裏社会ライター・丸野裕行でっす!
なぜか自分の目の前で事件が起きたりしてしまうワタクシなんですが、本当に毎日クタクタになるほどなんですね。
自殺の現場に出くわしたり、事故現場に出くわしたり、事件に巻き込まれたりetc…
まぁ、因果な星の元に生まれたなぁと思っているんですが、このお話も数年前にさかのぼります。
叔父の法事に参加した数分後…
あれは、10年ほど前の春だった。
オレは、叔父さんの法事のために、関西某市にある親戚の家に出向いた。
久しぶりに会うおばちゃんは、叔父の死から2年で少し痩せたように思えた。オレのこともまるで血がつながっている甥っ子のように可愛がって入れているおばちゃんだ。このあたりでは、叔父さんとおばちゃんは仲睦まじいオシドリ夫婦でとおっていたそうで、やはり寂しい生活を送っているのか、頭に白いものが増えた気がする。
法事の本番は明日で、時間の自由が利くライターのオレは、話し相手にでもなってやろうと前乗りすることにしたのだ。
手入れの行き届いた庭に目をやりながら、ビールをチビチビとやっていた。
「ひろちゃん、これ見て! 春やからね、ここらへんでは珍しいポピーが満開やのよ!」
「ああ、ホンマやね。キレイに咲いてるわ」
叔母は花の話をしているときは、終始笑顔で、亡くなった叔父のことを忘れられるようだった。
赤ん坊の手のひらのようなその可愛い花はやけに背が高く、どこかで見かけたような気もするが、なぁに気のせいだろうと思っていた。
「通り挟んだ薬局やってはる坂崎さんの奥さんからタネもろて、植えてみたら、えらい成長早くてなぁ! 今、ご近所さんの間でブームになってるねん」
「はぁ、そうなん。まぁ成長が早いんやったら、花の咲かせ甲斐もあるやん」
しかし、このなんでもない会話の次の日に、まさか大事件が起こるとは……。
薬物対策のプロが踏み込んできた!
翌日の10時からはじまった法事。坊主の経がいつまで続くのやら、と退屈していると、そのときはきた。
【ピンポーン! ピンポーン! ピンポーン!】
激しく連打されるチャイムの音。なんやねん、こんな大切な法事のときに……。
インターフォンが壊れてしまいそうな勢いに、叔母は迷惑そうな顔をしながら、玄関へと向かった。
ガチャっと開かれた扉の音。ぼそぼそと訪問者が叔母に何かを話している。
「ええっ、け、警察ぅ?!」
親戚一同や親しいご近所さん総出で玄関へと猛ダッシュ。なんや、なんや!
「大阪府警の薬物対策室の吉田といいます。奥さん、以前、隣の坂崎さんから植物の種をもらったことありませんか?」
初めて見る警察バッジを眺めながら叔母がビックリした顔で答える。
「はぁ、もろたことはありますけど……。それがなんですのん?」
「ええ、その種ね、実はケシの種ですわ! それに“ソムニフェルム種”っちゅうて、栽培したらアカンのですわ!」
「はぁ? ソ、ソムニフェ……って? なんのこっちゃ!」
「奥さん、落ち着いて聞いてね! この2日くらい前にこのあたりのエリアを受け持ってる生活衛生室薬事課の担当者が、坂崎さんの玄関先で、ケシの花の鉢植え見つけたんですわ! それでお話聞かしてもうたら、近所の人にぎょうさん配ったって……」
そうやったんか、どこかで見たことがあると思ってたけど、阿片窟のドキュメンタリー番組で見かけた花や。
そら、アカンわ! すぐにでも焼き払わな!
「そうやねん、坂崎さんの奥さん、花咲かせるのうまいのよ~! 蘭かて、月下美人かて、咲かせはるんよ!」
「えっ?!」
「で、なんやのんな、植えたらアカンって」
「いや、だからね、奥さん! 麻薬の原料になりますねん!」
「ワタシら、麻薬なんか作らへんわな。そんな極悪人は、ここらへんには住んではらへんよ!」
語気を荒げた叔母、なんや花のことになったら元気やんか! 大阪のおばちゃんやん!
「奥さん、そういうこととちゃいますねん! このまま植えて花咲かせはるとね、“アヘン法”っちゅうのに引っかかりますねん! どこに植えてはるんですか? 失礼します!」
制服警官、作業着を着た保健所の職員を連れて、ズカズカと叔母の家に上がり込む警察一同。
「うわぁ、これはスゴいわ! 八重咲のケシもあるね、これは……」
「キレイやろ? もうちょっと種もろて、増やしたろうと思てるねん!」
「いやぁぁぁ、奥さん、せやからこれは全部ウチで回収せなあきませんねん!」
「はぁ?! なに言うてんのん! お花が罪犯したんか? 花は法では裁けへんねんで!」
賢いのか、バカなのか、わからないやりとりはずっと平行線のまま。経を中断した坊主は所在なさげに茶を啜っている。
町内会長の奥さんが割って入り、なんとか説得し、事なきを得た。
もう種は配ってないですよね、奥さん
軍手をはめ、何らかの検査薬を縁側に広げ、物々しい雰囲気の中で、警察の伐採、回収が行われる。
根ごと引き抜かれたケシの花は十数本。様々な種類もあるようだ。
「切り花一本くらい置いていってぇな」
「あきませんて!」
「あっ、ちょっと枯れてきた切り花、今朝ゴミに出してしもうたわ」
「ホンマですか! あ~あ……。ごみ収集車に連絡入れなあきませんわ」
そこに加勢してきたのは、薬局経営の坂崎さん。
「一本ぐらい、残してくれてもええやないの!」
「アカンって言うてますやん!」
「花、可哀そうになぁ~。成仏できんわぁ~」
「もう黙っとってください! 他には配ってないですよね、坂崎の奥さん?」
「ちょっと待ってや……。あっ、横浜のいとこに種送ったん忘れてたわ!」
「(一同)ええええぇぇぇ~!!」
後日分かったことだが、このエリアの土手などにはケシが自生していて問題になっていたらしい。
おばちゃんたちは処罰対象にはならなかったものの、厳重注意を受けた。
花に罪はないが、やはりキレイな花にはトゲがあるということか。
(C)写真AC