裏社会インタビュー:「ヤクザ御用達病院の医師」に話を聞いてみた

どうもどうも特殊犯罪アナリストの丸野裕行です。

裏社会ライターなんて商売をやっておりますと、特殊なお仕事をされている人々と知り合う機会が多くなります。

以前、雑誌のインタビューで知り合ったのは、暴力団対策法(※暴力団員の行う暴力的要求行為について必要な規制を行う法律)施行以前の“ヤクザ御用達病院”に勤務していたというH氏(60歳)。

患者の大多数がヤクザだったという名の知られていない中規模病院。一般の病院では治療は行わない法律に触れる処置や通報義務がある手術を行い、無保険で利益をあげていたそうなのです。

その病院ではどのような治療が行われていたのか、どんな出来事が起こっていたのか、を聞いてみました。

好条件すぎる病院

丸野(以下、丸)「その病院に入られた時期とキッカケを教えてください」

H氏「僕が『T総合病院』に外科医として勤務したのは、昭和62年の25歳のときでしたね。その頃はまさに病院や医療施設の数が飽和していた頃で、就職先には困りませんした。売り手市場のときに、病院の理事長に呼ばれたんです」

「ほほう」

H氏「破格の給料がもらえたので、僕も開業する資金を貯めるためにそこに決めました。当時の医師は年齢38歳にもなると、平均月収が80万にもなるんです。でも、『T総合病院』は100万以上。条件がいいわけですよ。ボーナスを含めると年収1,000万を超えることもあります。医療品・製薬品会社とのコネを持つこともできますしね」

「そんなに稼げる病院なら断る理由がないですね」

雰囲気がおかしすぎる

H氏「はい。で、勇んで病院に向かったんですが雰囲気がなんだかおかしい。ベッド数300床。職員数250名程度の中規模病院。大きく開けた正面玄関前へむかったとき、そこには黒塗りで大型のベンツが3台も連なっていました。“ご退院、おめでとうございます!!”と、黒いスーツの男たちが挨拶しているし、ホテルのスイートルームみたいな“特別室”があったり、変なんですよ」

「談笑して時間を潰している老人の集まりとか、風邪ひきの子供を抱えた母親なんかはいないんですか?」

H氏「ありふれた病院の風景はもちろんありますが、入院患者の質が極端に悪いんですよ。ポケベルの音がいたるところから鳴り響いて、電話に向かってがなっている男もいるしね。見舞客も異質です。金のアクセサリーをジャラジャラと付け、髪型はパンチパーマかオールバック。もうその筋の人にしか見えない

ひょっとしてヤクザが多いのか、と思われたわけですね

H氏「怒鳴り声も聞こえるし、外科の新任というだけで“先生、先生”とちやほや大事にされる。外科手術が多いのが彼らの業界ですから……。ちなみに『T総合病院』は、看護婦の入れ代わりが激しかったです。そうすると、決定的な事件が起こりました」

エンコ詰めの組員が担ぎ込まれる

H氏「ヤクザ御用達病院だと確信したのは、勤務2日目でした。当直ではない深夜に緊急呼び出し。深夜2時に病院に急行すると、ジャージ姿の若い男が左手を押さえて、ストレッチャーの上でのた打ち回っていたんです。男は、幹部の情婦に手を出して、ノミで指を詰めさせられたらしい。断面は暴れていたためにグチャグチャでした。神経接合できるかどうかだったんですが、落とした指は勢いよく吹っ飛んで、組員総出で捜索中だそうでした

「あんまり、時間が経つと組織が死んじゃいますからね」

H氏「結局、間違って落とした小指は見つからずに、後日、先輩と一緒に足の指を使って復元しました。ちなみに行方不明だった指は、年末の大掃除のときに埃まみれで干からびて見つかったそうです」

「また、ディープな裏話ですね」

H氏「まぁヤクザが元気だった頃で、こういうことは日常茶飯事でした。毎日の緊急オペ。ヤッパ(※短刀)で刺されたり、拳銃で撃たれたチンピラもやってきます。病院に勤めだして半年も経つと、ヤクザの扱いに慣れました。抗争が起これば、まさに野戦病院と化すでしょうね。口調もヤクザに負けないほど荒くなってやり合ってましたね

「なるほど」

謝礼金が別でもらえる

 
H氏「患者の中には、僕みたいな若い医師に土下座して礼を言ったり、涙ぐんで忠誠を誓ってくれたり……人間らしいですよ、古臭い、義理人情の……。あと、やっぱりうま味があるのが謝礼金ですね。命を救ったときなんかは、親分から200ほどの金を包んできますしね。臨床回数が増え、手術の腕が上がり、さらに金もついてくる」

「美味しいお仕事ですね」

H氏「もちろんやっていることは、警察への通報義務違反。発覚すれば業務停止というレベルの話ではなくなります。しかし、病院を経営している医療法人の理事長は広域指定暴力団との癒着で病院を大きくしたらしいのです。暴力団とつながっているので、観葉植物や絵画、リネン、玄関マット、メンテナンス会社、清掃会社などすべてがフロント企業のレンタル品でした」

あの人のアレ、切り落としてください!

H氏「カタギになるヤクザの刺青を消す施術なんかもやりましたね、豚の皮を使って。病院内で、賭場が立ったり、院内売春などもひっそりと行われているようでした。部屋での月寄り(月1度の定例会)や病室での祝い事、盃ごとまでやってしまう事務所代わりにもなっていました」

「それ、すごいな。先生困ったことなんてありませんでしたか?」

H氏「困ったことだらけでしたが、“浮気性のダンナのアレを切り落としてくれ!”と奥さんから大金を積まれたときは困りましたね。その他には、跡目争いで次の代を継ぐ幹部から“オヤジの死期を早めることはできんか?”と聞かれたときです」

いかがでしたか?
現在開業医として活躍されているH氏。ヤクザ全盛期を支えた人物ですが、もうヤクザとは付き合いはないとのこと。ギラギラした時代の話は、Vシネマの中だけになってしまいました。

(C)写真AC

丸野裕行

丸野裕行(まるのひろゆき) 1976年京都生まれ。 小説家、脚本家、フリーライター、映画プロデューサー、株式会社オトコノアジト代表取締役。 作家として様々な書籍や雑誌に寄稿。発禁処分の著書『木屋町DARUMA』を遠藤憲一主演で映画化。 『アサヒ芸能』『実話ナックルズ』や『AsageiPlus』『日刊SPA』その他有名週刊誌、Web媒体で執筆。 『丸野裕行の裏ネタJournal』の公式ポータルサイト編集長。 文化人タレントとして、BSスカパー『ダラケseason14』、TBS『サンジャポ』、テレビ朝日『EXD44』『ワイドスクランブル』、テレビ東京『じっくり聞いタロウ』、AbemaTV『スピードワゴンのThe Night』、東京MX『5時に夢中!』などのテレビなどで活動。地元京都のコラム掲載誌『京都夜本』配布中! 執筆・テレビ出演・お仕事のご依頼は、丸野裕行公式サイト『裏ネタJournal』から↓ ↓ ↓

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