恐怖!「ヤクザの慰安旅行に同行したツアーコンダクター」に話を聞いてみた

  by 丸野裕行  Tags :  

四季を通じて、旅行を愉しむ日本人。全国各地の観光地の絶景や心の安らぎを求め、ひとときの休息に身をゆだねます。

しかしながら、すべてがすべて、お行儀のよいお客様とは限りません。

今回は、小さな旅行会社でツアーコンダクターをしている市毛久司さん(仮名/47歳/現役添乗員)が経験した「ヤクザの慰安旅行」についてのお話を聞いてみました。

場所は、多くの旅行客を魅了してくれる小京都・石川県金沢市。風情がのぞくこの街へ、スネに傷持つ40人の男たちが乗り込みます……。

旅行会社は客を選んでいられない

丸野(以下、丸)「はじめまして、よろしくお願いします。どういった経緯で、ツアーコンダクターになったんですか?」

市毛さん「平成15年の春に大学を卒業しまして、僕は『Kツーリスト(仮名)』という社員数20人にも満たない小さな旅行会社に入社しました。それから添乗員として即スタートしたんですが、大変なんですよ。事前準備や打ち合わせ、確認業務とか準備なんかが。とりあえず、体で覚えて、新人として初添乗も果たしました」

丸「ほほう」

市毛さん「ベテランになると、絶対にお客を呼べる旅行プランも企画するようになります。なにしろ弱小旅行代理店なので……」

丸「絶対にお客さんを呼べるプランですか、難しそうですね」

市毛さん「それなりにツアーをヒットさせた矢先に、上司である統括本部に呼び出されました。女子スタッフが企画したプランに、とんでもないお客がやってきたと」

丸「あ、ヤな予感ですね」

市毛さん「1泊2日のバス旅行で、観光バスを止めた待ち合わせの新大阪駅に向かうと、40人のヤクザが集結していました

(※写真はすべてイメージです)

丸「あっちゃ~」

ただならぬ雰囲気を醸し出す異様な一団

市毛さん「マイクロバスの運転手さんと目を丸くしました。ゼブラ模様のブルゾンや昔懐かしいヨーランのように長いジャケット、犬のイラストが入っているジャージなんかの出で立ち。金無垢の時計が陽の光を反射させて、めちゃくちゃコワいんです。ケータイ片手にガナりたてている人も居ました」

丸「ヤバい、ヤバい」

市毛さん「中には、顔面の中心が割れてムリにくっついたような顔をした身長2メートル近い大男や独眼竜正宗のような眼帯をした男、指がほとんどないドラえもん男とか、驚くメンツばかりで……

丸「うわわわわぁぁぁぁ~」

市毛さん「“『大井興業(仮名)』さんですか?”という声をかけると、“ぞぉや…ぞや…。待っどっだでぇ…(そやそや、待ってたでぇ!)”と一番年嵩と思われる男が聞きづならガラガラ声で答えました。で、“え、えぇ? な、何ですか?”と聞き返すや、周囲の男たちが色めき立ったのがわかりました。後で知ったのですが、どうもこのオジキと呼ばれる方は25歳の時にノドを刺されて、声が出ないらしいんです。その話を聞いた時には(自分のふるまいを思い出して)、本当にその場で卒倒しそうになりました」

丸「うわうわうわぁぁ」

東尋坊の風景と陶器の絵付け体験に大興奮

市毛さん「ここからは地獄のはじまりです。全員をバスに誘導して、朝の挨拶と自己紹介、行程説明、ツアーの注意事項、車内の注意事項、運転手の紹介をしたんですが、もう早速車内はいきなりの酒盛り状態です。親分さんが乗っていたので、後ろからボディガードが乗り込んだ黒塗りのバンがピッタリとくっついてくるし……。“なんで、男のバスガイドなんや、ボケぇ!!”とののしられ続けましたね。僕の話はまったく聞かれることはなく、みなさん真珠がどうだとかシャブローションがどうだの、猥談に花が咲いていました」

