【スペインの外国人】78歳で移住した未亡人

  by 吉原 久美子  Tags :  

テルコさんは77歳で未亡人になってスペイン移住を決心しました。
娘と孫が住んでいるところに行くと決心しただけで、あまり海外に移住するということは考えていませんでした。
たまたま、海外に娘と孫が住んでいた、それだけだったのです。にもかかわらず、皆さんから『勇気がある。』とか『よく決心しましたね。』と言われるので、その度に何か間違いをしでかしたような錯覚に陥るのでした。

ビザというものが何かもよくわからず、初めて警察に指紋捺印をしに行きました。無犯罪証明書なるものが必要なのだそうです。それから健康診断書が必要なので27年ぶりに病院に行きました。テルコさんは医者が大っ嫌いなのです。どうせ悪いところが見つかっても検査とかするだけで解決することはないと思っているのです。実は悪いところがいっぱいあってもうどうしようもないけど、静かに娑婆で暮らしたいと思っていたのです。ですから、健康診断のためとは言え、実は行くのが嫌でした。『あなたの心臓は虫の声のように小さく音を立てているだけです。』と医者は言うにちがいないと信じていたのです。

そして年金をスペインで受け取るために三井住友銀行に口座を作って国際カードを申し込みました。そして78歳にして初めて飛行機に乗ったのです。飛行機はアムステルダムまで14時間、アムステルダムからマドリッドまで3時間くらいだったでしょうか。ずっと眠っていたので気づいたらアムステルダムでした。

テルコさんは山口の家を売ってアンダルシアの小さな村でプールのついた小さなアパートを買いました。居間の窓からプールが見えます。孫たちが遊ぶ姿を見るためにこのアパートを買ったのです。
このアパートはだいたいマドリッドに在住している人がバカンスを過ごすためのものなので夏以外はとても静かです。庭にもほぼ誰もいません。ですから夏だけプールの周りに人がいます。

テルコさんは孫が来てるかもと思って窓を開けるたびに叫びます。

『わっ、外人だらけや!』

外人は、つまりその、テルコさん、あなたです。
10年住みましたがそれでもまだどうしても慣れません。夏になるたびに外人だらけやと叫んでいます。

時々、知らない人が訪ねてきます。お祭りのための寄付を頼みに来る教会関係の人や市役所の人、お隣に荷物を持ってきた人などなど。
そしてテルコさんがドアから出てくるとやっぱりびっくりします。

『失礼な!まるで外人を見るような目で私を見ておる。』

田舎で普通に生活していてドアをノックしたら中に外国人がいたらやっぱりびっくりしますよね。

そういう感じでテルコさんはスペインで生活しています。今年の夏はオリンピックだったのでスペイン放送でも結構楽しんでいるようでした。

写真・筆者撮影

スペインに住んで17年になります。 現在 日本人の全くいない 天本英世さんの灰が眠っている カソルラ山脈の麓の村に住んでいます。 夫はマドリッド出身のスペイン人。 子供は3人。 そして母は92歳まで13年間を私と一緒にスペインの生活を楽しみました。 コンセルバトリオのヴィオラの学生でした。アンダルシア認定調理師

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