「死ぬまでにこれは観ろ!2018」 映画人が厳選した3本をレビュー【第一弾】

今年で5回目を迎えるキングレコードの「死ぬまでにこれは観ろ!」シリーズが7月4日、8月8日に発売。各110発、過去最大220アイテムが揃う。名作、怪作、珍作がさらにパワーアップ。その中から2回にわたって10人の映画人が死ぬまでに観ておくべき作品を紹介する。

第一弾は、松居大悟/種田陽平/松崎健夫/渡辺祥子/あがた森魚の5名が各3作品を厳選。これは死ぬまでに観ておくしかない!

死ぬまでにこれは観ろ!! by 松居大悟 [映画監督]

大学の演劇サークルでは「これを観るべきだ」「この音楽を聴かないとダメ」など、嗜好性の高い先輩がたくさんの作品を挙げて議論して、後輩の僕は、結局どの作品を観るべきかわからなかった。そんな中、何も言わない寡黙な先輩が、この「不思議惑星キン・ザ・ザ」の話をする時だけ笑顔になって話が止まらなくなる。それだけでこの映画を観る理由になった。今まで観たことのないタイプのゆるさ、変な映画すぎて先輩らしくて、何を言えばいいのかわからなくなって「クー! でしたねぇ!」と言った。

その後、自分で劇団を作って闇雲に公演している時にキム・ギドク作品に出会った。理屈ではなく感覚に、耳ではなく目に訴えてくる、彼にしかできない世界観に魅了された。「受取人不明」はギドク作品の中では有名ではないけど、目でなく、目の向こう側に痛みが伴う感覚は初めてだった。色が特に印象的で、時間が経った今でもあの赤いバスが目に残っている。

最近は映画と演劇の関係性を考えることが多い。自分の手掛けた「アイスと雨音」や「君が君で君だ」は演劇と映画の境界線を越える表現に挑んだけれど、「オープニング・ナイト」の影響が強いかもしれない。演劇を観る以上に、映画で演劇を観た感覚になる。映画の可能性、劇中劇のシーンの反復、それにおける哀愁。今の自分には到底辿りつけない境地で、カサヴェテスで一番好きな作品です。

死ぬまでにこれは観ろ!! by 種田陽平 [美術監督]

今回選んだ3本は、学生の頃に観て「死ぬまでにもう一度観たい」と思っていた映画です。

「パピヨン」は長い間、南米ギアナの悪魔島が圧巻だと思い込んでいましたが、今、改めて観直してみると「独房」がこの映画の核になっているとわかります。セットの壁の色、質感が素晴らしく、光線の演出もあってシンプルながら力強い場面になっています。薄暗い独房で主人公がムカデをスープに入れて食べるショットを鮮明に憶えていました。

「追想」は舞台となった南仏の城郭そのものが面白く、古い城の内壁と外壁の間の迷路のような裏導線が映画の虚構を支えています。中年の主人公が壁の中に隠された狭い石段を駆け巡って敵のドイツ兵たちと戦う姿は、同じ監督の「冒険者たち」でリノ・ヴァンチュラが要塞の中を走り回る姿と重なり、涙なしには観られない。

「戦争のはらわた」では、女性兵士がたてこもる家が印象に残っていました。戦場における少年兵士、ナース、女性兵士たちと共にこの家が強烈な存在感を放っていて、観直す価値があります。やはり戦時下で男が女たちに脅かされる映画に「白い肌の異常な夜」があります。負傷したイーストウッドを助けたのは閉ざされた女子学院で生きる女たちで、彼女たちの軋轢や葛藤に彼が巻き込まれていく物語でした。思春期の頃観てあまりに恐ろしく、長い間観る気になれなかった作品。そろそろ観直してみようかなと思っています。

死ぬまでにこれは観ろ!! by 松崎健夫 [映画評論家]

映画好きにベスト作品を聞くと、世代を問わずその人が10代に観た映画を人生のベストに挙げるという傾向がある。比較対象が限られる時分の“これまでに観たことがないもの”に対する驚きは、その後の作品評価基準となる所以でもある。それゆえ「リアルタイムで観た者が持つ作品への偏愛は他人に伝わらない」という残念な“普遍性”を持ち合わせている。

