どうもどうも、特殊犯罪アナリスト&裏社会ライターの丸野裕行です。
あなたは、ヤクザを辞めた人々がどんな人生を送っているのかを知っていますか?
前回の『彫り師から和装デザイナーへ転身した男』に続いて、男が男に惚れるアウトローな稼業に従事していた元ヤクザたちの悲喜こもごもな人生を綴ってみたいと思います。
※「足を洗ったヤクザたちの第2の人生」バックナンバーはこちら
ヤクザの世界にも肩叩き
最後にご紹介するのは、元Y組系第2次団体出身の井上光夫さん(仮名、40才)だ。
足抜けして3年。しかし、今でも籍を置いていた組からの嫌がらせなどが時々ある。それは彼が、実力派の経済ヤクザだったからだ。
「暴対法以降、組織のスリム化と指定を受けないように人員整理が行われたんですわ。そこで“偽装破門”て言葉が生まれた。要するに、指定逃れに組織から破門して、仕事ができる奴に関しては暴力団のフロント企業(企業舎弟)でシノギに専念してもらうということやわね。それで登記、書類作成、各種手続きなんかの法律知識がある私が選ばれたんですわ」
偽装肩叩きを命じられたのは、平成19年の冬。
「知っての通り、こういう時代や。フロントの不動産か運送、飲食にまわってくれるか?」
「破門いうことやないですか!」
「お前は商売がうまくて、頭がキレる。堪えて、縁の下の力持ちになってくれや。ウチ支えてくれ!」
組長直々に頭を下げられた。が、井上さんは納得いくわけがない。
「企業舎弟に左遷されると、組から除籍されて、組の表舞台には立たれへんようになる。義理場にもマチガイ(抗争)にも参加できんようになるんです。何のためにヤクザになったんかわからへんでしょ? 会社の神輿担いで、株式上場させて何がおもろいんですか?」井上さんは、語気を荒げた。
と言うのも、最近のフロント企業(企業舎弟)は、社員すら自分の会社がヤクザ社会と黒い関係があると知らない。ほとんど大卒しかとらず、どう見てもカタギの会社にしか見えないのだ。その会社に、出向せよの特命に従えない気持ちもわかる。
「企業間との掛け合い(折衝)ができれば、自分に手腕があるということですわね。組はビジネスマンとしての私を認めてる。仕事ができる人間が、なんで組織の息のかかった企業で足枷手枷のあるサラリーマンやらなあきませんの。それやったらもうええと、ホンマに辞めてしもうたんです」
井上さんは組が用意した企業のポストにはつかず、独立起業する道を選んだ。1年間、地元X県を離れ、ほとぼりが冷めた頃に舞い戻った。
(※写真はイメージです)
考えていた独立の夢は、国家資格“行政書士”を取ることだった。協力者は、以前に建設業部門の公共工事の件で1度つき合いをした行政書士事務所。だが、なぜかウマが合い、プライベートでの付き合いもあった所長が井上さんの人となり、法律に対する情熱に一肌脱いでくれた。
それから、行政書士補助者として事務所に入所。まさに『カバチタレ』を地で行く世界である。
現在は、行政書士資格を取得するための勉強をしながら、職員として働いている。
だが、やはりほとぼりが冷めたとはいえ、舞い戻ってきたという情報は所属していた組に入る。
今でも何者からかの嫌がらせが続いているという。
「そう言っても、車に傷がつけられたりとその程度。むこうは破門してるから、私はタダの素人。それに、やっぱり表立って嫌がらせできへんのが、法律関係の仕事でしょ? 普通の仕事してたら会社に嫌がらせされたり、店はじめてたら妨害が入ったりしてたやろうけど」
元ヤクザが足を洗ってからはじめた飲食店は大変だというのは、ヤクザ社会学の廣末登先生の著書『ヤクザの幹部をやめて、うどん店はじめました。極道歴30年中本サンのカタギ修行奮闘記』でも語られていることだ。
「まぁ法律家ってのは、あなたみたいな著述業と同じで強い。“所詮は代書屋”なんてうそぶいてみても怖がってるから、面とむかって何もようやってきません」
ニヤリと不敵に微笑む井上さん。やはり、一度はヤクザで一生を終えようとしていた男。腹の括り方と気迫が違う、と思わず感心してしまった。
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私たちの住む普通の一般社会に溶け込んでしまった4人の元極道。一様に全員が現役の頃の雰囲気や匂いを感じさせない紳士だった。
職場で腹が立っても不用意にケンカなど売らないように。なぜなら、あなたとデスクを並べている隣の人は“元ヤクザ”かもしれないですから…。
(C)写真AC
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