どうも、特殊犯罪アナリスト&裏社会ライターの丸野裕行です。
テレビ番組などを観ていると、世間を揺るがす芸能人の薬物使用事件や重大事件の裁判時に、必ず法廷内の被告の様子を活写した法廷イラストが出てくる。
この法廷イラスト、どんなイラストレーターが選ばれ、一体どのように描かれているのか、気になったことはないだろうか?
今回はこの法廷イラストが描かれる実態を綴っていきたいと思う。
傍聴席が少なく、法廷内では席の確保が難しい
日本の法廷内というのは、まず裁判中の写真を収めることができないと決まっているため、審理開始前の一瞬しか写真やビデオカメラを撮影することができない。
ということは、被告の顔などは一瞬たりとも撮ることができないわけだ。
ここで知りたいことは、注目されている被告がどんなものを着ていて、どんな雰囲気で、どんな表情をしていたかということ。その興味を満たすのが、イラストレーターの仕事というわけだ。
テレビでは視聴者の興味をそそろうと、審理記録をナレーターが実際にしゃべって聞かせ、バックに法廷イラストが収まっているパターンが多い。それでもこれだけで、かなりの臨場感を味わえる。
しかしイラストレーターを法廷内の傍聴席に座らせるのは、実は非常に難易度が高いことなのである。
大麻使用の罪状で逮捕された田口淳之介の公判では、わずか24席の一般傍聴席を求め、田口のファンたちが朝から地裁近くの日比谷公園に集結して長蛇の列をつくった。なんと、締め切り時間の午前11時までに並んだ人の数は1265人。倍率でいえば、約53倍だったというのだ。
イラストレーターが確実に傍聴席につけるカラクリ
傍聴席数が多い、少ないという法廷を選ぶのは裁判官の判断。その事件の重大性によって、傍聴席数は変わると言われているが、その半数が一般に開放される一般傍聴席。その半分が、事件の関係者と報道関係者に割り当てられる。判決を下す裁判官や裁判員裁判などの“裁判体”によって、その枠は事前協議で決まるそうだ。
取材は、新聞・テレビの報道各社が申請し、優先的に記者クラブ加盟社に席が割り当てられると、週刊現代は伝えている。
さらに言えば、一般開放の傍聴席についても、報道各社が人員を集める業者に依頼して、100~1,000名ほどのバイトスタッフを傍聴席確保に動員し、獲得する。ということは、報道枠と一般傍聴席のふた方向から攻める。
事件への好奇心だけでは、一般人に重大事案の裁判の傍聴席が回ってくるというのは皆無に近いということになるわけだ。
そんなカラクリがあるため、報道各社から依頼を受けたイラストレーターや法廷画家は、優先的に傍聴席を陣取れることになる。
報道各社が、イラストレーターを選ぶ基準とは
法廷イラストを描くには、似顔絵画家のように似せて書くうまさも必要なのだが、短時間で法廷スケッチをするために、そのスピードと正確に描くテクニックも持ち合わせていないといけない。
報道各社やテレビ局各社は、独自のオーディションを行って、「速筆かどうか」や「芸術性をもプラスして描けそうか」、「人間臭い描写も得意かどうか」などのポイントで採用を決める。
このオーディションに合格することができれば、最低限のギャランティーを受け取ることができ、新聞・テレビなどに自分が描いた法廷イラストが出ることになる。
そこから弁が立てば、フジテレビ系の報道番組やワイドショーに出演している法廷画家・石井克昌さんのように、活躍の場が広がるわけだ。
テープレコーダー使用は未だ厳禁
ちなみに、テープレコーダーを法廷内に持ち込むことはできず、裁判長や検事、弁護士、被告のやりとりや発言などは、すべて速記で行っている。
それを簡単な原稿にまとめたり、下手をするとそのまま生中継などで読み上げているのだが、なにせ速記のために字が乱れて、読みにくい。
「え~、あの~……」と言葉が詰まったり、原稿に目を近づけているのは、そのためだ。
ところで、なぜ速記は良くてテープレコーダーがダメなのだろうか。そのままの音声を外部に流されては、裁判所側はよろしくないと配慮しているのかもしれない。
まとめ
いかがだっただろうか? あまり知られていない、裁判報道の裏側や法廷イラストがどのように描かれているのかがこれでわかっていただけたかと思う。
イラストレーターとして、前述の法廷画家・石井さんのように一旗揚げたいのであれば、オーディションにチャレンジしたり、法廷画を報道各社へ持ち込むところから始めてみてはいかがだろうか。
(C)写真AC