ラスティングス・ミレッジという野球選手を皆さんはご存知でしょうか?
その風貌から黒い出川という異名を持ち、8月26日現在セリーグ打撃部門で、打率.305(3位)、ホームラン数19本(2位)、打点54(5位)と、多くの怪我人に苦しみながらもCS入りを目指すヤクルトスワローズの中核として活躍している選手です。
まずはその経歴からご紹介すると、父と兄もプロ野球経験者という野球一家に生まれ育ち、2002 年と2003年には2年連続で全米高校代表チームに選出されるなど、アマチュア時代から注目を浴びる選手でした。ニューヨークメッツから1巡目(全体12位)で指名され、そこから順調にマイナーリーグでキャリアを積み上げ2006年にはメジャー昇格を果たします。長距離砲ではないものの走攻守で高いレベルの技術を持ち合わせており、ベースボール・アメリカ誌の有望株リストで2004年版86位、2005年版11位、2006年版9位にランクされ、関係者からは「3割30本が可能なポテンシャルを持っている」「リーグを代表する5ツールプレイヤーにも成り得る」と高い評価を得ていました。
メジャー成績は通算433試合、打率.269本塁打33本OPS.723、2008年には138試合、打率.269本塁打14本OPS.732を記録しています。
ではなぜ、これほどまでの選手がNPBにやってきたのでしょうか。しかも年俸は4500万円+出来高と、かなりのお買い得。その一番の原因は素行不良であったことが挙げられます。
高校時代に不純異性交遊で放校となり、メッツ時代は友人の歌手と共に放送禁止用語満載のCDを発表した他、メッツ時代にベテランから叱責を受けた際、退団後にそのベテラン達に対しての悪口を言って問題になりました。
そういった経緯もあり、ヤクルトスワローズが獲得を発表した際のファンの反応は冷ややかで、いずれ問題を起こして帰国するであろうという意見が大半を占めていました。
そもそも、過去に5ツールプレイヤーという触れ込みで来日した選手の多くが、器用貧乏な選手が多かったため、守備や走塁面に期待していたファンは、それほど多くなくキャンプでは肩の弱さも指摘されていました。
しかしながら、往年の名選手クロマティを彷彿とさせる極端なクラウチングスタイルのフォームに、どことなく期待しているファンもおり、世間の注目が巨人の新外国人ボウカーに向けられる中、気になる存在にはなっていました。4月18日阪神タイガース戦の9回裏ヤクルト1点リードの場面でのこと、桧山が放ったレフトへのファールフライをフェンスに激突しながら一旦は捕球するものの落球。その際、芝生をたたいて悔しがり、その姿がテレビ画面にも大きく映し出されました。
それまで、バッティングでは対応できていなかったミレッジではありましたが、このプレイによってファンからの信頼を揺ぎ無いものにしました。
3月4月打率.261、本塁打3本、OPS.778
5月打率.241、本塁打4本、OPS.712
6月打率.308、本塁打1本、OPS.735
7月打率.368、本塁打5本、OPS1.026
8月打率.349、本塁打6本、OPS1.064
開幕当初から交流戦にかけては、決して本調子とはいえない状況でしたが、守備や走塁面での貢献度などを加味すれば欠かすことのできない存在になっていたことに違いはありません。これまでストライク判定をめぐって退場処分が2度ありましたが、いずれも同情に値するものであり、その後も切れることなく全力プレイを見せてくれました。交流戦が明けてから1番への打順の変更やオープンスタンスに切り替えたことが功を奏したのか、大方の予想通り完全に適応したといっても間違いはなさそうです。
■選手としての魅力
キャンプ時に懸念されていた肩の弱さはなりを潜め、随所で強肩を披露しています。走塁面でも阪神戦や横浜線で見せた相手守備陣の裏を欠くようなプレイなど、印象的で得点機会に繋がるプレイを数多くしています。盗塁成功率こそ53.3%と決して高くはないのですが、紛れもなくメジャーの5ツールプレイヤーといえるプレイを随所で披露しています。そして選手としての完成度の高さは、データとしても現れています。
中日打率.306、本塁打6、OPS.995