例えば(1)は、ウィリアム・フリードキン監督が「フレンチ・コネクション」(71)の逆走カーチェイスを自身の手で更新しようとした挑戦を知らなければ陳腐に見えるし、(2)は「ゴッドファーザー」(72)以降、粗製濫造されたマフィア物の新たな鉱脈としてのチャイニーズ・マフィアという経緯を知らなければ、ジョン・ローンの偉大さはわからないかもしれない。そして、(3)のレクター博士は、当然「羊たちの沈黙」(91)以前であると認識しなければ、ブライアン・コックスの演技アプローチには疑念を抱いてしまうだろう。

観るべき過去の映画は、映画史の上でどの位置にあるかを知ることで多少はミカタが変わるもの。同時に、3作品が持つ「悪役の方がカッコいい」という時代を経ても変わらない“普遍性”は、映画に不変の輝きをもたらすのである。

死ぬまでにこれは観ろ!! by 渡辺祥子 [映画評論家]

われながら良き選択(?)と思う3本だ。観てわくわく、しゃべったらとまらない3本。長らくの映画ファンでもこんな面白い映画に出会う機会はめったにないはず。

仏頂面が売りの喜劇役者ウォルター・マッソーと組んだ「突破口!」のドン・シーゲルは、マフィアの隠し金と知らずに田舎銀行から予想外の大金を盗んだ小悪党の生き延びる術をこれでもか、と見せて胸のすく結末へと導く。

アポロ11号の月面着陸はウソ、という説は根強くあるが、ピーター・ハイアムズの「カプリコン・1」には一瞬そうかも、と思わせる説得力がある。人類初の火星着陸をTVで中継、と見せてじつはインチキだった、という事実を隠したいNASAは宇宙飛行士の抹殺を図るが、事前に察知した飛行士たちは逃亡、追跡の手が伸びる。低予算でセットもちゃちだが、そこがインチキ臭さをあおって、妙にリアル。

残る1本はマイケル・ケイン、ドナルド・サザーランド主演の渋い大作。第二次大戦末期、チャーチル暗殺を目論むドイツ兵士が英国兵に化けて英国の田舎町に進駐、彼らが善人だったために予想外の結末に至る、というのがジョン・スタージェスの「鷲は舞いおりた」。ナチス・ドイツが悪役ではない映画は珍しい。

死ぬまでにこれは観ろ!! by あがた森魚 [歌手・映画監督・俳優]

活動写真、蒸気機関車、グラモフォン、希少鉱石等々は20世紀中葉にゴールドラッシュを迎え、濫造、濫獲、過剰消費、資源枯渇と渡り歩き、映画、機関車、ロックの轟音は、フィルムのパーフォレーション、レール、扇情、虚無のパルスに似たビートの果てしない連続。

ゴダールだかのディレッタント「映画史」を紐解くまでもなく、誰もが乗って降りて、怖めず臆せず、粛々と真夜中を走り朝遠ざかる夜行列車を何本見送ったことか。

イタリアの闘士ジッロ・ポンテコルヴォ「アルジェの戦い」、現実現在1954~1962年フランス統治下のアルジェにおける政権とFLN解放戦線、爆破、銃撃、テロ、拷問に終始する報道映画さながらの緊迫感。

この映画を公開時あるいは現在どのようにあり、闘争はまだ持続しているのか、唯物史観的映像資料たるか。意志とイデオロギーの蒸気機関車、未だ力強く走り去っていく姿あり。

「シェルタリング・スカイ」はビートニクのポール・ボウルズとベルナルド・ベルトルッチ監督邯鄲の夢物語。アルジェリアにポップ・ライ、モロッコにグナワミュージックあり。同じマグレブ旧市街カスバでも聞こえくる音楽は違う。20世紀中葉、マグレブを舞台に2組(2本の映画)は同床異夢を見るのか、砂漠に定規で直線を引かれた国境らしきを挟みながら。

アンドレイ・タルコフスキー「サクリファイス」はわが内ではレネ「ヒロシマわが愛」、トリュフォー「突然炎のごとく」に置き換えられてもいい。老窟の擦り切れたソファーにうずくまる私やあなたの魂らしきを少し慰撫してくれやしないか。

(『キネマ旬報 2018年7月上旬号』より転載)

「死ぬまでにこれは観ろ!2018」キング洋画220連発!
●7月4日/8月8日発売 BD 各2500円+税、DVD 各1900円+税
●発売・販売/キングレコード
●作品ラインナップなどの詳細は公式ホームページにて


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