昔はこんなに写真撮影に苦労を感じることがあっただろうか。
いいや、この苦労は最近感じることなのだろう。
なぜなら、私の好む便所がだんだんなくなってきているから。
キレイなトイレが増える昨今の公衆便所事情に私は苦労を感じ始めている。
確かにキレイで機能的で感動もするが、公衆便所に求める魅力とは別モノなのである。
私が便所ライターとなったのが2009年5月。
かれこれ、9年が経った。
9年前の私の年齢は便所ライターをするのにはピッタリの34歳だったこともあり、さほど苦労を自覚したことなどなかったが、たかだか9年前でも確実に世の中の公衆便所は『便所』だったのである。
Afterトイレではなく、Before便所であったのだ。
【狭い・小汚い・情深い】
Before便所の三原則は「狭い・小汚い・情深い」である。
今、日本のBefore便所は競うようにAfterトイレに変わっている、とても速いスピードで。
広くてキレイで快適な、おまけにオシャレでもあるトイレに変わっているのだ。
さぞかし喜ばしいことだろう、ウチのおばーちゃんも草葉の陰から恨めしそうに眺めているに違いない。
だけどおばーちゃん、貴女の孫は、狭くて小汚い便所ばかりを追うものだから、とうとう魂を抜く写真機のシャッターが切れなくなっているのである。
せめて私に深い情をかけてはくれまいか、世間よ、そしてトイレ業界関係者よ。
公衆便所が快適になることを、なにも邪魔したいわけじゃない、私だって。
だた『ココだけは』という名所は残していただきたい、そんな風に思うのだ。
快適にリフォームしようと思っている公衆便所の100箇所にひとつでいいから、10人が10人とも即答で「ココはさすがにリフォームしたほうがいいでしょう今すぐに」と答えるレベルにまで達している公衆便所は、その計画、中止にしてはくれまいか。
実用的でなければいけないだろうか、公衆便所は。
100箇所にひとつくらい、見て楽しむ公衆便所があってもいいのではないだろうか。
コンセプトは《用が足せない公衆便所》
【よそで用を足してからお越しくださいませ】
何の変哲もない事、物、場所。
取り立てて言うほどでもない在り来たりな、その感じ。
それが最高であることに、人々は気付かない。
有り触れていることが特別であることを知らない状態を、無知というのだ。
おかえり、Before。
最高の、Before便所。
今世紀最大の特別なBeforeをご覧いただこう。
男子便所の表示プレートは在り来たり。
女子便所は炙り出しかな。
ただ小汚いだけの便所だと思ったら甘い。
通気性バツグンな自然現象。
窓際に置かれた予備トイレットペーパーは裸。
便所マスターならご存知であろう、裸で置かれた予備トイレットペーパーは確実に予備として置いた位置のままで使われてしまう運命にある。
見逃すにもほどがある腐食っぷり。
豪快、という言葉しか浮かばない。
後方スペースがシュールなほど余っている。
この個室に清掃用具がある精神に深い情を感じる。
おもてなしの最上級がココにある。
この環境に衛生用具を持ち込む精神、それがおもてなし。
だけどまったくもって汚い事実。
前が狭い。
後ろあれだけ余っているのに。
狭いわ小汚いわ情深いわ、こんなに私好みの便所を撮影してくるとは、ハチでかした。
スパルタで鍛えた甲斐があったな。
何の変哲もない便所にこそ、もっと行け。
そこにハチの未来が見えるぞ。
その未来は確実にすんごいBeforeであるから躊躇なく進むがよい。
※全画像:筆者および助手ハチ撮影