巨人打率.333、本塁打3、OPS.967
阪神打率.333、本塁打1、OPS.820
広島打率.304、本塁打3、OPS.896
横浜打率.292、本塁打2、OPS.774
対右打率.304、打数349、本塁打13、OPS.846
対左打率.291、打数118、本塁打6、OPS.857
このように苦手な球団や左投手に対する苦手意識もなく、いかなる環境においても平均を遥かに上回る高いポテンシャルを発揮できる選手であるといえます。
過去10打席以上の対戦がある選手
内海(巨)打率.313
沢村(巨)打率.333
吉見(中)打率.400
中田(中)打率.400
能美(神)打率.286
久保(神)打率.111
メッセンジャー(神).364
安藤(神)打率.444
三浦(横)打率.300
小林大志(横)打率.125
野村(広)打率.308
前田(広)打率.273
各球団のエース級から、よく打っており、10打席未満だと杉内(巨).500や岩田(中).250(本塁打2本)がいます。このような結果から、おそらく他球団のファンからすれば、相当打たれているイメージがあるのではないでしょうか。
一見すると、弱点のない選手に見えますが意外な弱点もあります。
打順3番打率.254(189-48) 本塁打7本
打順1番打率.354(209-74) 本塁打12本
ケースバッティングを意識すると考えすぎてしまう傾向にあるようで、4月には絶不調の4番畠山の前で送りバントをするといったプレイも見られました。そういったことからチャンスに弱い選手という印象を持ちますが
打順3番得点圏打率.224
打順1番得点圏打率.394
実際のところ良くわかりません。
これ以外にも、本職のレフト以外の守備に就くと打撃にも影響が出てしまうといった特徴も持っています。
主砲のバレンティンが怪我で戦列を離れていることもあり、首脳陣としては一発のあるミレッジを3番センターで起用したいところですが、前述の通りポテンシャルに大きな違いが生まれてしまいます。時折起用法を変えてみてはみるものの思うような結果が出ず、それでも3番をあきらめない首脳陣に対してファンからは
「隙あらばセンター」
「隙あらば3番」
といった声も聞かれます。
■人柄の魅力
選手としての特徴も去ることながら、その真面目な人柄についても注目が集まっています。ヤクルトスワローズのスカウトが優秀であることは、野球ファンならば誰でも知っていますが、冒頭の問題児としての印象があるため、他球団のスカウトからは獲得を疑問視する声も聞かれたそうです。しかし、格下のリーグでも手を抜いてプレイする素振りもなく、むしろ一生懸命プレイをしていたため、獲得に踏み切ったそうです。その際ミレッジからは
「今いるチームに必要とされているから、まだ離れられない、もう少し待ってほしい」
「取ってくれてありがとう、あなたに恥をかかせない」
と言った言葉があったそうです。野球エリートとして華やかなデビューを飾ったものの2度の戦力外通告を味わい昨年DFAとなり、結果的には行き場を失ったかたちでNPBに来た選手。しかしここでも腐らず相手投手ごとに細かなデータをノートにまとめ、全力プレイとホームラン後の独特のパフォーマンスでファンやベンチを沸かせる姿は、チームリーダーの雰囲気さえ漂わせています。
明るい姿とは裏腹に、実は繊細な性格の持ち主で、メジャー時代にはグラウンド外で起こしたトラブルにも関わらず地元メディアに叩かれたことを、今でも気にしていたり、球場でのキツイ野次に耐えかねて耳栓をしてプレイしたこともあったそうです。一流のプレイを日々目の当たりにしている日本のファンにとってみれば、それもどこ吹く風、ロマン溢れる選手であることに代わりはありません。まだ27歳、ずっとヤクルトで見たい気もしますが、メジャーでプレイする姿も見てみたい気持ちもあります。
最後に、もし本人にひとつだけ話が聞けるならば
「ベンチで畠山と、どんな会話してるの?????」
これが気になって安眠できないファンも多いのではないでしょうか。
画像: from flikcr YAHOO!
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