7月24日、日曜日の夕方、リンカーンセンターに多くの熱気を帯びた人達がいた。夏の暑さだけでなくそれは宝塚OGのシカゴニューヨーク公演を観終えた人達だった。
リンカーンセンターで夏に開催されるリンカーンセンターフェスティバルに宝塚OGのシカゴが今年招聘された。このリンカーンセンターフェスティバルは文化交流的な意味合いも含み、芸術・文化の最高レベルが集まるニューヨークの目の肥えた観客たちに、世界中から魅力的とされるパフォーマンスを探して紹介すると言ったところだろうか。それに今年この宝塚OGシカゴ公演が選ばれたのだ。興業的に売り上げをあげる目的ではないにしても、このシカゴ公演はほぼフルハウス状態の公演だったので、収益も相当なものだったのではないだろうか。
フェスティバル側からのニューヨーク公演に際し粋なリクエストは、ただシカゴを公演するのではなく、公演後いかにも宝塚の華やかな舞台も見せてほしいと言ってきたことだ。大きな羽の艶やかさを是非観客に見せてほしいとリンカーンセンターフェスティバルの責任者が申し出た。
私は初日に観て、どちらかというと『お手並み拝見』的位の気持ちで見たのだが圧倒された。シカゴも良かった、しかし観客の盛り上がりは宝塚アンコールと名付けられたレビューのショーだった。シカゴもノリノリの観客がレビューから熱狂に変わった。
シカゴ主演の3人が日本語でシカゴ終了後、シカゴの殺人の題材とは全く異なる、本来の私たちの宝塚のショーを皆様にご覧いただきます...と挨拶して、このホールはオペラも上演されるのだが、舞台の天井近くに字幕が映されるため元宝ジェンヌは日本語で話を進められるのである。また変に英語で話すよりこっちの方が逆に威厳があるというものだ。
会場はいきなりレビューの世界で、ミラーボールの明かりが全体をかき回す感じで、スポットライトの多くが会場を俊足移動で、観客が舞台に立つ錯覚すらある。舞台にはオレンジの羽と白と黒のコントラストが愛らしく華やかな衣装で歌と踊りが始まり、途中から通路に同じ衣装の宝塚OGが踊りだすと、周りの観客の興奮状態が手に取るようにわかる。最初に会場にパフォーマーを取り込んで、観客の心も鷲掴みにした。
舞台に大勢のパフォーマーがダンスをし、ラインダンスでセクシーというより愛らしく上品で可愛らしい歌と踊りを披露。後に『マンボNo.5』でノリノリの空気で冷房のキツイ会場ですら気温が少し上がるくらい。
いきなり照明が暗くなり舞台では大人の雰囲気。ここで一気に空気が変わる。『Sotamente Una Vez』のスペイン調の情熱的なスローテンポに男装の麻路さき登場で喝采、そして大和悠河が登場、更に喝采、数秒遅れて水夏希登場で役者は揃い3人でスローバラード。女性陣のスタイルの良さとしなやかな動き、また衣装の質とあつらえの良さがオペラグラスを通すと更にわかる。
次はタンゴの『El Tango de Roxanne』帽子をかぶった男装の姿月あさとのスタイルの良さ、一つ一つの動きに芸術性があり思わず見とれてしまう。これまたスタイルのよい湖月わたるはセクシーだけど上品なタンゴを披露。タンゴは普通情熱的なダンスを男女で踊るものだが、宝塚は兎に角凄い、男女のタンゴが汚らしく思える程、美しく神がかりであった。
スペイン、アルゼンチンと音楽が移り、舞台ではスタンダードなフランク・シナトラの十八番『That’s Life』。杜けあきの独唱、この迫力、声の伸び、大きさ、節回し、どれをとってもケチのつけようがない。まさにエンターテイナー、芸術に厳しいニューヨーカーも虜にする歌唱力。後にダンサーも加わり歌だけでなくパフォーマンスも楽しめる。
舞台は夜のイメージから一転、ロキシー役で観客の心をつかんだ朝海ひかると当日は出演していなかったヴェルマ役の和央ようか。『宝塚に栄光あれ』を羽のようにひらひらする真っ白な衣装で蝶のように舞台を軽やかに飛び回る。和央ようかのスレンダーな肢体は見ていて清々しい。おなかが見える衣装でも品があり、おへそも見えていると言うか見せているのだが、どのように若さと肌の美しさを保っているのだろうかと不思議に思いながらオペラグラスがおへそがとらえていた。
『宝塚わが心のふるさと』は初日にビリー・フリンを演じた峰さを理。舞台に立つと大きく見えるし、また声の響きが会場に染み渡るような歌声。まさに舞台向け。後に燕尾服を着た出演者が続々登場で、舞台は言葉に出来ないほどのカッコよさ、燕尾服の仕立ての良さに程よいスパンコールの光、この品の良さはなんなんだと夢心地。
舞台狭しとさっきまで女性の衣装を着ていた女性たちも燕尾服に、一気に男に変わっている。
宝塚の魅力は女性が男を演じる特異性だと思うし、ただそれだけでなく40人しか通らない宝塚音楽学校に入学し、スパルタ教育で歌、ダンス、また日本舞踊や三味線、お琴などを学び、礼儀作法、先輩、後輩の上下関係を2年間きっちり学び、清く正しく美しくをモットーに宝塚歌劇団に入団することだ。
最後の歌は『すみれの花咲く頃』初風諄(写真の青いドレス、この方以外は皆黒い燕尾服の男装)の独唱、そして写真のように燕尾服たちが舞台を埋め尽くし、白い羽をそれぞれが持ち、千秋楽の最後の最後の舞台に当日のビリー・フリン役の姿月あさとを中心にその右にヴェルマ役の湖月わたる、そして左側にロキシー役の朝海ひかる。湖月わたるは10分ほど前セクシーな衣装でタンゴを姿月あさとと踊っていたのに燕尾服では完全に男になっていて、その変わり身のプロに驚愕!
そして何より背中の羽の大きさに圧倒される(因みに写真は初日のもので左から朝海ひかる、ひときわ派手な羽の峰さを理、そして和央ようか)。
アメリカのメディアも多く取り上げ、イギリスのガーディアンも記事に載せており、アメリカのみならずイギリスまで注目!
宝塚OG公演は、もしかしたらラスベガスも可能かな?と思えた。私はかなり前だがパリのムーランルージュでレビューを見たことがある。素晴らしかった、まさに夢の世界。でも、夢の世界が宝塚にあったことをここニューヨークで知った。公演後拍手鳴りやまずカーテンコールを終えた後も観客がずっと残り、歓声を上げている。結局10分近く歓声は続いたが、場内アナウンスで「公演はもう終了しました」で、ようやく席を立つ人々。
ニューヨーカーがあれほど熱気を持ちアンコールを熱望。きっと微かに聞こえる会場の歓声を上演者たちは泣ける程嬉しく思っていたと思う。
まさに宝塚に栄光あれ!
画像:flicer from YAHOO!
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