裏社会インタビュー:「強盗犯と白昼の5時間を過ごした主婦」に話を聞いてみた

  by 丸野裕行  Tags :  

どうもどうも、特殊犯罪アナリスト&裏社会ライターの丸野裕行です。

最近では、日本も治安が悪化して、私たちの普段の生活が突然危険にさらされる可能性が高まっています。

犯罪情勢を毎年警視庁が発表する『警察白書』の調べでは、日本全国で起こったコンビニ強盗の数は平成28年には、2332件近く発生し、相変わらず短絡的な犯行を重ねる強盗犯が多いと言えます。

今回話を聞いたのは、コンビ二強盗の犯人が自宅に逃げ込み、恐怖の5時間を過ごした主婦の中川明子さん(仮名/32歳)。年上の旦那さんと6歳になる娘さんと慎ましやかに暮らす幸せな専業主婦の方です。

彼女自身「今思い出しても足の震えが止まらない」という、当時の恐怖を語ってもらいました。

静かにすれば殺しはしない

丸野(以下、丸)「それはいつぐらいのお話ですか?」

中川さん「5年前に賃貸物件の一軒家に住んでいたときのことですね。私はいつもと変わらずに、夫と娘に朝食を作り、会社と小学校に送り出した朝のことでした。ちょうど、お掃除をしようとして、窓を全開にしていたときですね」

丸「気を抜いている時間ですよね」

中川さん「ええ。日本に住んでいる以上は、そこまでの危険が迫ってこないだろうという気持ちがあんな事態を呼び込んでしまったんです。ちょうど、午前10時頃に、洗濯物を干すために中庭に出ると、干し台のそばに人影があったんです。つっ立っているのは男。細面で頬がこけ、黒いスエットを着ていました。よくみると、手に包丁を握っていました。さすがに、私は恐怖のあまり、その場で固まってしまいましたね」

丸「そりゃそうでしょう」

中川さん「その男は“奥さん、静かにしてたら殺さへんさかいに……”と言って、部屋の中に入ってきたんです。されるがままの私は、中に入り、ガラス戸を閉めました。それで、男は“他に誰もおらんのんか、え?”と。はい、と答えると、男は“ワシ、そこのコンビニ襲ってきたんや。強盗や。ほとぼりが冷めるまでここにおらせてもらうで”と」

恐怖の5時間がはじまる

丸「“強盗”という言葉に卒倒しそうになったでしょう」

中川さん「はい、本当に。それから5時間、男は警察の追っ手が遠のくまで、私の自宅で過ごすことになったんです。男は、私に家事の続きをやめるように命令して、ソファで対面に座るように指示しました。テレビなど音が鳴るものは全部消して、じっと座っていました。それからは、子供の年齢、夫の仕事のことなどを聞かれました。答えたくないことは答えませんでした。それが私のできる唯一の抵抗です

丸「ふてぶてしいですね、盗人のクセに

中川さん「1時間くらい経った後に、男は“腹が減った”と言い出して、仕方なく、冷蔵庫の残り物で手早くチャーハンを作りました。男は“ピーマンが嫌いだから、ピーマン入れんといて”と言いました。信じられないことに、男は食事中にオナラばかりするんです。それで、大きな音が鳴るたびに、私が驚いて怯えるので、男はそれをみると喜んでいました

丸「むかつくヤツですね~」

中川さん「本当に殺意が芽生えましたね、あのときは。そのときです、表で拡声器を通した人の声がしました。警察が巡回しながら、住民に注意喚起をしているんです。“○○町の住民の皆さん、2時間前、コンビニ強盗事件が発生しました。包丁を所持した犯人はこの近隣に潜んでいる可能性が高く、必ず家の鍵を閉め、外出を控えてください”と」

丸「もう遅いって」

中川さん「警察は、強盗がこの地区のどこかに潜んでいることをつかんでいる様子でした。男の顔色が変わり、“おい、こっちこい!”と怒鳴り声をあげました。スプーンを包丁に持ちかえて、私を引き寄せたんです。

丸「怖っ!」

ぬいぐるみに隠した刃物が娘に……

中川さん「リビングで、2人とも押し黙ったまま、午後1時を迎えました。3時間が経過しています。その時間になると、給食を食べた小学1年生の娘が帰ってくる時間。最悪の事態です。案の定、ランドセルを背負った娘が元気な声で帰ってきました

丸「うわっ!」

中川さん「娘は“このおっちゃん、だれぇ?”と男に駆け寄ります。チャック付きのぬいぐるみに包丁を隠した男は、お母さんの親戚だと言って、“遊ぼうか”と娘と遊びはじめました。私が、男と遊ぶ娘を見て、ヤキモキしていると、インターフォンが……。カメラを覗くと、そこには警察官が1人立っていました

丸「え~、どうなったんですか!!」

中川さん「警察官がインターフォン越しに“すいません、コンビに強盗の犯人が逃走しているので、何か変わったことはありませんか?”といい、玄関先に出てきてほしいと言われました。で、男が私の耳元で囁いたのは、こんな言葉でした。“わかっとるやろな。顔が切り刻まれるの見たないやろ、アカデミー賞もんの芝居、頼むで”と」

丸「腹立ちますね、ホント」

中川さん「娘が人質になったからには、仕方がないので、“変わったことはないですね~、ご苦労様!”と警察官をうまくあしらい、帰しました。男は高笑いをして、“名演技や、気に入った!”と言い出したので、さすがに恐怖と緊張に糸が切れ、“アンタ、ええ加減にしいや! アンタみたいなカスににやられるぐらいやったら、私が娘やるわ! 警察には言わへんから、はよ出てけ!!”と」

丸「大丈夫だったんですか?!」

中川さん「強く言われると弱いタイプなんでしょうね。男は所在なさげな目でオロオロしはじめて、淋しそうに家を出ていきました

丸「男を送り出したのは“母は強し”の言葉だったわけですね」

中川さんが男の姿を再び見かけたのは、5ヵ月後のニュース。連続コンビニ強盗として、現行犯逮捕されたそうです。
その後は、警察は余罪を追及しているとのことでした。

彼女は、「自分の家に男が立てこもったことを警察に告げる勇気はない」と言います。

(C)写真AC

丸野裕行

丸野裕行(まるのひろゆき) 1976年京都生まれ。 小説家、脚本家、フリーライター、映画プロデューサー、株式会社オトコノアジト代表取締役。 作家として様々な書籍や雑誌に寄稿。発禁処分の著書『木屋町DARUMA』を遠藤憲一主演で映画化。 『アサヒ芸能』『実話ナックルズ』や『AsageiPlus』『日刊SPA』その他有名週刊誌、Web媒体で執筆。 『丸野裕行の裏ネタJournal』の公式ポータルサイト編集長。 文化人タレントとして、BSスカパー『ダラケseason14』、TBS『サンジャポ』、テレビ朝日『EXD44』『ワイドスクランブル』、テレビ東京『じっくり聞いタロウ』、AbemaTV『スピードワゴンのThe Night』、東京MX『5時に夢中!』などのテレビなどで活動。地元京都のコラム掲載誌『京都夜本』配布中! 執筆・テレビ出演・お仕事のご依頼は、丸野裕行公式サイト『裏ネタJournal』から↓ ↓ ↓

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