ティッシュは2回使え!待機電力カット! 貧困ヤクザのやりすぎ節約術

  by 丸野裕行  Tags :  

どうも特殊犯罪アナリストの丸野裕行です。

最近はヤクザ稼業のシノギもままならない状態で、詐欺やタタキ(強盗)、泥棒、密猟などで生計を立てるヤクザが多いという。“貧困暴力団”などという言葉も生まれ、筆者自身もテレビ出演などでその実態について、話す機会が増えている。

そう、ヤクザになれば「左団扇でいい車に乗り、いい女を抱いて、高い酒を飲める」時代ではなくなったのだ。

今回は、そんな貧困ヤクザ組長の“異様な節約術”について綴っていきたいと思う。

※本記事は実際の取材に基づいて再構成しています

相次ぐトラブルで生活が困窮

オレの名前は、飯塚守(仮名/48歳)。ヤクザの世界に入ったキッカケは、やはりテレビに穴が開くほど観たVシネマに登場するカッコいいヤクザたちに憧れを持ったからだ。

哀川翔や竹内力、白竜、小沢仁志、寺島進など、仁義を切って活躍するその姿に、正直シビれまくった。

オレが『浪芳組(仮名)』の門を叩いたのは、今から29年前のこと。構成員6名の極小の組だったが、一本どっこで弾けまわるオヤジに惚れたのだ。しかし、喧嘩騒ぎばかり起こしてどこにも勤まらなかったオレが活躍する夢は儚くも果てた。

盃をもらってから、ほんの数年で暴対法が施行され、バブルも同時に崩壊。困難な状態が相次いで起こり、すぐに上層部への上納金に困窮するようになった。

組員全員が生活保護を受けたのはいいが、厚労省は暴力団員の生活保護受給を打ち切った。

しかしここまでの窮状に陥ると、さすがのオヤジも黙ってはいない。

「ごおら~! 暴力団員の生活保護は認めずってなんじゃコラ!! ワシの家族の10人分はどうなるんじゃ~!」

電話で役所の職員にがなり立てるオヤジ。一応、若い組員たちの手前、数十万のことで大騒ぎせんでください……。

観葉植物レンタルやおしぼり、みかじめ料など生き残った他のシノギもあるが、生活保護費も年間の額にすれば大きい。どうなるんやろ、一体。

それから数年が過ぎ、みかじめ料を払わない店が現れはじめ、どんどんと締め付けが強くなり、組の台所事情を圧迫した。

「飯塚ぁぁ~! ワシちょっと出かけてくるわ!」

オヤジは、なにか策があるようだ。オレは、勇んで出て行ったオヤジの背中を見送った。

なんとオヤジが手にしていたのは……

とある朝。

決意も新たに、組事務所に顔を出すと、デスクの上に古本が山積みに……。

そこに座って本に目を通すオヤジ。頷きながら手にしていたのは『100円で2品できちゃうおかずレシピ』『ご飯がすすむ節約レシピ』だった。な、なんなんや! どうしたオヤジ!

組員全員が揃ったのを見計らって、オヤジは怒鳴った。

「おまえら、今後は今立てた方針に沿って、仕事せぇよ! わかったか!」

「へえ!」

①トイレタンクに水入りペットボトルを沈める(水道代の節約)

②冷蔵庫内にビニールカーテンを垂らして、冷気を密封する

③光を増強するために蛍光灯の周りにアルミホイルを貼り付ける(電気代の節約)

オヤジ、まんま『主婦の知恵袋』やないですか! ヤクザがそんなことしてたら、おまんまの食い上げでっせ!

大家族番組の取材来てくれんかな

「おい、飯塚! テレビの大家族の紹介番組、取材に来てくれんかな? ワシんところ、ギョーサン子供いてるから……。ギャラもらえるやろ、やっぱりな

オヤジ、背中に夜叉の入った父親と子供たちの入浴シーンなんて絶対放送できるわけがない!

その日の晩、事務所で4ℓ入りの焼酎大五郎をチビリとやっていると、若い組員が組を足抜けしたいと言い出した。そりゃ当然の話や。

万札ではなく、サービス券でパンパンになった財布

次の日、オレはオヤジに進言した。とにかくこの苦境を打開するためには、新しいシノギを考えましょうと。

しかし、オヤジは聞く耳を持たない。財布の中からラーメン屋の黄色いスタンプカードを出して「これでメシを食ってこい。スタンプ溜まってるから、これでいけるはずや」と呟く始末。オヤジの財布は、サービス券などでパンパンになっていた。

節約の嵐が吹き荒れる

さらにオヤジは新しい節約規則を増やした。コンセントを抜いて待機電力をカット、組の車は急加速・急減速・アイドリングストップ、ティッシュは2回使う、小便の水は3回貯めて流す、トイレットペーパーは1回5センチなどなどもう止まることを知らない。

そんなある日、初めての脱落者を出してしまう。

「こんのう! ボケェ!!」

「どうしはったんですか、オヤジ?」

「こいつ、ティッシュは2回使えって言うてるのに、2枚使ってすぐ捨てよった!」

「もう俺、イヤです!」

若い組員が組を飛び出して行った。そいつが戻ってこなかったことは言うまでもない。

公園で水汲んだらタダや

結局、組員は3人になってしまい、「喧嘩(抗争)は金がかかるから禁止」「継承盃などの義理場には最低限祝い金を贈るだけ」など何もやることもなく、毎日古本ばかりを読み漁るヒマな日々を送っていた。

そこに、コンビニの立ち読みから帰ってきたオヤジが目を輝かせながら、全員に言い放った。

「おい、飯塚! 公園でペットボトルに水汲んできてくれ! 食器洗いに使おうや!」

オレは、そのときにインテリヤクザの別組織へのFAを決意した。

(C)写真AC

丸野裕行

丸野裕行(まるのひろゆき) 1976年京都生まれ。 小説家、脚本家、フリーライター、映画プロデューサー、株式会社オトコノアジト代表取締役。 作家として様々な書籍や雑誌に寄稿。発禁処分の著書『木屋町DARUMA』を遠藤憲一主演で映画化。 『アサヒ芸能』『実話ナックルズ』や『AsageiPlus』『日刊SPA』その他有名週刊誌、Web媒体で執筆。 『丸野裕行の裏ネタJournal』の公式ポータルサイト編集長。 文化人タレントとして、BSスカパー『ダラケseason14』、TBS『サンジャポ』、テレビ朝日『EXD44』『ワイドスクランブル』、テレビ東京『じっくり聞いタロウ』、AbemaTV『スピードワゴンのThe Night』、東京MX『5時に夢中!』などのテレビなどで活動。地元京都のコラム掲載誌『京都夜本』配布中! 執筆・テレビ出演・お仕事のご依頼は、丸野裕行公式サイト『裏ネタJournal』から↓ ↓ ↓

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