャストが勢ぞろいした映画、『ハッピー・バースデー 家族のいる時間』が公開になります。フランス流家族ドラマである本作は、母の70歳の誕生日祝いの会のはずが、それぞれが抱える過去や秘密が次々に暴かれ、修羅場のようになっていく模様を描いています。しかし、どんな家族でも、やっぱり恋しく、愛おしくもほろ苦いもの。国や世代を超え、共感度満点の普遍的な愛の物語を作り上げたセドリック・カーン監督、そして次男ロマン役を演じた個性派俳優ヴァンサン・マケーニュに話を聞きました。

■公式サイト:https://happy-birthday-movie.com/ [リンク]

■ストーリー
70歳になるアンドレア(カトリーヌ・ドヌーヴ)は、夫のジャン、孫娘のエマとフランス南西部の邸宅で穏やかに暮らしている。そこへ、母の誕生日を祝うため、しっかり者の長男ヴァンサン(セドリック・カーン監督)と妻のマリーが二人の息子を、そして映画監督志望の次男ロマン(ヴァンサン・マケーニュ)は恋人ロジータを連れてやってくる。家族が揃い、楽しい宴が催されようとしたそのとき、3年前に姿を消した長女クレールが帰ってくる。アンドレアは娘をあたたかく迎え入れるが、他の家族は突然のことに戸惑いを隠せない。案の定、情緒不安定なクレールが大きな火種となり、家族に嵐を巻き起こす。それぞれの思いはすれ違い、やがて混乱の一夜が幕を開ける――。

●今作は家族が主題でしたが、そこに向き合おうと思ったのはなぜでしょうか?

カーン監督:すごくそうしたい決心があったわけではなくて、わたしの家族の物語を語りたかったんです。それがなぜかと言われると、難しくてちょっと説明できないかな。

●食卓を描きつつも修羅場になったりしますが、実体験も含まれているのでしょうか?

カーン監督:あれはお祝いの席だけれども、参加者全員でお芝居、演劇に参加しているようなものだよね。みんな衣装を着て、仮面を付けて、それぞれの役割を演じている。なんとかそれで家族を維持しようと演じているけれど、食卓を囲んでいるうちに仮面がはがれてしまうんだ。

●映画を観た人の感想の声の中でうれしかった、印象に残っている感想は何ですか?

カーン監督:これは悲喜劇なので、多種多様な感想があった。これを喜劇、コメディーとして観る人もいれば、悲劇として受け止めた人もいた。あるいは、自分の家族にすごく似ているってて人もね。自分とは全然違うから、スペシャルな家族だなって言う人もいた。それこそがこの映画の特徴だと思った。みな自己体験に引き寄せて感想を語っていたよ。

それと最初の質問!久々に聞かれたので回答に時間がかかったけれど、家族のテーマを描きたい思いは随分前からあった。もしかすると、監督になる前から抱えていたテーマかもしれない。わたしの家族はクレイジーで、いじわるなところもあったり、磁石のようにくっついたりもしている。でも長年抱えてはいたけれども、自分の家族のことを語るには距離を持って観察して、観客の目で語れるようになることが必要だったので、扱うことが今になったと思う。プロデューサーが演じるほうもやりなさいと言ってくれて、今回は外側、内側で参加するということになったよ。

マケーニュ:この映画の面白いところは軽く始まって、複雑になっていくところさ。家族のお祝いの席がどんどん変な感じになっていく構成に、映画全体がなっているわけだよね。つまり、シーンが進行するごとにふたつのエフェクトがあると思うけれど、最初は夏らしい、娯楽作のような雰囲気で始まるが、次第に辛い苦い雰囲気になっていく。そこが面白い。

●映画監督志望のロマンという役でしたが、ご自身も映画監督をやられているなか、どういう風に受け止めて演じていたのでしょうか?

マケーニュ:彼はちょっと変な人でね。僕自身も家族をテーマにドキュメンタリーを撮ろうと思ったことがあるし、そういう部分では似ていることもあるかな。若い映画作家の日常は奇妙でおかしなものであり、映画のような感じだと思う。かなりコミカルな部分があるけれども、ほとんどのコミカルな部分は自分で模索したのではなくて、台本の中に存在していた。監督自身はコメントで、映画作家の役ということで、自分自身が演じているヴァンサンよりも、このロマンのほうに実像は近いと言っていたよ。

●監督はどうしてマケーニュさんに演じてほしかったのですか?

カーン監督:わたしに似た役と言ったのだが、彼のほうがわたしよりも演技が上手いので、彼にオファーをしたよ。自分に似たアーティストの役ではあるが、ひとつの映画の登場人物として確立させなければいけないし、彼は家族の中にいるキャリアが失敗したアーティストの役で、その役を演じるヴァンサンは役者としてポエジーがあり、ちょっとズレた感覚も持ちこんでくれるので、彼がいいと思った。それとロマンはこの映画の中で一番コメディー要素が強い役だけれども、わたしはそこまでコメディーが得意ではないので、やっぱりヴァンサンほうが適任だなと思ったのさ。

●ところでカトリーヌ・ドヌーヴさんは日本でも大変有名ですが、今回一緒にお仕事をされてみていかがでしたか?

マケーニュ:彼女はとても優しい人だった。あと面白い人だった。とてもファミリーな雰囲気を撮影現場にもたらしてくれた。シンプルで気取らない人でもある。

カーン監督:彼女はいわばわたしたちにとって、理想的な母だったと思う。まさしくフランス映画の母。こういう家族を守る母親の役を彼女が演じるということは、ある意味当たり前というか、すごくハーモニーがある撮影ができたと思います。すごくファミリー的な雰囲気を作ってくれた。

●個人的な思いの投影もあったと思いますが、映画化したことでよかったこと、何かプラスに思えたことはありましたか?

カーン監督:信頼するということを、この経験で深く知ったかな。技術チーム、演技チームに信頼して任すということ、各人の自立性を尊重するということ。そういうふたつの役割について学習した。オーケストラの指揮者のように各人のエネルギーを使うということを学習した。いつもの監督業も各人のエネルギーを使うということに変わりはないけれど、監督だけの時にはどこかコントロールしている部分もなきにしもあらずなわけで、でも今回演技のほうもやらなくていけなかったので、ある意味コントロールを捨て、人に任すということをした。でもそれによって各人の人間性を回収することができた。ある部分を捨てることによって、ある部分を得ることができた、そういう経験だった。

マケーニュ:この作品は楽しい経験でした。表層的にはライトだけれども、とてもコンプレックスな複雑な映画であり、撮影現場の雰囲気も夏のようなライトな雰囲気だったけれど、軽い雰囲気に留まらず、編集やテーマや構成で複雑な感じが出てる点は、気に入っているところ。フランス映画にはバカンスを舞台にしたコメディーがジャンルとしてあると思うけれど、でもそれに留まらない。編集はキモだと思うが、しゃべっている人の顔じゃなくて、聞いておる人の顔を映していたり、そういううことで複雑な感じが出ていて、とてもよいと思ったよ。

■タイトル: ハッピー・バースデー 家族のいる時間
■コピーライト表記: (C) Les Films du Worso
■配給:彩プロ/東京テアトル/STAR CHANNEL MOVIES
■公開表記:1月8日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー

ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo