どもどもどもども~、裏社会ライターの丸野裕行です!
あなたが絶対に知らない職業をご紹介するシリーズの第1弾は“ヤクザスカウトマン”です。
警察の締め付けで、斜陽になってしまったヤクザの世界。すぐにパクられる、儲からない、上納金が高いなど良いことなしと言われるこの業界。
高齢化が叫ばれる中で、今回は新人発掘をする暴力団員スカウトマンの藤尾竜二さん(仮名、54歳)にお話を聞きたいと思います。
「とにかく世代交代をしないと、俺らの商売はやっていけない。足を洗う連中も激増しているし、人員の補充と逸材を育てることが急務やと考えています」
彼らが抱える苦悩やスカウト行為の苦労話、驚いた出来事など、いろいろと語っていただきましょう!
取材させていただいた藤尾氏(仮名)。物腰の柔らかい方でした。
労働基準法に当てはまらない職業
「まぁ、この業界っていうのは『馬鹿じゃなれず、利口じゃなれず、中途半端じゃなおなれず』といってね、とにかく大量に人を入れて、そこから運良くヤクザ者の原石を見つけて磨いていくんやけど、これがすごく難しい。少しでも、強引に組に入れようものなら、すぐに警察沙汰。中止命令なんてのがすぐに出てしまうんですよ」
暴対法施行直後から、藤尾さんの組でも足抜けが激しくなり、業を煮やした組長が檄を飛ばしたのは平成17年のこと。組員が全員集められ、いきなり指令が下る。
「フレッシュなヤングを確保して、新しい組織づくりをするのが先決や! おまえら、わかっとるやろぉ!」
「はい!!」
「おう、藤尾、ええ返事じゃ! おまえやれ!」
「へ、へぇぇ~!!」
これまでの組への貢献度、実績から、ご指名を受けた藤尾さんは“新人スカウト実行委員長”に任命され、組のシノギそっちのけで、新人発掘に走った。
「まずは、ケツ持ちをしている暴走族の集会に参加しましたね。毎月、1台あたり2千円の走行料を納めていた40人~50人のガキやったんやけど、中には極道者に憧れているヤツもいるやろうと……」
そこで藤尾さんは、自慢のバイクを集結させ、木刀や鉄パイプを持って屯(たむろ)する現役暴走族を焚きつけた。
「この中で、我こそは最強の“漢”やというやつは誰や~!」
「おおおおぉぉぉ~!」っと地響きのような雄叫びを上げ、天高く手を挙げる若者たち。
「ほぉぉ~ええ根性してる若い連中もまだおるんやなぁ~、と思いましたね、そんときは……。で、その男前をウチの組で磨きたいやつはいるか? と本題を切り出すと、引き潮みたいにササァ~っと押し黙って、ざわつきはじめてね。それで、恐る恐るひとりがもう一度手を挙げたんですよ」
「質問です、すいません! あのう、給料はおいくらんでしょうか?」
あきれ果てて、二の句を継げない藤尾さんに続いての質問があがった。
「あのう、抗争のときとか、危険手当は出るんでしょうか? あと、お休みは何曜日なんでしょうか? シフト制ですか?」
親泣かせの暴走族とはいえ、生ぬるい現代っ子丸出しではないか……。イマドキの若者たちに、もはや言葉も出ない。
「結局は、その後に傷害事件で少年院に入ったゾクの頭だけ。暴走族といえば、ヤクザ予備軍の巣窟だったのに、正直情けなかったですわ。でも、時代も違うし、やっぱり街の半グレくらいを狙うのがいいのかなぁと思って、ミナミの路上でたまっている若いのに声をかけはじめたんです」
ヤクザを恐れない若者も
藤尾さんが目を付けたのは、ミナミのクラブで遊び終わった半グレ風の少年たち。
「おまえら、腹減ってへんか?」
「なんやおっさん」
「ワシは〇〇組の藤尾や。腹減ったんやったら、なんぞ、ステーキかなんか食わせたろうと思うてな」
「暴対法で、金もないヤクザなんかにメシ食わせてもらうことなんかないわい」
ほほう、こいつら、なかなかヤクザ業界のこともわかってるやないか、と藤尾さんが感心していると、目の前にバタフライナイフを握った蒼白い顔のピアス野郎が立ちふさがった。
「おっさん、どかへんかったら、刺してまうで」
気味が悪くなった藤尾さんは、黙ってその場を後にした。
有望株の若者を横取りされたのは……
それから藤尾さんは、紹介でも何でもいいから若者と会うことに注力した。若くして網膜剥離になった元ボクサーやテキヤのバイト、とび職のお兄ちゃん、時には出前持ちのボウズにまで声をかけまくった。日々のアプローチの結果、2名を確保。しかし、少ない。少なすぎる……。このままではオヤジに激怒され、指の1、2本では済まないかもしれない。
最後に目を付けたのは、孤児院だった。アニメ『あしたのジョー』でもおなじみの不遇な不良少年の吹き溜まりであることは間違いないだろう。
藤尾さんの読みは当たった。親に捨てられた天涯孤独の高校生・山岡という有望株に出会えた。
大阪桃谷の地元では、各校の生徒たちを震え上がらせるほどの腕っぷしの強さだったのだ。
「おう、兄ちゃん。えらいええ体やな? 飯食いに連れてったろか?」
「えっ、ヤクザ屋さんですか? メシ、いいんですか?」
「焼肉行こうか」
プロレスラーのような体格の良さと180センチ代後半の高身長。特上ハラミを15人前ペロリと平らげた山岡は、行儀もよく、幹部候補としては申し分なかった。
山岡が、組へ出入りしはじめると、親分の可愛がり様もかなりのものだった。
「もう、安心したね。安心しきった! でも……。考えられないことが起こったんですわ。山岡が組へはもう行けない、と言い出して……。どないしたんや、と問いただすと、次の日に知り合いのマル暴から電話が入って……」
暴対法に触れるようなことはしていないし、警察にとやかく言われることもない。ゆっくり、じっくりこちらの世界の住人に染めるために、とにかく可愛がっただけだ。
喫茶店に呼び出された藤尾さんに、この業界では“鬼”と呼ばれるマル暴の刑事・岡田は信じられないことを告げた。
「藤尾よ、スマンけど、山岡なぁ、一人前の警察官に育ててやりたいんよ」
「は、はぁ……」
「な! このとおりや! あいつの親代わりになってしっかり育てるさかい、俺に預けてくれ!」
「わ、わかりました……。岡田さん、頭上げてください……」
伝説のマル暴にお願いされて、断ることなんてできない。藤尾さんはキッパリと諦め、そのまま組に帰った。
「まぁ、スカウトしてきた若者は43人くらいをウチの組に入れたんですけど、3年間の部屋住みなどの“稼ぎこみ(修行期間)”で90%くらいは脱落するんですわ。ちなみに、山岡は交番勤務の警官になって今も頑張ってます。前に目が合ったときには、律義に敬礼してくれてね。頑張ってほしいですね、ええやつやから。親のような目で見守ってます」
ヤクザの人不足は未だ解消していない。「今の時代、解消されるのはいつになるかわからない」と、藤尾さんは淋しい目でつぶやいた。
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