
不思議なアイドルだった。
泣かない、感情を高ぶらせることもない、かわい子ぶるところもない。
けど、歌唱力は抜群、そしてみんなから慕われ、愛された。
2017年12月末日、元アイドリング!!!リーダー、遠藤舞が芸能界を引退した。
彼女がデビューしたのは、2006年10月のこと。
フジテレビの番組で結成されたユニット『アイドリング!!!』のメンバーとしてだ。
芸能界に入ることなどまったく考えていなかった女子高生が、渋谷のハチ公前でスカウトされ、わずか2週間後にはアイドリング!!!のオーディションに合格したという。
運命の歯車というのは、どこでどうかみ合うかわからないものである。
2009年、そんな彼女は、アイドリング!!!のリーダーに就任する。
最大時で20人以上いたアイドルを束ねるという難しい役割。菊地亜美、朝日奈央など、現在もテレビで活躍する個性的な面々も顔をそろえていた。
学級委員もやったことがなく、一人っ子で、リーダーには向いていない、と自分では語っていたが、活動を見ていた限りでは、彼女ほどメンバーに慕われ、存在感のあったリーダーはいないように思える。
彼女がリーダーたりえた理由、それは彼女のぶれない姿勢にあったのではないだろうか。
若い女の子の集団では、とかく好き嫌いの感情がつきまとう。どんなに仲の良いグループであっても、派閥や仲良し集団ができるものだ。しかし、彼女の周りからは、一切そういった匂いを感じることはなかった。
もともとクールな性格ではあったのだろう。女の子にしてはサバサバとした人間関係を好んだのかもしれない。
決して意識しているのでも無理しているのでもなく、メンバー全員に平等に接していたという印象がある。
そして、それはファンに対しても同じだった。
もちろん、毎回のように顔を出すファンに対しては、顔を覚え、いろいろな話をしただろう。
だからと言って、初めて来たファンや、たまにしか来ないファンに対しても、同様に丁寧に接していた。
それは、引退前最後のイベントでも全く変わりはなかった。
引退を翌日に控えた12月30日、彼女はTwitterでめずらしく心境を吐露した。
「アイドルというのはその成長過程を楽しんでもらうもの」
「私の“芸”の才能が、アイドルの域を所詮超えられなかった」
確かにその通りかもしれない。
ただ、ここにはひとつの矛盾がある。
彼女のようにストイックに、高い志を掲げ、努力を続ける人は、常に“成長過程”にあるとも言えるのだ。
歌唱力にも定評のあった彼女だけに、その歌に心つかまれ、ファンになった人も多いだろう。
一方で、「自分はまだまだ未熟だ」と言って努力し続ける姿に声援を送るファンもまた多かったのだ。
それが彼女の言う“アイドル”であったことが、彼女の中の葛藤を生んだのかもしれない。
“アイドル”や“音楽”というものに、真剣に取り組んだゆえの悩みとも言えるだろう。
今回の引退についても、それを決めた彼女の潔さがかっこいいと思ったし、ラストライブで一切涙を見せなかったことも、引退と同時にそれまでのツイートを全て消してしまったことも、みんなみんな彼女らしいなと感じた。
だから彼女には、感謝の気持ちしかない。
「アイドルになってくれてありがとう」
そんなことを言ったら怒るだろうか。
いや、きっとそれでも笑ってくれるだろうな。
だって、遠藤舞はそういう人だもの。
※画像は、遠藤舞公式Facebookより https://www.facebook.com/MaiEndoOffcial/