どうも特殊犯罪アナリスト&裏社会ライターの丸野裕行です。
日本は何度も大災害に見舞われています。阪神大震災、熊本地震、東日本大震災、千葉県を襲った台風や水害など、その被害はいつも甚大です。
そんな中で頼りになるのが、皆さんが加入している損害保険。
もしものときのために、コツコツ、コツコツ支払い続けている保険金。何かがあったとき、その保険金はちゃんと支払われるのでしょうか?
今回話を聞けたのは、某損保のアジャスター(調査員)である内田真一氏(仮名/52歳/損害保険会社勤務歴21年)。彼が語る損害保険会社の払い渋りに関する真相とは……。
※本記事は取材に基づく内容となっています。本記事の内容は、一般的な損保会社の業務内容を示すものではありません。
<写真はすべてイメージです>
“異常危険準備金”すら切り崩す損保会社の内情
丸野(以下、丸)「保険金を払い渋るほど、損保会社の内情はひっ迫しているんですか?」
内田氏「表立っては言えませんが、16年前に観測史上最多の10個の台風が上陸したときは、本当にヤバかったですね。大手の損保会社が自然災害で被った損害額は、保険金支払額が2003年と比較すると13.2倍。なんと7639億円にものぼりました。そこで、“異常危険準備金”(※)を切り崩さないといけなくなりました。」※大規模災害などに見舞われた場合、保険金をちゃんと払えるように損害保険会社が保険料の収入から一定金額を積み立てていく資金制度のこと
丸「なるほど」
内田氏「そのあたりから、保険料がうなぎ上りに上昇していますね。でも、皆さん自分とは無関係とやっぱり思ってしまっている。ひと昔であれば、交通事故の代車費用が認められていたのに、いまでは保険会社設定している特約をつけなければならなくなっています。その頃から、高級車に乗るヤクザまがいの連中に対してでも一歩も引かないアジャスターが急増しましたね。“保険引き受け利益”と呼ばれる損保会社の本業の儲けが赤字続きになって、要するに本部から“払い渋りするように……”という通達が出はじめたわけです」
丸「そこから“払い渋り”が横行したはじめたわけですか……」
自然災害急増で、交通事故担当から火災保険担当へ
内田氏「僕も当時交通事故対応担当だったのですが、急遽、火災保険へ配置換えになりました。台風被害に遭った現場へ、ヤリ手の先輩と同行調査に出かけたのですが、被害状況を撮影するなと言われました。“屋根瓦がはがれているところは一切撮るな”と。“この程度のことで保険適用してれば、会社が潰れる。適当に写真撮影して、勝手に査定してしまうのが得策”とされていたわけですね」
丸「保険に入っている意味ないじゃないですか」
内田氏「まぁそういうことです。1軒、2軒とゼロ査定を繰り返して、避難生活を送っている老夫婦の家にたどり着くと、ズカズカと屋内に上がり込んで、いの一番にカーペットをめくり、柱の継ぎ目に漏水の形跡が……。いわゆる床上浸水だったんですが、先輩は超強力接着剤を取り出して、漏水部分を塞いでいきました。で、“床下浸水なんで、一切補償できないですね”と」
丸「ひどいな」
内田氏「老夫婦は“畳も湿った感じだし、家財道具も流されているし、そんな査定はおかしい!”と抗議してきたんですが、先輩は“その部分に関しての特約に入られていないので補償はできません。次回は漏れのないように加入してくださいね”と突き放しました。続けて老夫婦は“あんたは人間じゃない!”と詰め寄ってきたんですが、“では、弁護士を入れてお話しましょう”と。それから2週間被災地で調査を行いましたが、ゼロ査定の完封勝利です」
契約者の無知を突くのが保険屋の仕事
丸「訴えられたり、法廷闘争になったことはないんですか?」
内田氏「被災者にそんな余力は残っていませんよ。1週間後に地震の被災地に入ったときには、半損害と一部損害で破損箇所を最小金額で見積もることがテーマでした。それも本部からのお達しです。元々、地震大国の日本では、地震保険の条件が悪いんです。にもかかわらず、さらに払い渋りを行えば、補償金満額の数%程度がいいところなんですよ。そこでも、今にも崩れそうな屋根を見上げながら、先輩は“あ~、これは一部損ですね。保険額は5%しか出せませんね”と。最大震度がマグニチュード7だったにもかかわらず、常に5%。査定額は5%と気でも触れたように言い放つ毎日でした」
丸「よくそれで、話が決まりますね」
内田氏「相手が激昂しようものなら、“感情的になられるのであれば、裁判しましょう”と切り捨てます。先輩のやり方を未だに僕も守り続けていますよ。先輩は、もう上層部にまで出世しましたが、僕は相変わらず現場で、査定防御率0.1%を守っています。まぁ、契約者の無知を突くのが僕たち保険屋の仕事ですから……」
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損害保険料をキチンと納めているにもかかわらず、支払われない損害補償金。
傍若無人な振舞いの査定を行い続けている内田氏は、昨年に台風が千葉県を襲ったときも払い渋りを続けていたそうです。彼が何者かに後ろから刺されないことを祈ります。
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