退職勧奨という言葉を聞いたことがあるだろうか。”勧奨”というのは、要するに”オススメ”すること。つまり退職勧奨とは、企業が社員に対して、「退職をオススメすること」だ。解雇と違って、強制力があるわけではないのがポイント。お寿司屋さんで、「今日のオススメはマグロだよ」と言われるのと、基本的には一緒である。しかし、職場で退職勧奨が起きる場合、事はそう簡単ではないようなのだ。
今回、前職で会社から退職勧奨を受けたKさん(20代・男性)に話を聞いた。Kさんは、現在都内の企業で正社員として働いているが、前職は東北地方の社員100名程の、地元では名の通った不動産会社で、営業職として働いていた。「あれから6年近く経ちますが、今だに結論が出ないんですよね。どっちが悪かったのか。自分が悪かったのか、それとも会社が悪かったのか…。たぶん一生、考えていくんだと思う」Kさんが退職勧奨に遭ったのは、新卒としてその不動産会社に就職して、1年と5ヶ月目のことだ。詳しく話を聞いてみよう。
■”うつ”の診断を受けたKさん
「とにかく、すごく忙しい職場でした。徹夜することもあった。残業代は出ないんだけど、夜食費として1日千円まで支給されるんです。よく同僚と会社近くの牛丼屋に行って、ご飯を食べて領収書を切ってましたね。社風は、いわゆる体育会系。最初の上司は特に厳しくて、女の人だったんだけど、企画書を持っていったら、その場でろくに見ないでゴミ箱に捨てられたこともあった」
Kさんは、忙しく働く中で、体調を崩してしまう。「とにかくクタクタに疲れて家に帰るんだけど、ある時、体が動かなくなったんですよ。mixiでそのことを書いたら、当時のマイミクの人が「”うつ”じゃないか。病院いったほうがいい」ってアドバイスをくれたんです。それでも、しばらくは頑張って会社に行ってたんだけど、ある日、起きられなくて、上司が家まで来たことがあった。そんなこともあって、本格的に会社を休み始めたのが6月です。その時は、「また戻ってこい」って職場の人もすごく優しい感じだったし、自分も当然、戻るつもりだったんですけどね」
■休職中にきた部長からの連絡
医者から「3ヶ月間は会社を休みましょう」という診断書も貰っていた。体調が回復すれば当然職場復帰できるものだと、Kさんは思っていた。しかし、休職してから2ヶ月が経った頃…会社から連絡が来たのである。「うちの営業部の部長から「話したいことがあるから」と喫茶店に呼び出されたんですよ。店の前で待ち合わせたんだけど、部長と、人事部の人が待っていた。「最近どう?」っていう、病状や近況を聞かれるんだろうと思っていたんだけど…。すごく言いづらそうにしていたので、まさかと思った。
「辞めてもらいたい」
と言われました。すごく驚きましたよ。部署異動の可能性についても聞いてみたんですが、駄目だった。「もう決まったことだから」と。本当だったらもっと言い返せたと思うんだけど、当時は病気で頭がうまく働かなくて、最終的には「会社都合にしてやるから」と言われて、受け入れるしかなかった。その時、もう自分は、終わったんだなって思った。会社員として…。欝になって、会社を追い出されて。
今でも覚えてるんですけど、部長から「君はうちの業界に向いてないよ」と言われたんですよ。でも向いてないって、なんだよ。くそくらえって思う。向いてるからやるとか、向いてないからやらないとかじゃないよ」
■退職当日に社長に呼び止められ…
喫茶店でKさんが退職勧奨を受けたのが8月半ば。退職の期日として提示されたのが8月末。2週間しかなかった。「8月末に、最後の出社をしたんですよ。社長室に「辞めます」と挨拶にいったら、やけにニコニコしてたんですよ。「お疲れ様、次でもがんばってね」って、すごく…ニコニコしてたんですよねえ。それを、良く覚えてますよ。
荷物をまとめて、PCを落として帰る前に、みなさんに退職の挨拶のメールを送ったんですね。その時、私、『この度は自分の力及ばず、解雇となりました』って書いて、全社員宛てに送られるメーリングリストに送信したんです。『解雇されたことを暴露をしてやろう』とか、そういう気持ちはなかったし、『解雇』っていう言葉の意味も、良く分かってなかった。でも、そうしたら、エレベーターでたまたま会議帰りの社長と一緒になったんですけど、すごく怒られたんですよね。『あのメールはなんだ。解雇じゃない。恩を仇で返すようなことをしやがって』と、エレベーター降りたところで、15分ぐらい、説教されましたよ。私、両手に荷物を持ったままでした。(増田→でも実質、解雇ですからねえ)きっと、あんなに怒ったのは、後ろめたい所があったからだと思う」
企業が退職を”オススメ”する理由は様々である。景気が悪くなったから。業績が悪化したから。思うように社員が働いてくれなかったから…。ただひとつ確かなことは、企業で働く会社員である以上、「自分は関係ない」とは決して言い切れない、ということだ。あなたも、もしかしたら明日”退職勧奨”されてしまうかもしれない。どう思います?
著者ブログ(http://d.hatena.ne.jp/shanaineet/)