刑事が語る!「容疑者は意味不明なことを言っている」は一体何て言っているの?

  by 丸野裕行  Tags :  

どうもどうも、特殊犯罪アナリスト&裏社会ライターの丸野裕行です!

日々、新聞やニュースを賑わす凶悪事件や犯罪。様々な事件が起こったとき、「犯人は意味不明なことを言っている」とテレビは伝えるけれど、それってなんて言ってるの? そんな疑問を感じてしまうのは、私だけではないはずだろう。

テレビでは放送できない容疑者たちのおかしな言動を聞き続ける刑事たちのイヤ~な気持ちは、想像せずともわかること。警察の現場で働く3人の現職警官にコンタクトを取り、濃ゆ~い犯人たちの素顔に迫った。
※なお、事件等が起こった地名・発生時期などについては特定されないように変更してある。

“シャブボケ”でお話にならない

まず手はじめに話を聞いたのは、関西某市の繁華街を所轄する、交番勤務の巡査長・坂上亨巡査(仮名、28歳)。

「オレが、交番勤務について1年が過ぎた頃に起こった通り魔事件の容疑者がね、こいつがまたとんでもなかった!」

6年前の秋。まだまだ新人だった坂上巡査はパトロール中に歩行者の悲鳴を聞きつけた。
ゲッソリと頬のこけた男は奇声をあげながら、包丁を片手に持ち、ブンブンとその場で振りまわしていたのだ。そのやみくもなフルスイングは、まったく人々を捉えきっていない。

これは薬物中毒者かもしれない。腕に覚えがあった坂上巡査は、腰元のニューナンブには手をかけず、警棒を引き抜いて、男を確保すべく、奴の体に飛びかかった。

「おとなしせんかいぃぃ~!!」

180センチ、75キロの体躯を持つ坂上に、ヒョロい通り魔男を取り押さえるなどわけもない。アスファルトに突っ伏して、腕をひねりあげられる男。手錠をかけ、無事に確保。同じ交番勤務の先輩へ連絡をとり、ひとまずは交番へ連行することにした。

すぐに所轄の署員が身柄を確保しに来てくれると思っていた。しかし、タイミングが悪かった。同じ管内で、同時刻に現金輸送車の強奪事件が起こっていたのだ。とにかく、事態が落ち着き、引き取りに来てくれるまでこの通り魔男と一緒。先輩の高田(仮名、42歳)とどうしたものか、首をひねっていた。

「おい、一応、調書とったほうがええやろう」
「は、はぁ……」
「キリョロリョロリョロ~!!」

男を見れば、白眼で奇声を発している。こんなんでホンマに調書なんか取れるんかいな…。しかし、自分が確保した男だ。何かしなければしょうがない。

「お、おい……。オマエの名前は?」
 ペンを走らせながら、坂本巡査は男に訊ねた。
「ワップ! ハ~ン! ワップ! ハ~ン!」
「……うぅ!」

こんなもん、お話にならんやないか! いつもアドバイスをくれる先輩に視線を移すと、明らかに狼狽した苦い顔。う~ん、どうしよ…。

「氏名、名前はなんや!!」
「シャブくで! シャブくで! オレ、シャブくで!」

完全にキテる状態のようだ。

「シャブがほしかったら、名前くらい名乗れ!」
「ゲキダンシキ……」
「劇団四季? はぁ? 関係あらへんやろ!」
「……オレの名前と、関係…ある。ヤーケン! ヤーケン!!」

気がふれて、ピョンピョンとジャンプ行動を繰り返す男。

「結局、夜中の2時までよくわからない奇声とつき合いましたわ。もう重度の中毒者で。今も、医療刑務所に強制入院やろね。そりゃ、テレビでどう伝えたらええやわからんわ」

警察官の皆さんの苦労は絶えない。

女性警官に迫る性豪容疑者

2人目は、女性。
関西府警『T警察署』被害捜査員・矢部陽子巡査(仮名、27歳)。

「毎日、性犯罪やストーカー、DVなんかの捜査にあたっているんですけど、23人連続強制わいせつ事件で検挙した男は強烈でした。もう思い出しただけで、寒気がしますよ」

平成17年の夏。季節が暑くなればなるほど、性犯罪が増加する。矢部巡査は帰宅した1人暮らしの女性の後をつけ、鍵を開けた瞬間に押し入る連続強姦魔の捜査にあたっていた。署で待機していた彼女の元に所轄の派出所から連絡が入ったのは、夜も深まった午前12時。

「被疑者確保。管内で続発していた連続強制わいせつ事件の容疑者と思われます! 被害者は病院に搬送。直ちに『伊東総合病院』に急行してください」

矢部巡査は覆面車を飛ばし、被害者の元を訪ねた。応急手当を受けた被害女性は、乱暴されたあとの傷の手当と、膣内洗浄などの措置を受け、憔悴しきっていた。性犯罪の場合、彼女たちが被害届を出し、裁判になったときには証言台に立って、つらい想い出を語らなければならない。

