シリーズ:足を洗ったヤクザたちの第2の人生 ~稼業に疲れ切った男~

  by 丸野裕行  Tags :  

どうもどうも、特殊犯罪アナリスト&裏社会ライターの丸野裕行です。

あなたは、ヤクザを辞めた人々がどんな人生を送っているのかを知っていますか?

前回の『魚屋になった男』に続いて、男が男に惚れるアウトローな稼業に従事していた元ヤクザたちの悲喜こもごもな人生を綴ってみたいと思います。

「足を洗ったヤクザたちの第2の人生」バックナンバーはこちら

取り立て屋も肩身が狭い時代になった

今回は、A会系第2次団体の元幹部・菅沼洋平さん(仮名、46才)。

まずはじめにヤクザから足を洗った理由を聞く。

「組で切り取り(債権取立て)を任されてたんやけど、まぁ、主に手形と債権整理、消費者金融、ホステスの立替金の回収なんかをやっとった。暴対ができて難しくなったのはあるけど、1998年にサービサー法(債権管理回収業に関する特別措置法)ちゅうのができたこと。会社が切り取りの仕事に参入してきよったから、さっぱりワヤやわ」

サービサー法とは、弁護士以外でも法務大臣の許可があれば不良債権の回収業務が行える法律で、民間の債権回収専門会社を設立・運営することができる。法的にも公認された取り立て屋の誕生が、手っ取り早く稼げるヤクザのシノギを圧迫した。

「シノギづらくなって、他のシノギ見つけなアカンようになった。オヤジには“おまえは上納金が少ない! 何でもやって組に金入れんかい!”と尻叩かれるけど、切り取りしかやったことあらへんやろ? 正直言って、肩意地張りながら生きるんが疲れたのが本音やな」

疲れたから辞めたい。実に単純明快な理由だが、菅沼さんは若い者を束ねる立場の幹部。魚屋になった新井さんのように簡単に足抜けさせてくれたのだろうか?

監禁されてリンチ

「ワシと若いのの2人で辞めよう、って話になった。オヤジに言うたら、そばにあった電話機で頭から血ィ流すくらい殴られた。で、いっつも拷問に使ってた倒産した鉄工所に連れてかれて、リンチや。2日間くらい監禁されて。まぁ予想はしてたんやけど、ちょっと参ったなぁ」

前述の新井さんの話とは違いがありすぎる。そこらへんは組長の器量ひとつなのか。

そしたら、元々は仲間やろ? みんな気が引けてきて、殴らんようになってきたんや。“スガ、親父が呼んでこい”って言うてる、って同じ昭和59年にヤクザになった同期の奴が迎えに来て、顔面パンパンに腫れたまんま、オヤジと会うて。2人でビール飲んで話した。淋しかったみたいやったわ。コップ持ちながら、オイオイ泣いてたな」

結局、黙認した組長。若い衆は“除籍処分”、カタチとしてシメシがつかないからと新井さんは組から、事実上の“絶縁”になった。

「それからは、職探しや。祝い事やらの義理場でマイクロバスが重宝されるからいうて、2種の免許を取ってたんや。アテもないから、タクシー乗ろうと思ってたんやけど、目に入ったんは、幼稚園バスの運転手。年齢も年いってるほうがええって言われたし、そこに決めた。子供も好きやったしな」

幼稚園バスの運転手として就職

しかし、前職はヤクザ。就職時にその事実がバレることはないのだろうか。

「幼稚園バスの運転手なんかで、わざわざ身辺の調査なんかしいへんよ。一流企業やったら、そんなこともあるやろうけど、まずバレへん。適当な履歴書作って出して、むこうが求めてる条件とあえば、OKや。顔つきもメガネかけて苦労して変えたよ(笑)。普通、ヤクザやってた奴は、ダンプやら、土建屋やら、清掃業、工場勤務やらの職に就くのが多いけど、幼稚園バスの運転手っていうのは、オレぐらいちゃうか?(笑)

実は、菅沼さんは30才のときに内縁の妻との間に授かった3才のお子さんを事故で亡くしている。彼自身も病気などで生殖機能が低下して、それ以来、子供ができない体になっていた。子供好きの彼にとっては、毎日子供たちとふれあえる癒される仕事なのだろう。

「今でも子供のことばっかり思い出す。近所でも子供を見ると顔が自然とニンマリしてまうわな。子供と関わる時間が俺にとっての幸せの時間や。みんな可愛いで。他人の子供でも、子供は子供や。ほら、これ見てみてくれ」

笑顔で話す菅沼さんがバスの中で子供たちと撮影した写真をスマホで見せてくれる。ところで、一緒にヤクザ社会から足を洗った若い衆はどうなったのか。

「ヤクザってのは、“作りあげることより、壊すこと、奪うことの方が早い”という考え方や。その言葉通りの生き方しかできなくて、楽をして金を稼ぐクセがぬけきらへん。それにアイツは負けたんやな。今はアイツは、中東マフィア系の不良外人と手を結んで、バツ(MDMA=合成麻薬)扱って商売してる。チンピラの薬屋やわ」

菅沼さんは、今日も元気な園児たちの笑顔に囲まれながら、刺青のせいで夏場も長袖を着た腕で、幼稚園バスのハンドルを握る。

(C)写真AC

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丸野裕行

丸野裕行(まるのひろゆき) 1976年京都生まれ。 小説家、脚本家、フリーライター、映画プロデューサー、株式会社オトコノアジト代表取締役。 作家として様々な書籍や雑誌に寄稿。発禁処分の著書『木屋町DARUMA』を遠藤憲一主演で映画化。 『アサヒ芸能』『実話ナックルズ』や『AsageiPlus』『日刊SPA』その他有名週刊誌、Web媒体で執筆。 『丸野裕行の裏ネタJournal』の公式ポータルサイト編集長。 文化人タレントとして、BSスカパー『ダラケseason14』、TBS『サンジャポ』、テレビ朝日『EXD44』『ワイドスクランブル』、テレビ東京『じっくり聞いタロウ』、AbemaTV『スピードワゴンのThe Night』、東京MX『5時に夢中!』などのテレビなどで活動。地元京都のコラム掲載誌『京都夜本』配布中! 執筆・テレビ出演・お仕事のご依頼は、丸野裕行公式サイト『裏ネタJournal』から↓ ↓ ↓

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