ベンチに座ってコーヒーを飲んでいたら目の前でカルピスウォーターを飲んでいた幼児が突然に、遠吠えをはじめた。
最近のカルピスウォーターには昔では考えられなかった即効性のある何らかの興奮剤が入れてあるのかとも思ったが、そんな作用のある成分が入ったカルピスウォーターが100円ぽっちで買えるわけがないので、幼児に突如やる気スイッチが入ったのだなと思い私は今一度コーヒーをグビグビと飲んだ。
すると幼児が二口目のカルピスウォーターを飲むことなくじっとこちらを見つめてくるではないか。
違うぞ、私が飲んでいるのはコーヒーであって君にはまだ早い、修学旅行の経験もなく飲める代物じゃないからコレを欲しがるんじゃない。
幼児に目だけでそう語りかける。
負けじと幼児も憑りつかれたように私を見つめる。
痛い、視線が痛い、何がそうさせるのだ、君を。
幼児というのは目をそらさない時はずっとそらさない。
この感覚が大人になっても失われないままであったなら、もっと多くのことを注意深く見ることが出来るのに。
【注意深く見なければならない箇所はたくさんある】
TOTOの音姫が発売されたのは1988年。
押すと流水音が流れるこのボタンは今や便座にも装備され、押し放題である。
いいや。
発売から30年もの間、進化に進化を遂げた音姫は、便座に座っただけでセンサーにより勝手に音が流れてくるまでになっている。
しかも単なる流水音ではなく、川がせせらぎ鳥がさえずるのだ。
誰が想像できたであろう、トイレで人工的な自然の音に癒される時代が来るなどと。
既に壁に音姫を設置しておきながら、便座にも音姫。
明けても暮れても流水音を聞きたいニーズに応えた結果なのだろうか。
節水意識と疲労感が強い現代人に、フリードリンクサービスを企画してみてはいかがだろう。
高速の各サービスエリアで斬新な集客案として。
所狭しと、
トイレットペーパー。
コーナー活用度が高い。
限られたスペースを有効活用してタンクと赤ちゃんを向い合せる配置を選ぶのに、ちょっとした温かみをプラスしてくる小憎い木目のトイレットペーパーホルダー。
和式便所にまたがり、ブランブランしている我が子の足を巧みに交わしながらトイレットペーパーを巻き取る時、母は木の温もりにしょんべんばちびる思いで感動するのかもしれない。
トイレットペーパーホルダーは、この『ちょっと木』というだけで価格が高くなる場合がある。
自宅のトイレをリフォームする時に『ちょっと木』にするだけで価格が倍も違ったので、我が家のトイレットペーパーは白く光り輝いている。
木にはしょんべんばちびるくらいのお金がかかっているのである。
不思議なもので装着してあるトイレットペーパーは、程よく出ていないと印象が悪い。
ベロンベロンに垂れていると、だらしないのだ。
いくらピンクに着色して特別感を出したトイレットペーパーだろうが、良い香りを練り込んだトイレットペーパーだろうが、ベロンベロンに垂れていたら台無しなのである。
何の変哲もない粗野な白いだけのトイレットペーパーがキッチリと切られているほうが、印象が良い。
この場合、多くの人が取りやすいピンクよりも、取りにくい白を選ぶ。
だらしないトイレットペーパーは「不衛生」のレッテルを貼られてしまうから。
洋式便所に座る母親と赤ちゃんとの距離が、微妙に遠い。
近すぎず、遠すぎず、なんとなく気まずい距離である。
何も便座が、
ここまで天を仰がなくても。
たまに見かける、小さな換気扇。
このサイズの換気扇を作動させるより、横の窓を開けたほうがよっぽど換気になるんじゃないか。
たいていサイズが小ぶりで、
たいていホコリまみれで、
たいてい変な音がしていて、
意味あるのかな~、と思っているこの換気扇のことを私は『換気せんっ!』と呼んでいる。
頑固ジジィが杖を大きく振りかぶって『ワシはゲートボールなんか、せんっ!』と言う時の語尾と同じである。
時おり見かけることがあるこのSK、何と書いているのか疑問に思ったことはないだろうか。
スロップシンク。
バケツがそのまま入って水が汲めるような深さのある流しのこと。
なぜslop sinkの略がSKになるのかは謎。
SSでは極小サイズと勘違いされるからか。
炭と白檀がつくるすみきった大人の空間
炭だけに。
多目的プレートの右下。
男の子が若干ナナメに見える。
男の子も女の子もやはりナナメに見える。
間違いなく、ナナメ。
両腕を伸ばすという仕草は平均台の上などでバランスを取る時にやることなので、てっきりバランスを取っているのかと思いきや、両腕を伸ばしてもバランスが取れていないとなると、この子供たちは平均台よりももっともっと不安定な足場の上にいることが予想される。
綱、としておこう。
この子たちは、スーパーキッズである。
トイレの中にロッカーがあるのだろうか。
チェンジングボードのある個室という表記は、
イラストで表すとハンガーになると覚えておこう。
私には最後まで、これが何をするための物かがわからなかった。
いったいどんな用途で使用するのだろう。
手作りスキルが高く、きっとかなりこれで便利になるのだろう予感がするが、それが何かがわからない。
全ての個室を見まわしてみたが、ピンと来なかった。
便所ライターをしていると、いろいろな便所手作りグッズに出会う。
手作りトイレットペーパーホルダー、手作りドアノブ、手作りドア施錠部品、手作り水洗レバー。
最初は「ちょっと欠けた」や「一時的な補強」として手を加えて凌いでいたと思われる箇所が、その後に修理されないままの状態が続いた挙句、容体が悪化するのだ。
いよいよ一時凌ぎでは通常使用が出来なくなり、たまたまスタッフに手先の器用な誰かや日曜大工が得意なおっちゃんがいて、白羽の矢が立つ。
このひとたちの手直しのスキルが、期待以上なのである。
そこで業者に頼むより給与の中に組み込まれているほうがコストダウンになると、経営者が考える。
会社のあらゆる故障の請負人、誕生の瞬間である。
そんな請負人に聞きたい。
「一体これは何をするための物ですか」
倉庫、傾く。
倉庫でまだよかった、会社じゃなくて。
座らせる気が、
まるでない。
注意深く周りをみよう。
キョロキョロしながら便所に入ろう。
個室をくまなく観察しよう。
全ての便器を覗きこもう。
備品の裏までチェックしよう。
通報されてもいいじゃないか。
ダメかね。
通報されたら、やっぱダメかね。
私は9年こんなことをやっているがまだ一度も通報されたことがないのだから、その運の強さは奇跡的と言えよう。
そろそろかなと思いながら日々、不審者じみたトイレの探し方で獲物を探し歩いている。
遊び半分では便所ライターは務まらないのである、本気で遊ばないと。
※全画像:筆者および助手ハチ撮影