女性被害捜査員は、彼女たち被害者の事情聴取や精神面でのケアをきちんと行う。トコトンつき合って、心の支えになるわけだ。
事情聴取を終え、犯人と対面。あまりに非道で暴力的な手口に矢部巡査は腹が立ち、容疑者の供述調書作成を買ってでたのだ。スキがあれば、2、3発ブン殴ってやる。意気込んで、彼女は取調室に踏み込んだ。

パイプ椅子に腰掛けるのは、どこをどう見積もっても不審な男。クマを作った澱んだ目は落ち着きなく左右に動きまわっている。

「自分がどんなことをしたのか、わかってんのかぁ、アンタ!! どないなんや!!」

机を叩きながら、犯人に迫る矢部巡査は脅すつもりで声を荒げた。
ニヤつき、言葉を発しない男に業を煮やした矢部巡査は、先輩にコーヒーを頼み、ふたりっきりで尋問していた。

「お母ちゃん……」

はぁ? 何? 何て言ったの?

「お、お母ぁちゃんぅぅ~!! オッパイ、オッパイぃぃぃ~!!」

倒され、抱きつかれて、頚動脈にのしかかってくる男。こ、声が出ない!! こ、殺される!! 胸をたくし上げられて、手が入ってくる。おまけにいつの間にか、男の怒張した下半身がズボンから飛び出していた。

矢部巡査が気がついたときには、署内の仮眠室。表で待機していた先輩の心配そうな顔が目の前にあった。

「甘かったですね。なんでも男は高学生の頃に、言うことをきいてくれなかった母親を殴り殺したらしいです。心神喪失で連続強制わいせつも起訴されませんでした。あれは泣くほど悔しかったですね

なんとも怖すぎる男である。

あなたのせいで、弟さんは死んだですよ

 最後は、中部地方の都市にある『F警察署』の警部補・本郷健治氏(仮名、50歳)。

「長い刑事生活で、あんなことは初めてだよ。あいつとは、もう関わりたくない」

親友であった経営者が死んだ現場のソファに、その男はどっかりと座っていた。頚動脈をペーパーナイフで一刺し。噴出した血しぶきは天井まで届いていた。経営者の血まみれの屍体を前に、それはもう落ち着いた動きで男はコーヒーを啜っていたのだ。

もちろん、男が容疑者として逮捕されることは当然のこと。署に連行された、そこに居たのは、ただならぬ雰囲気を漂わせる男。

「おまえがやったんだろう!」
「いいえ。あれは、殺人じゃないですよ。彼が自分で命を絶ったんです」
「じゃ、何で現場におまえがいたんだ!」
「私は、話をしていただけです」
「話ぃ?」

「ええ。彼の出生の話をしていただけです」
「どんな話だ!」
「彼がコンプレックスに思っている出生の話です。私は人の過去のことがわかるんです。“霊視”というか…」

男は冷静に言った。何を言い出すんだコイツは!

「じゃ、どんな話をしたんだ?」
「彼は、母とその母の叔父さんの間にできた子供です。薄々感づいていた節があったんで、母親の名前や癖まですべて当ててから、そのことを告げました。全部が見えてしまうもので……。そしたら自ら命を絶ちました

「はぁ? なんだおまえ。おもしろい。じゃあ、オレのことも当ててみろ!!
「刑事さんの妹さん・裕子さんは小学校2年生の頃に水死しました」

こ、こいつ、なんでそれを…!

「そして、あなたはそれを自分のせいだと思っている」
「だ、黙れ…」
「でも、それは間違っていません。あなたのせいで、妹さんは死んだんですから! あなたは、本当は、彼のことを助けられたのに…」
「黙れぇぇぇ~!!」

幼少期のトラウマ。底知れぬ恐ろしさが本郷刑事を包んだとき、意識が遠のいた。

「逮捕された男はその後、釈放。今どこでどうしているのか、知りたくもない。こんなこと言ったら、オレまでおかしいと思われるかもしれないけど……

このように、現場にいる刑事や警官たちは、毎度容疑者たちの意味不明な話を聞いているそうだ。

情報はテレビ越しに伝わってくることはないが、正直、こんなことばかり聞いていたら頭がおかしくなってしまわないのか心配になる。
現場の苦労をねぎらって、すべての警察関係者へ敬礼!

(C)写真AC

丸野裕行

丸野裕行(まるのひろゆき) 1976年京都生まれ。 小説家、脚本家、フリーライター、映画プロデューサー、株式会社オトコノアジト代表取締役。 作家として様々な書籍や雑誌に寄稿。発禁処分の著書『木屋町DARUMA』を遠藤憲一主演で映画化。 『アサヒ芸能』『実話ナックルズ』や『AsageiPlus』『日刊SPA』その他有名週刊誌、Web媒体で執筆。 『丸野裕行の裏ネタJournal』の公式ポータルサイト編集長。 文化人タレントとして、BSスカパー『ダラケseason14』、TBS『サンジャポ』、テレビ朝日『EXD44』『ワイドスクランブル』、テレビ東京『じっくり聞いタロウ』、AbemaTV『スピードワゴンのThe Night』、東京MX『5時に夢中!』などのテレビなどで活動。地元京都のコラム掲載誌『京都夜本』配布中! 執筆・テレビ出演・お仕事のご依頼は、丸野裕行公式サイト『裏ネタJournal』から↓ ↓ ↓

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