丸「それからはどうなったんですか?」

市毛さん「恐る恐るガイドを続けたんですが、7回ほど『網走番外地』のカラオケを聞き、リクエストが多かった『山口組三代目』のビデオ上映会を経て、まず福井に到着。とりあえず自殺の名所でもある東尋坊へ向かうと、みなさん“俺たちは生かされていて、ありがたい”と感慨深い様子でした。鬼みたいな顔しているのに、みんなで近くの“いのちの電話”の公衆電話機の上に小銭を置いていました。その違和感ときたら……

丸「そうですね……」

市毛さん「昼食のあとにむかったのは、加賀の伝統工芸を体験できる施設でした。でも、みなさん、非常にまじめにやっておられて驚きましたね。みなさん、刑務所の中で、工芸品づくりなどで、絵の勉強などをされていたようでした。添乗員は観光地ではカメラマンにも変身します。美しいヤクザ者の絵と真剣な表情を僕は写真に収めました」

地獄の宴がついにはじまった!

市毛さん「17時、やっと金沢の山中温泉に到着しました。到着までにマーカーで印をつけて見やすくした散策マップを配って説明し、ヤクザたちは各自で散策に出かけました。みなさん、おいしいと評判の酒まんじゅうの列に並んだり、小さなカニさんキーホルダーを購入してみたり、一様に楽しんでくれているようでしたね。この頃には、感謝されるようになっていました。ありがとう、と。でも、ここで揉め事になったのが、宴会の席順でした」

丸「うるさいですからね、そういうところで」

市毛さん「“なんで、岩田のオヤジが下座になっとるんじゃ!! オヤジは本部長やぞ!!”とか。コンパニオン50名をあげての大宴会なのですが、そのあとに決定的な騒動が……。あれだけ、仲良く旅行をしていたのに、内紛の火種があったようで……」

丸「あ~あ……」

市毛さん「いきなり“あの件で話つけて、組売ろうと思ってるんちゃうやろな!!”とか“オヤジはモウロクしてるんと違うやろな!”とか“ぶち殺す!”とかそこいらで内部抗争が勃発してしまいました。おかげで、温泉旅館の備品や部屋を破壊。さらに、コンパニオンとそのまま裸になって折り重なっている刺青の組員とか、もう地獄です

丸「その状況、ヤバくないですか?」

市毛さん「ヤバいので、僕は後で叱られる覚悟で、旅館を逃げ出しましたね。でも出口では、何かあったときにすぐに動けるようになのか、地元のヤクザ者が待ち構えていまして……。本当に生きた心地がしませんでしたね……」

市毛さんの話では、恐怖の宴会の翌日には、ふれあい農園で“栗拾い&栗食べ放題”のイベントがあったらしいのですが、いち早く大阪へ戻ったとのこと。バスが昨晩の地元ヤクザたちに尾行(つ)けられていないかどうか、新大阪に到着するまで、終始ピリピリとした空気に包まれていたそうです。

「その旅行以来、そこまでヒドい目に遭ったツアーはなかった」と、市毛さんは話を終えました。僕なら、絶対にお断りです。

(C)写真AC

丸野裕行

丸野裕行(まるのひろゆき) 1976年京都生まれ。 小説家、脚本家、フリーライター、映画プロデューサー、株式会社オトコノアジト代表取締役。 作家として様々な書籍や雑誌に寄稿。発禁処分の著書『木屋町DARUMA』を遠藤憲一主演で映画化。 『アサヒ芸能』『実話ナックルズ』や『AsageiPlus』『日刊SPA』その他有名週刊誌、Web媒体で執筆。 『丸野裕行の裏ネタJournal』の公式ポータルサイト編集長。 文化人タレントとして、BSスカパー『ダラケseason14』、TBS『サンジャポ』、テレビ朝日『EXD44』『ワイドスクランブル』、テレビ東京『じっくり聞いタロウ』、AbemaTV『スピードワゴンのThe Night』、東京MX『5時に夢中!』などのテレビなどで活動。地元京都のコラム掲載誌『京都夜本』配布中! 執筆・テレビ出演・お仕事のご依頼は、丸野裕行公式サイト『裏ネタJournal』から↓ ↓ ↓

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