斎藤工&永野“逆転の発想の勝利”とは「いくつかの映画会社に断られたことがヒントになった」映画『MANRIKI』インタビュー

  by ときたたかし  Tags :  

孤高の芸人・永野、斎藤工、金子ノブアキ、清水康彦を主要メンバーとする「チーム 万力」が製作したブラックコメディー映画『MANRIKI』が公開中です。永野さんが22年間地下ライブで温め続けたコント群を脚本化、それを元に斎藤工さんがプロデュース・主演を務め、音楽監督を金子ノブアキさん、清水康彦さんが⻑編初監督を務めた意欲作に。その内容は永野さんの芸風をそのまま映像化したような毒素に満ちたもので、斎藤工さんをはじめ、数々の才人たちが、どこに共鳴したのか気になりますよね。ということで、お話をお聞きました。

●かなり永野さんの毒素が出ている作品だと受け止めましたが、この時代、映画化までの道のりは大変だったのではないでしょうか?

永野:そうですね。ファッション雑誌のイベントで小顔矯正をしている人を見かけて、万力でしめたらいいみたいな話を斎藤君に話して、「面白いですね!」で始まったのですが、アイデアが浮かんで喜んでいましたけど、誰にも受け入れられなかったですよね。映画として。

斎藤:映画会社に当たったのですが、「担当者個人としては応援するけれど、会社としては無理」みたいな(笑)。最初から国外に目が向いていました。三池さんや園さんの作品みたいに、海外の人が絶対盛り上がるだろうと、そういう謎の確信みたいなものが生まれ始めて、時間はかかりましたけど、本当に思いどおりのものができたと思っています。

●実際、いい感想ばかりです。

斎藤:悪い評判は聞かないですよね。いくつかの会社に断られたことが僕の中でヒントになって、要は作れないわけじゃないですか、タブーじゃないけれど。ほかがやらないってことは大きいと思い、何をすべきか、それを考えて進めました。

永野:いまウケている日本映画に近づいても何の意味もないと思ったので、普段の気持ちのままで作ったものの、よく完成したなとは思いました(笑)。ここまで自由にやれるとは、実は思っていなかった。まあ言いにくい圧は出していたとは思いますけど(笑)。

●専制的なやり方で進めたのですか?

永野:いえいえ、それが現場ではみんなエゴ丸出してやってたんで、それは気持ちよかったですね。まあ、わがままですよみんな(笑)。プライド高く、譲らない感じで。だから、気は使わなかったです。

●おかげで、どこにもないような作品になりましたね。

永野:観ていてウゲーとなる人もいると思いますが、ビジュアルではなく、内面的なものでね。そこに自分を見ちゃうのでウゲーとなる。もともとの永野の成分も出ちゃってると思うので、吐きまくりなのかなと。

●今後、おふたりはどういう方向に向かいたいのですか?

斎藤:もともと永野さんの作るネタは大衆に向かっていなくて、個室で個人的に言われているようなネタが多いんですよ。でも、映画ってそういうものだと僕は思っていて、『アベンジャーズ』にしたって描かれていることは個人的なこと。その超個人的なことを、地球の裏側の人まで共有できる映画だと思うんです。だからといって日本の観客の目線を無視しているわけじゃないですが、プチョンみたいに永野さんと僕が知られていないような場所で、どう評価されるかということを常に考えているし、そういうところでしっかりと戦えるエッセンスが永野さんにはあるので、今後は僕以外の人たちと展開して、スティーヴン・キングみたいになると思う(笑)。

永野:なりたい!

斎藤:ネタを見た時になんだかわからないけれど、心をわしづかみにされている自分がいたんですよね。だから、僕は映画少年の自分の目線として、この人の世界は間違いないという確証は、ずっとありました。僕らの名前で見られているところはあると思いますが、それをも利用して、作品至上主義でこれからもご一緒できたらたいいなと思います。夢があるんですよ。夢を一緒に観たい才能というか、わくわくしますよ。

永野:わくわくさせてよ!

●中山美穂!

永野:通じるんですよね(笑)。やっと会えたね。やっと会えたねじゃねえですよ! 怖いっしょ、言われたら人に。でもやっぱり内面を見つめて、見つめすぎてゲロが出たような作品なんで、だから奇をてらって映画を作っててもバレるし、内面を見つめて正直に作ったネタなんです。それはもう自分のネタもそうですけど、そこを見つめるエグさに長けてるだけなんですよね。この方法論ならいつまででもいけますよ。一般的なモノを無視する力に長けているだけで。

斎藤:永野さんは、ウッディ・アレンっぽいかもしれないですね。彼、初期は自分で演じていたけれど、途中から自分に似た性質の俳優に託すようになった。僕は今回、永野さんを演じたことは、もしかするとそれに近いことじゃないかって感じはしました(笑)。

永野:いま話聞いて、そうかなってところはありますね(笑)!

■ストーリー
日本。秩序と混沌の国。美と醜の国。過度な経済成⻑で得た豊かさの代償として、国⺠は様々なコンプレックスを抱えている。醜きを覆い隠し、美しきことのように振る舞う。奥ゆかしさとも言えるその性は、この国の 様式美そのものなのだ。
整形しているモデルの方が仕事が多い。駆け出しのファッションモデルが仕事欲しさに小顔矯正を決意。美容クリニックを営む美しき整顔師に小顔矯正施術を依頼し、モデルは変身を遂げる。整顔師の猟奇的哲学と万力によって・・・。のちに整顔師はクリニックを去り、新たな野望の地へ向かう。場末の街で美人局をするフーテンと年増。彼らと整顔師が突如遭遇することにより、物語は加速してゆく。
光と闇。主観と客観。偽善と必要悪。美と醜。我々は、万力の間で暴かれる。
世は、人は、すでに醜く美しい。

映画『MANRIKI』
製作:株式会社イースト・ファクトリー
監督:清水康彦
出演:斎藤工、永野、金子ノブアキ、小池樹里杏、SWAY、神野三鈴 ほか
2019年/日本
配給:HIGH BROW CINEMA / 東映ビデオ
映倫区分:R-15
(C) 2019 MANRIKI Film Partners
公式サイト:crush-them-manriki.com

ときたたかし

映画とディズニー・パークスが専門のフリーライター。「映画生活(現:ぴあ映画生活)」の初代編集長を経て、現在は年間延べ250人ほどの俳優・監督へのインタビューと、世界のディズニーリゾートを追いかける日々。主な出演作として故・水野晴郎氏がライフワークとしていた反戦娯楽作『シベリア超特急5』(05)(本人役、“大滝功”名義でクレジット)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)など。instagram→@takashi.tokita_tokyo