誰もが「明日は今日よりよくなる」を信じた時代・高度経済成長期を現代に!菅沼朋香さんの個展が開催中

  by renlie  Tags :  

現代美術作家・菅沼朋香さんの個展が、恵比寿のギャラリー『OVER THE BORDER』にて開催中だ。

菅沼朋香さんは、現代の過剰な大量生産・大量消費の風潮を否定し、高度経済成長期を愛するアーティスト。高度経済成長期は、戦後の復興を経て東京オリンピックや大阪万博が開かれ、日本が元気になっていった時代。作れば作るほどモノは売れ、「サラリーマンは気楽な稼業」言われていた。バブル崩壊後、不況の続く日本に育った世代からは想像しがたいだろう。

菅沼さんは、そんな高度経済成長期を様々な角度から分析し、新しいライフスタイルを提唱している。6月17日から開催中の菅沼さんの個展に伺い、インタビューした。

リーマンショック後の広告代理店で馬車馬のように働く日々を経て、アーティストへ

菅沼さんは、1986年愛知県生まれ。小学1年生の頃にバブルが崩壊しており、高度経済成長期を直接知っているわけではない。それどころか、広告代理店の営業として働き始めたその年にリーマンショックが起きている悲劇の世代である。会社では朝7時半から深夜まで働き、週休二日なんて夢のまた夢だったという。上司は「景気はきっと回復するから今を耐え忍ぼう」と言うが、好景気を経験していない菅沼さんには全く現実味がなかった。精神状態は悪化するばかりで、出社すると涙が止まらなくなるような日もあった。

そんなある日出会った、昭和の高度経済成長期の世界。ベルベットのソファーやアールデコの棚など、ゴージャスな内装でありながら1杯350円の珈琲で何時間もおしゃべりできる『純喫茶』に行ったのが始まりだった。現代とはかけ離れた経営システムと、ゆったり流れる時間。激務に追われる日々の真っ只中にいた菅沼さんは「私は昭和欠乏症だったのかもしれない」と感じたという。

そこからはひたすら昭和の世界にのめりこんでいき、やがて高度経済成長期を「あの頃はよかった」と思うだけで終わらせたくないと思うようになった。懐古主義ではなく、過去に倣って今の時代をよくしていきたい。そのためには影響力が必要だ。そう考えた菅沼さんは、高度経済成長期への追及を趣味ではなく美術作品として昇華しようと考えるようになったという。
2015年には東京藝術大学の大学院に入学。彼女の作品は華やかでかわいらしいものが多いが、切実な現代に向けた願いが隠されているのだ。

ポスター、人形、映像、屋台まで…表現手法はなんでもあり!

個展に訪れて驚いたのは、その作品の多様性だ。昭和風のポスター、ブロマイド、ソノシート、屋台、腹話術の人形。これまでの自分の歩んできた人生をアーカイブとして振り返る映像も上映されているし(街頭テレビで!!)、彼女が作詞・作曲した歌を歌ってくれることもある。「高度経済成長期のよさを表すことができれば、表現手法は問わない」という。

幻を売る屋台

中でもひときわ目を引くのが、屋台だ。その名も「まぼろし屋台」。「高度経済成長期の幻を売っているんです」と笑顔で話す菅沼さん。レコードからは、昭和歌謡が流れる。屋台がまぼろしなら、お代もまぼろし。お金はいらない。この屋台を引いて、全国各地へ出かけ、老若男女問わず様々な人々とのコミュニケーションが生まれた。

腹話術人形のぴぃちゃん

腹話術人形のぴぃちゃんもいる。ぴぃちゃんは、インドネシア出身、5歳のオウム。菅沼さん宅に来る前は巣鴨のスナックで飼われており、お客さんの歌うカラオケで演歌や歌謡曲が大好きになってしまった。…という設定。首からはボトルキープのタグで作られた名札を下げており、「ぴぃ」と書かれている。型紙からおこしてすべて自分の手で作ったそうだ。腹話術の人形として、パフォーマンスにも使用される。

新しいライフスタイルの提案

もうひとつ、個展に来たらぜひ手に取ってほしいのがピンクの『作品解説』。昭和の映画のパンフレットのような見た目だが、非常に読み応えがある。菅沼さんの高度掲載成長期との出会いと作品づくりに至った動機、提案したい新しいライフスタイルについて。新しいライフスタイルとは、たとえば四季を感じながら、色とりどりのファッションを身に着けること。年中行事を意識しながら、旬の食材で料理をすること。世代を超えたコミュニケーションを生み出す歌謡曲を作り出すこと。高度経済成長期にあって現代にないものを丁寧に分析し、現代をよりよくするための提案が随所にちりばめられている。

気になったら、ぜひ一度個展へ

毎日の仕事に疲れている人、これからの人生を前向きに生きてみたい人は、ぜひ一度個展に足を運んでほしい。誰もが「今日より明日はよくなる」と思えるヒントが、きっと隠されている。

<菅沼朋香個展 幻 -fantasy->
開催期間:2017年6月17日(土)~7月30日(日)12:00~20:00(月曜休廊)
※菅沼さんは、7月19日(水)にアーティストトーク&ライブパフォーマンスを予定。
会場:OVER THE BORDER http://artlab.stitch.co.jp/gallery/
住所:東京都渋谷区恵比寿南1-3-6 CIビル4F
最寄駅:東京メトロ日比谷線恵比寿駅5番出口より徒歩1分/JR山手線恵比寿駅西口より徒歩3分

写真は林ユバさん、著者により撮影

renlie

歌手、朗読家、女優、作詞家、ライター、お菓子作家。 人の心が静かに痛む時間「深夜」が好き。 張り詰めた世界観の中で吐く歌は、哀願のような独特の色気を持つ。 語る声は、見た目から想像する声の3倍低いと言われ、嘘も本当に聞こえる不思議な説得力がある。 深夜をテーマにしたお菓子ブランド「夢見菓子」のお菓子作家でもあり、アルコールやスパイスを使ったお菓子を開発している。 ライターとしてはカフェ・お菓子・パンについての記事が多い。

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